第10話 珍しい名字の奴は大体お金持ち

 沙織の部屋を後にした僕たちは今、三人目の容疑者の自宅前に来ていた。なんか、めっちゃ豪邸なんですけど。僕の場違い感が半端ないんですけど。こういうことは事前に教えてくださいよ愛手波先生。バシッと一張羅決めてきたのに。持ってないけど。

 愛手波さんは普通にインターホンを押して用件を伝える。


「お待ちしておりました。東雲様。お迎えに上がりますので、今しばらくお待ちくださいませ」


 え?今の何?もしかして、執事ですか?そんなの現実にいるの?僕は今どこに来ているの?


 間もなく執事がお迎えに上がってきてくれて、僕たちは家の中に通される。絵に書いたようなとでも言いましょうか、えらく豪華そうな調度品で溢れている。良く見たら値段が書いてある。何でやねん。売ってるの?なになに、作品名「地上に出たことを後悔するモグラ」¥2,980万円なり。モグラ、サングラス掛けてるじゃん。全然エンジョイしとるやん。若干値段にお買い得感出そうとしているところも腹立つわ。

 居間に通されるまでの間、そんな作品が30個ほど飾られていた。それなりに楽しめたけど特に欲しいとは思わないなぁ。沙織の部屋の雑貨と変わらん。って言うか居間まで遠いなオイ。ようやく居間に辿り着く僕たち。


「久し振りだな愛手波。男連れとは珍しい。いや待て、小僧、貴様が山田考一か?面白い、よくぞ俺の前に現れた!その度胸や、良し!まぁいい、まずは座れ。じぃ!来客に何か用意しろ」


「かしこまりました。ぼっちゃま」


 部屋に入って第一声がそれ。えー?なんでこの人僕のこと知ってるの?そんで僕、なんか怒られるようなことした?


「そうかそうか、とうとうケジメを付けに来たわけだな。俺の名前は中央院真之助。沙織の婚約者にして、この世界の未来のトップだ」


 沙織の許嫁だった。僕、めっちゃ怒られる理由あるんですけど。いや待て待て。沙織って婚約者いたの?沙織のサークル仲間なんだから精々一つか二つ年上程度のはずだけど、もしかしなくても、超大物?そんな人となんか知らんけどケジメ付けなきゃいけないの?面倒くさ。


「彼が山田考一であることは正解だけど、別にケジメを付けに来たわけではないわ。それに多分、考一君はあなたの事を知らない」


 うん。知らない。僕はこんなヤバそうな人の婚約者に手を出す勇気はない。本当、僕って沙織の事を何も知らなかったんだなぁ。いや、流石にそれは事前に話しておこうよ。最悪、僕の存在その物が無かった事にされそうなんですけど。


「そうなのか?なんだ、詰まらん。俺から本気で沙織を奪いに来たのかと期待していたのだが」


 寝取られ属性なのかな。


「怒らないんですか?僕、どうやら浮気相手だったみたいですけど」


「知らなかったのだろう?ならば構わん。俺の方は知っていたが、そもそも気にしていなかったしな。沙織は俺の許嫁だが、仮に貴様に取られると言うのならば、俺がその程度の男だったというだけの話よ。取られる前に叩きのめすからあり得んがな」


 違った。戦闘民族だった。僕をボコボコにできると思ってワクワクしてたみたい。オラ、全然楽しくねっぞ。


 挨拶もそこそこに、愛手波さんは本題に入る。沙織の死についてや、中山敦、竹田京子の話もかいつまんで説明する。代わりに僕はお菓子をつまむ。うめぇな、コレ。こんなんどこに売ってんの?


「そうか。死んでしまったのか。俺の許嫁の中でも、良い女だったのだがな。おそらく、沙織と最後に会ったのは俺だ。これまで沙織とは一年に一度、父上達を交えての会食以外では会ったことが無かったから急な連絡に驚きはしたが、沙織自身に特におかしいところは感じなかった。寧ろ、これから本格的に俺との付き合いを深めたいと言われ、ようやく前向きになったかと思っていたのだがな。残念だ」


 ああ、僕が沙織に振られて、納得できない僕が殴り込みに来たと思ったのか。残念だけど、僕にはそんな執着ないんだよなぁ。というか、さらっと「俺の許嫁の中でも」って言った?ハーレム系の主人公なの?そこはかとなく感じるチートの匂いと言い、異世界転生でもしてきたの?


「ところで愛手波、沙織は本当に事故死なのか?」


「あなたになら、言っても問題ないでしょうね。ええ、あなたの疑念通り、沙織は事故死ではないわ。ナイフによる、他殺よ」


 そうだね。問題ないね。国家権力よりもヤバそうだもんね。それに、この世界で殺人を疑えるってマジで有能だな。


「そうか。分かった。犯人は中山敦だ。じぃ!今すぐ中山敦を連れてこい!」


「かしこまりました。ぼっちゃま」


 この人、マジで主人公だな!

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