第14話 未来なんか、見なきゃよかった
考一君は童貞を捨てたいって言ってたけど、結局、初デートの日はぷらぷらウィンドウショッピングして、普通に食事をして帰った。私はいつものように奢ると申し出たけど、断られた。別に困ってないからいいって。デート中、考一君は隙あらば私を笑わせようとしてきた。特に面白い事を言ってるわけじゃないんだけど、雰囲気で笑わせてきた。おまけに本人が良く笑ってたので、私もつられて笑った。
帰り際、名残惜しくなった私は意地悪で言ってみた。
「考一君、童貞捨てたいんでしょ?今日、このまま帰っちゃって良いの?」
「んー。僕、一人暮らししてるけど、うち来る?」
「行っても良いよ」
「冗談だよ。僕が童貞を卒業するには、所定の単位が足りてないんだ」
「何それ。何の教科なの?」
「保健体育です。僕は童貞だし、彼女ができたこともないからね。実技が足りてないんだ」
「いつ頃卒業できるの?」
「そうだなぁ。東雲さんがうちに来て4回目の予定だけど。東雲さんは経験豊富そうだから、君から学んで、すぐに追い抜いて見せる」
「意外と早いんですけど。しかも、何気に失礼なんですけど?」
次に会った時にはもう考一君の家に遊びに行ってた。私は、覚悟半分、期待半分だったけど、彼は何もしてこなかった。部屋には最低限の物しかなくて、テレビもなかったけど、どうでも良い話で私を笑わせてくれて、間が持たないということもなかった。
次に遊びに行った時には、布団が一つ増えてた。
「きたる日に備えて、準備を怠らないことが大事なのです」
だそうだ。でも、やっぱり手を出してこなかった。
三回目に遊びに行ったとき、私はチューハイを持っていった。考一君は苦いのが苦手らしくて飲まなかったけど、別に私が飲むのを咎めるわけでもなかった。考一君といると、何だか居心地が良くて、ついつい飲み過ぎて、訳が分からなくなった。急に、色々悲しくなった。全部嫌になって。気付いたら、笑いながら、筆箱から出したハサミでリストカットしてた。全然痛くなくて、むしろ心地よかった。
「それ、痛くないの?いや、痛そうだなぁ。僕の前では、止めてほしいなぁ」
考一君に言われて、我に返った。猛烈に後悔が襲った。これでもう、彼には会えないだろうなって。訳が分からなくなっていた私は、そのまま、レイプの事とか、遊び回ってた事とか、親への不満とか、全部ぶちまけてしまった。もう、どうでも良かった。彼は黙って話を聞いていて、今までならこの後の流れは、慰められるか、怒られるか、ドン引きされるか、その後セックス。そしてもう、会うこともない。でも考一君の反応は、私の予想と異なっていた。
「へー。レイプって現実にあるんだなぁ。物語でしか見たことなかった。親御さんとのことは仕方ないとして、レイプ犯に対してはどうする?警察に相談したりさ。手伝おうか?」
考一君の反応は、なんというか、希薄だった。まるでいつも通りで、全然動揺してなくて、そうであることが当たり前みたいな。感情がフラットだった。
でも、私にとってそれは救いだった。自暴自棄になっていた愚かな私は、初めて誰かに受け入れられたような気がした。
後日、恐る恐る私は考一君に連絡を取った。拍子抜けするくらい、彼はすんなり私と会ってくれた。彼の家に行くのは四回目で、考一君の宣言通り、そこで私たちは初めてセックスした。セックスが、こんなに気持ち良いだなんて知らなかった。
「言ったでしょ?すぐに追い抜いて見せるって。僕は頭が良いから、今日まで色々勉強したのです。やっぱり、中国系の房中術は凄いなぁ。うん、面白かった」
そうなのかもしれないけど、勉強してきてくれたことが、嬉しかった。事後、私は彼と一緒に寝たかったけど、「寝にくいから無理」と断られた。何だか、急によそよそしくなった感じがして、心配になった私に彼は言う。
「男には、賢者タイムってものがあってだな。僕レベルになると大賢者になっちゃうから、その反動は凄いのです。諦めて、明日の僕に期待してください」
そういうものなのかな?でも確かに、私が誘えば考一君は絶対に応えてくれたし、やっぱり、いつも笑わせてくれたし、セックスにも愛を感じた。
彼との関係が一年も続いた頃には、私はどうしようもない位に考一君の事が好きになっていた。でも、好きになればなるほど、不安も大きくなっていった。考一君は私に良くしてくれるけど、彼は私に何も求めないのだ。それに、両親に敷かれたレールの先で、考一君と交わる道があると思えなかった。
そして馬鹿な私は、DSシステムに手を出してしまう。あり得ないと分かっていたのに、確認せずにいられなかった。私は二年後の記念日に考一君にプロポーズしようと思っていたから、その日の未来を見た。分かっていた。分かっていたのに。
未来なんか、見なきゃよかった。
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