第12話 ヤンキーの愛が重過ぎる件

 二人が暴れて散らかった部屋はあっという間に執事さんが片付けて僕たちは何事もなかったかのように各々席に着く。当然中山敦はボロボロだけど。これもまた執事さんが用意してくれた紅茶を飲んで一息付いた所で、中山敦が話を始める。僕はまた追加されたお菓子を食べ始める。うまーい。


「真之助の言う通りだ。沙織を殺ったのは、俺だ」


 事件解決じゃん。中央院さんすげぇな。バトル展開も含めて、多分、結果的に最速だと思う。


「敦、理由を聞いてもいいか?」


 男の友情が芽生えたからか、お互い名前呼びだし、中央院さんにも冷静さが戻っている。


「考一と愛手波さんには、沙織に落ち込んでる様子はなかったって言ったけどよぉ、ありゃ、嘘なんだ」


 まぁ、それはそうかなと僕も思ってた。竹田京子の話と合わないし、そもそも、落ち込んでるから話を聞いて貰いたかったんだろうし。中央院さんが沙織に感じた印象だって、中央院さんだからこそ前向きになったと捉えただけだ。まぁ実際、明らかに僕よりも中央院さんを選ぶ方が正しい選択だと思うけど。


「墓まで持ってくつもりだったけどよぉ。こうなっちまったし、この場にいる面子には、聞く権利もあるわな。……沙織はよぉ、どうやら考一に告る二年前に、DSシステムで当日の未来を見たらしいんだわ」


 は?いや、別にあり得るか。自分の未来をDSシステムで見ることは禁止されてないわけだし。ただ、それだと沙織と付き合い始めてから一年後には、もう僕にプロポーズする気でいたってこと?高校生だと流石に無理だから、大学生になるまで待っていただけの話で。でも、それってつまり、


「沙織は、考一にプロポーズしても失敗する事を知ってたんだわ。失敗する事分かってて、だからそれを何とかしようと二年間、色々行動したらしいんだ」


 でもその結果は……。DSシステムで未来を変えることはできない。


「結果は、お前らも知っての通りなわけだがよ。沙織には、親が決めた婚約者がいるからな。元々、考一へのプロポーズはOKだろうがNGだろうが、そこから先は真之助との付き合いを真剣に始めるつもりだったと言ってよぉ」


 えー?なにそれ?僕、ちょっと可哀想じゃない?私とはただの遊びだったのね!いや、全然人の事言えないけど。


「言いながら、泣いてんだよ。それでも諦められないってな。俺は、婚約者はどんな糞野郎なのかと思っていたが、違うな。そうじゃねぇ。考一、お前だ。沙織はただ、お前と幸せになりたかっただけだ」


 そんなわけがあるか。僕には、全然そんな価値はない。中央院さんと引き合いに出されることが自体が間違ってる。


「それでよぉ。俺は沙織に、なんでそんな事を俺に話してくれんだ?って聞いたんだ。そしたらよ」


【敦くんが、多分、世界で一番私の事を好きでいてくれたから。今までごめんね。敦くんの思いに応えてあげることはできない】


「ショックだったぜぇ。でもよ、同時に、俺は本当に良い女を好きになったんだなってよ。そして俺の好きな女は、もう自分では、これから先の不幸をどうにも出来ないらしかった。だからよ」


 俺が沙織の不幸を殺すしかなかった。


 場に静寂が満ちる。それを壊すのは当然、僕ではなくて。


「嘘だな」


「……」


「俺には分かる。敦、お前にそんな事は出来ない」


「俺が殺った」


「無理だ。敦、本当の事を話せ」


「…………。わりぃな沙織。お前の婚約者、大したもんだぜ。真之助も、わりぃ。これだけは口止めされてたんだがよぉ」


 中山敦の話によると、沙織の死の直前、中山敦は沙織に呼び出されていた。昼間の事もあり、嫌な予感がした中山敦はすぐに駆けつけた。沙織はまだ生きていた。


「近付こうと思ったら、止められてな。沙織の前には、地面にナイフが上向き固定されててよ。泣きながら、やっぱり、もう生きるのがつれぇってよ。俺はもちろん説得したんだが、ダメだった。沙織は自分から倒れて、ナイフは心臓にひと突き。どう見たって、助からなかった。沙織は俺に頼んだ。俺が殺した事にしてほしいってよ。だから俺は、沙織が死んだ後で、ナイフで刺した」


 死体損壊。どうなのだろう。それは、重犯罪としてDSシステムは認識できるのだろうか。

 そして、沙織の行動のその意味は。


「敦、沙織の意図は……」


 中央院さん。止めてくれ。もういい。帰ろう。駄目だ。それ以上は。


「ああ、考一、お前に罪を感じて欲しく無かったからだ」


 何でだろう。なんで沙織はこんな僕と幸せになれない位で絶望するんだろう。どう考えたって、中央院さんとの方が幸せになれるに決まってるのに。中山敦も、好きな子のためだからって、なんでそこまで出来るんだろう。分からない。

 だから、最後まで聞きたくなかった。沙織の真意を知っても、中山敦の決意を見ても。ほら、僕の心は、ふーん、そうなんだ、くらいにしか感じていない。

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