第15話 陰キャにラブコメは難しい

 結局、沙織は自殺だった訳で中山敦は犯人ではなかった。従って中山敦が中央院さんにボコボコにされることもなかった。いや、既にボロボロだったけど。もしかして僕がボコボコにされるのでは?という懸念の声が上がっていたけど、中央院さんが僕を責めることはなかった。次の来客がある、とのことで、僕たちは中央院亭を後にした。帰り際、執事さんがお土産にスイーツを持たせてくれた。執事さんマジ有能。愛手波さんには悪いけど、最近のトレンドは家政婦より執事だぜ。

 程なくして僕らは僕のアパートに到着した。ふぅー。ようやく僕の日常が戻ってくるのか。今回の事件はヘビィだったぜぇ。ぶっちゃけ僕はただ話聞いてただけだけど。バイバイ、愛手波っち!とか思ってたけど、何故か愛手波っちは帰る気配がない。ねぇ、帰ろう?ほら、僕も男の子だから、一人じゃないと出来ないこととか、あるじゃん?


「時に愛手波さん、そろそろお帰りにならないのですか?」


「そうね。少し、疲れたわ。こんなに早く解決すると思ってなかったから、会社はまだまだ休み取ってあるし。悪いのだけれども、今晩も泊めてもらえないかしら」


「マジっすか~?うち、何もないっすけど、いいんすか~?」


「今さらじゃない。気にしないわ。それに、今は誰かと話していたい気分なの。そうね、沙織がそこまで好きになったあなたの事を、もう少し知りたい気もする」


 完全に泊まる気じゃん。僕の醸し出す雰囲気にまるで気が付かないじゃん。参ったね。といっても、沙織に関して、本当に僕は何か特別な事をした認識がないから、話す事も特にないのだ。間を持たせるため、とりあえず口を動かす僕。


「そうですねぇ。愛手波さんって、今までどれくらいの男の人と付き合ってきました?」


「5人ね。経験人数という意味で。考一君は男性経験あるの?」


「バレちゃいました?いや、嘘ですよ。目を輝かせないでください」


 腐女子かよ。そこはかとなく、そんなオーラも感じるけども。


「浮気ってしたことあります?」


「ないとは言えないわね」


 ズコー。あるんかい。まぁ、28年生きれてば、そういうこともあるか。


「僕は沙織との付き合いが初めてで、今まで浮気をしたことがないし、しようという発想もありませんでした。というか、そもそも性欲が大してありません」


「そうね。考一君と一緒に居ても、全く危機感が湧かないもの」


 それはちょっと失礼じゃね?


「それが一つの答えかな、と。セックスの最中、僕は常に冷静なので、相手が喜ぶポイントの発見が上手なのです。興奮してないから早く果てる事もないし」


「あの子の体、そんなに貧相だったかしら」


「そういう訳じゃないんですけどね。ここだけの話、僕は初めて見るものにしか興奮しないんです」


「私なら、興奮するの?」


「惜しいですね。昨日お風呂上がりに見ちゃいましたから」


 なんにせよ、沙織が僕に夢中だった理由はそれくらいしか思い付かない。それだって、他人と比較したことがある訳じゃないから、ただの気のせいの可能性もあるけど。


「テクニック云々というよりも、自分本位じゃない、という部分に、愛を感じていたのかなと。お姉さんの前で言うのはあれだけど、ホラ、沙織って男関係色々あったみたいだし」


「君とってそれは、愛じゃなかったの?」


「結局のところ、僕は、僕が沙織にしてあげる事と同じ事を、沙織に期待してましたから。見返りを求めている時点で、それは愛ではないでしょう」


 最中の話で言えば僕は終始攻める側だったから、僕が求める事が実現されたことはなかったけど。そんな事ダサくて言えないし?冷静だから普通にプライドを優先させられる僕は損な性格。


「自分がされて嫌なことを相手にしてはいけない、自分のしてほしい事を相手にしてあげなさいっていう、小学生の道徳みたいな話です。それができる人間が意外と少ないって事なのかもしれません」


 誰でもそうなのかもしれないけど、僕は特に、相手の気持ちや考えを想像するのが苦手だったから、せめてハッキリしている自分の基準だけは守ろうと思ったのだ。それが他人に当てはまっている気はしないけど。


「そういう意味では、僕と沙織の相性は良かったのかもしれません。たまたま、僕のしてほしい事と、沙織のしてほしい事は一致していた。違いは、僕は沙織にそれを与えられたけど、沙織の方は与え方が分からなかったんでしょうね」


 ドンマイ沙織。来世でまた会おうぜ。いや、よく考えたらそれって僕の方が可哀想じゃね?


「……そうね。その責任は、家族である私と両親にあるわ。あなたを疑っていた事、許してほしい。あなたは、何も悪くなかった。お詫びといってはなんだけれども、私なら、考一君が望むことをしてあげられるかも知れない」


「魅力的な提案ですけど、大丈夫です。僕は一方的に貸しを作るのが好きなんです。取り立てもしません」


 そうやってまた僕の小さなプライドが、僕の幸せの邪魔をしてしまう。一体いつになったら、僕は僕の弱さを他人に晒せるのだろうか。一生無理な気もする。



 とかとか、夜遅くまで愛手波さんと雑談して寝る前にふと気付いたんだけど、沙織の未来が変わったのは、詰まるところ、DSシステムのバグということで良いんだっけ?

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