第11話 結局の所、物理が最強
「中央院さん、なんで中山敦が犯人だと分かったんですか?」
執事さんが中山敦を拉致ってくるまで暇だったので僕は聞いてみる。お菓子もなくなっちゃったし。
「簡単な話だ。俺は犯人ではない。貴様にはハッキリとしたアリバイがある。ナイフを持っているとはいえ、女が体格の勝る相手を無傷で殺す事は困難だ。したがって竹田京子の可能性も低い。消去法でいって中山敦しか有り得ん」
推理も何もねぇ。本当に大丈夫なの?
「あのぉ、もし間違ってたらどうするんです?」
「何も問題はない。治療費と慰謝料を渡してお帰り頂くだけだ。そしてその後で、竹田京子を同様にボコボ、、、尋問するだけだ」
ヤクザかよ。そんな所で男女平等を発揮するんじゃないよ。おまけにそれ、竹田京子も白だったら次は僕がボコボコにされる流れじゃん。
「この事件で国は動かん。犯人を特定したところで恐らく司法も働かない。ならば、俺のこの、沙織を失った怒りはどこへ向ければ良い?決まっている。犯人には相応の報いを受けてもらう。この制裁によって非難されようが、立場が落ちようが。そんなヘマは打たんがな。貴様は、何もしないのか?」
「僕は……」
僕は即答できない。中央院さんは、愛手波さんから話を聞いている時も終始冷静に見えたけど心の中は煮えたぎっている。当たり前だ。婚約者が殺された。犯人が憎くないはずがないのだ。そしてその思いを、思いのままに即座に実行しようとしている。僕に比べて、なんて綺麗なんだろうか。
「ふん。そんな目をしている人間にはなにもできんか。沙織がなぜ貴様のような奴に惹かれたのか理解できん。いいか?悲しかったら泣けば良いし、腹が立ったら殴れば良い。大事な人を失ったならば、復讐だ」
やっぱりこの人は凄い。ほとんど話した訳でもないのに、もう見透かされている。一応僕は、愛手波さんの時みたいに、少し反論してみる。
「DSシステムに支配された世界でそんなことに意味があるんですか?」
「システムは関係ない。未来が決まっているからと言って、全力で生きない理由にはならない。絶望する必要もない。心のままに生きろ。常に最善を尽くせ。凡人に難しい事は分かっているがな」
この人は、強い。物理的にとか、頭が良いのともまた別の強さ。僕が失ってしまった心を、極限まで研鑽した姿。もしあの頃、中央院さんのような人が近くに居てくれたら、僕も少しはマシだったんだろうか。
「ぼっちゃま。中山敦様をお連れ致しました」
僕がシュンとした所で、執事さんが中山敦を連れてくる。
「お?考一?愛手波さんもいるじゃねぇか。このじいさんにいきなり連れてこら」
ヒュバッ!ガッシャンゴロゴロ、ドズン!
いつの間にか中央院さんが中山敦が居たところまで移動してて中山敦は高そうな食器もろとも壁まで吹き飛ばされる。完全な不意打ちだったが、中山敦は腕をクロスしてのガードが間に合っていたらしく、すぐに起き上がる。
「てめえ。何しやがる!」
立ち上がった中山敦に対して、すぐに追撃する中央院さん。
「中山敦、貴様が俺の許嫁を、沙織を殺したのだろう?」
それに対して今度は反撃を行う中山敦。
「!?!?そうか、お前が中央院真之助か。悪りぃが、お前には何も答えたくねぇなぁ」
中山敦の連打を、余裕でかわす中央院さん。
「勘違いするなよ。貴様が答えるのではない。俺が答えさせるのだ」
中央院さんの打撃は当たっているが、二人には体格差がある。致命打にならないように見える。
「できるか?坊っちゃんによぉ!」
ドン!ゴロゴロゴロ!
中央院さんの攻撃の回避を諦めた中山敦の回し蹴りで今度は中央院さんが吹き飛ばされる。受け身を取ってすぐに起き上がる中央院さん。
「なかやまあつしぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「ちゅうおういんしんのすけぇぇぇぇぇ!!!!」
お互い、一歩も引かず攻防を続ける。
暫くして、双方の体力が限界を迎えたあたりだろうか、今度は中央院さんが中山敦の打撃をわざと受けて隙を作る。次の瞬間、最初に不意打ちした技、発勁らしき背面打ちでもう一度中山敦を吹き飛ばす。今度はクリーンヒットしたようだ。意識はあるものの、中山敦は立ち上がれない。一方で、中央院さんもフラフラだ。
「ハッハッ。中山敦、ここまで手こずったのは久し振りだ」
「ゼェーゼェー。中央院真之助、ただのぼっちゃんかと思ってたがよぉ、やるじゃねぇか……。こいつは、認めざるをえねぇなぁ……」
いや、なんでガチバトルしたの?拳で語らないと話せないの?まずは普通に話を聞こうよ。なんか、男の友情芽生えてるし。
「男って本当、いつまでも経っても馬鹿なんだから」
え?愛手波さんも空気に呑まれてる?流石に今回は僕が正常だと思うんだけど、どうなんだろ。まぁ、中山敦から話は聞けそうな雰囲気だし、結果オーライ?
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