第17話 東雲家の執事こそ、最強にふさわしい

 さてと、ティータイムも終わったことだし、当初の予定通り未来でも見に行きますね。っていうか、未来を見てどうやってシステムのバグを見つけるわけ?と、聞いてみる僕。


「正確にはシステムで見るのは未来ではないわ。システムと現実のズレがいつから発生したかを特定するために、まずはシステムで過去を遡りましょう。至近から追っていって自分の記憶と同じ場面に行き着いたら、そこがターニングポイントね」


 あー、そういえば過去も見れるんだっけ。普通は誰も見ないと思うけど。


「なるほど、沙織の事件が本来発生しないものであるなら、僕が見るべきは、最後に沙織を見た日から前になりますね」


 早速DSシステムがある部屋に向かう僕たち。部屋は広くて本棚が一杯ある。良く見たら結構漫画も置いてあるし、ドリンクサーバーもある。部屋の奥には更に小部屋が五つあって、その中にシステムの筐体が入っていた。


「別の部屋でカラオケとビリヤード、ダーツも出来るわ。基本パックは一時間からで、後は30分毎に料金が自動で加算されるシステムよ」


「漫画喫茶じゃん」


 愛手波さんって結構冗談言うよね。


「前にも少し触れたけど、DSシステムで過去や未来を見る作業って、退屈なのよ。

気を紛らわせるために、システム立ち上げ後から暫くして改造したと伝えられているわ。稼働が安定してからは、ただのレクリエーションルームと化しているけれども」


 いや、先代、絶対仕事する気ないじゃん。カラオケとか完全に公私混同してるし。さては陽キャだな?

 とはいえ、実際の所、確認作業にどれくらい掛かるか分からない訳で、僕は先代の意向に従って暇潰しのための本を選ぶことにする。とりあえず適当に漫画を選んで、ドリンクサーバーで炭酸水を出して小部屋に向かう。


「夕食のタイミングで呼ぶから、一先ずそれまでお互いチェック作業を行いましょう」


「ターニングポイント見つかるまでどれくらい掛かりますかね」


「分からないわ。最悪、沙織が生まれた瞬間からズレてる可能性もあるし。気長に行きましょう」


 マジで?いつ帰れるんだろ。流石に1週間くらいで帰りたいなぁ。アパートのガスの元栓とか閉めてないぞ。急に不安になってきた。


「安心して。水道やガスの元栓は閉めたし、冷蔵庫に痛むような物も残してないわ。着替えも執事が適当に用意してくれるし」


 お母さんかな?愛手波さん、有能なのは分かってるけど、事前にスケジュール感は教えておこう?


 そんなこんなで、DSシステムによる過去の確認を開始した。手始めに沙織がいなくなった日の朝を確認したところ、システム上では沙織はいたし一緒にブドウ狩りもしていた。ifの世界を見てるみたいでちょっと面白い。もう少し遡ってみて、遊園地における沙織の逆プロポーズを見てみる。僕があやふやに言い訳してることは一緒だが、若干セリフが違う。この辺りは当然と言えば当然か。

 沙織に関して、現実とシステムのズレが生じた可能性は大きく三つあると僕は考えている。

 一つ目は、沙織を生むに当たって両親が指定したと言われている条件が複雑過ぎて、どこかでシステムが間違えた。あるいは条件の入力作業を間違えた。

 二つ目は、計算も入力も間違っていないが、最終的に遺伝子を決定する際、選択作業を間違えた。

 三つ目は、これは信じがたい事だけど、沙織が死ぬまでの間に起こした何らかのアクションが、システムの計算外だった。


 いずれにせよ、地道に遡ってみて手掛かりを得る必要があることは変わらない訳で、その後も僕は確認作業を続ける。漫画を読みながら適当に。結局一日目に見た過去は全て僕の記憶とズレが生じていて、ターニングポイントを発見することは出来なかった。



「愛手波さんの方はどうでした?僕の方は半年見ましたけど、収穫なしです」


 夕食を取りながら、状況報告を兼ねて聞いてみる。


「考一君、早いわね……。私の方が見る量は全然少ないはずなのに。まだ2ヵ月しか確認できてないわ。ごめんなさい。沙織が写ると、つい見いってしまって」


 まぁ、それはしょうがない気はする。愛手波さんにとってまだ十分な心の整理が出来ていないということなのだろう。昔のアルバムをじっくり見てるような物だ。


「未来が変わったポイントは僕が見つければ良いので、愛手波さんは他に気になる点を注意すれば良いと思います」


「悪いわね。君を連れてきて良かった」


「いえ。恩に着なくて良いです。これだけ美味しい物が食べられたら、むしろ貰いすぎだ」


 実際、今食べてる食事は相当美味しい。DSシステムによる過去の確認を終えた僕らは一度大浴場で汗を流してから大広間で落ち合うことにした。僕は先にお風呂から上がっていて、少しあとに愛手波さんが広間に入ってきた。すると、一瞬目を閉じた隙にいつの間にか食前酒と前菜が置かれていた。コースの詳細が書かれた紙も置かれている。なになに?「合鴨と明石蛸のサラダ ~陸と海の共演による饗宴~」意味分からんがめっちゃ旨い。そのあとも僕と愛手波さんが食べ終わって僕が目を瞑った瞬間にいつの間にか次の皿が置かれていた。どれも和洋折衷の創作料理のようで、食べたことないのだがとにかく旨い。いや、普通に出せば良くね?

 夕食後、愛手波さんの部屋に戻ったら僕の分の布団が準備されていた。これもう完全に旅館だよね。支配人どころか従業員の姿も見えないけど。料理を誉めたお陰か、心なし執事からの敵意の雰囲気が消えている気もする。


 一日目が終わり二日目も収穫なしの三日目。僕は早速漫画に飽きてきて、別の暇潰しを探すことにする。だって漫画のチョイスが古いんだもん。大体読んだことあるんだよなぁ。とか思いながら本棚を見ていると、ふと一冊の本が目に留まる。


 【Destiny Slave system ; Logical Encyclopedia】


 なにこれ?運命の奴隷?もしかしてこれ、DSシステムの事か?確かDSはDaily Salvationの頭文字で、日々の救済的な意味だったと思うけど。まぁ、僕にとっては運命の奴隷の方がしっくり来るけどね。今までの愛手波さんの感じから言って、バグの原因が分かるまで帰れない気がするから一応読んでおくことにしよう。ぶっちゃけこの生活、全然悪くないけど。

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