第16話 腐女子だけど美人ならOKだよね?

 チュンチュンチュン。窓の外ですずめが鳴いている。全く清々しい朝だ。例によって朝チュンではないし、何なら昨日は遅かったからもう大分良い時間だけど。

 トントントン。台所から愛手波さんが何かを作ってる音が聞こえる。前回に続いてタイミングが良いというか、多分その音で起こされてる。


「おはようございます。僕たち、何だか夫婦みたいですね。げへへへ」


「おはよう考一君。今日の朝は和食で攻めてみたわ」


「ねぇねぇ、ボケをスルーするの、止めよう?」


「アラサーに堪える冗談は止めなさい。その気になるわよ?」


 確かになぁ。28っていったら、焦り出す年なのかもなぁ。愛手波ちゃん、がんばえー。


「いやいやルックスとか生まれとか今の仕事を総合的に判断して、選り取りみどりじゃないですか。っていうか、沙織よろしく婚約者がいるのでは?」


「いたのだけれども、その人とは縁がなかったのよね。私の例があったから、沙織の時には詳細に条件を設定したとも言えるわね」


 朝食は鮭の塩焼きと納豆、目玉焼きにワカメご飯。たんぱく質多くね?っていうか、トントントン、って音は何から出てたの?美味しいから良いけど。

 さて、ご飯も食べたし、平日だし、大学でも行くか。愛手波ちゃんも自分のお家に帰りな?


「考一君、あなた一体どこへ行くつもりなのかしら」


「そりゃまぁ、学生ですから、大学行きますよ?」


「ダメよ」


 ダメなの!?


「まだ、DSシステムのバグの問題が片付いてないわ。それが分からない限り、本当の意味で沙織の死の真相を理解したとは言えない」


「確かにそうですけど、それは国の仕事ではないですか?」


「ええ。国の、もっと言えば、東雲の。つまり私の仕事よ」


 え~?仕事休みじゃなかったんすか~?っていうか、僕がいる必要あるんすか~?


「まずはDSシステムで未来を確認しようと思うの。知っての通りシステムの使用が許可されているのは自分の未来に関してだけだから、時間の節約と多面的評価のために、沙織と関係が強かったあなたの協力は不可欠だわ」


 なにその説得力。普通に納得しちゃったじゃん。しょうがないなぁ。うん、ぶっちゃけ大学なんていつでも卒業できるし、DSシステムの詳細を知る良い機会かも知れない。乗るしかない、このビックフローに。


 DSシステムは日本全国各地にあるけれども、子供を作る予定の夫婦の使用が殆どで予約制になっているため、普通は自由に使えない。愛手波さんによると全てのDSシステムを統括しているマザーシステム及び複数のバックアップが東雲の本家にあるらしく、愛手波さんにはそれらを使う権限があるらしい。僕たちは東雲家に向かうことにする。っていうか本家ってなんやねん。分家があるの?

 愛手波さんの車に揺られて二時間程で、東雲家に到着する。中央院さんの家と違ってこちらは和風テイストだ。中に入る際、手相と虹彩と声によるトリプルチェックが行われた。ちょっとカッコいい。DSシステムのマザーがある位だから、これくらい厳重なのは当たり前か。


「ここだけの話、システムに害を及ぼすような行為は重犯罪に認識されてるから、そもそもここを攻めてくる人間は存在しないのだけどね。ただの雰囲気よ」


 ズコー。実際、愛手波さんに続いた僕は普通に入れた。意外とガバガバだな!システムが置いてあるとはいえ普段人が住んでる訳だし、そりゃそうか。あれ?もしかして。


「親は仕事で殆ど帰らないから安心して」


 男なら一度は言われてみたいセリフ、ありがとうございます。


「いるのは執事だけよ」

 

 執事いるんかい!

 それはともかく、正直、どんな顔して沙織の親と会えば良いのか分からなかったから、いないに越したことはない。親からすれば、僕は憎しみの対象だろうしね。


「運転で疲れたし、一休憩しましょうか」


 との事で僕らは愛手波さんの部屋に行く。部屋に入った途端、紅茶の良い匂いがした。テーブルには淹れたての紅茶とショートケーキが置かれていた。え?執事の気配とか一切しなかったんだけど。ここまで誰にも会ってないし、愛手波さんも全く連絡取ってなかったですよね。当たり前のようにケーキ食べ始めてるし。これが日常なの?東雲家の執事は忍の者なの?


「うちの執事は、強いわよ」


 知らねぇよ。闘う気もねぇし。実家の自室だけあって大分リラックスしてるご様子の愛手波さん。それにしてもこの部屋……。


「恥ずかしいから、あまり部屋を見ないで貰えると助かるわ」


「いや、ここまで来ると信念を感じるというか、うん、素敵?だと思います」


 なんか良く分からんアニメのイケメンキャラのフィギュア、ポスター、漫画にDVD、抱き枕まで何でもござれ。うん?あれ、BL本か?普通に置いてんじゃないよ。この人結婚できない理由、完全にこれじゃん。理想を抱いて溺死してるじゃん。


「ただ、あんまりその、こういう趣味があるってことを異性には言わない方が良いというか、僕くらいの器がないと無理っていうか」


「考一君、それは違うわ。私の趣味を理解できない相手と結婚したところで、決して上手くいかないもの。むしろ積極的に言うわ」


 確かに。一瞬キャラ崩壊というか、軽く幻滅しかけたけど、それはそうかも知れない。ありのままの自分を理解してもらう。無理なら他を探す。システムによって結婚出来ることが確定しているのだから、妥協しない方が良いわな。


「流石ですぞ、お嬢様!粋がるなよ、小僧」


 ……なんか、執事の声だけ聞こえたんだけど。え?もしかして、この家にいる間ずっと見張られてるの?しかも敵意剥き出しだし。せめて一回くらい姿見せろや!

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