第9話 一家に一人、愛手波さん
チュンチュンチュン。窓の外ですずめが鳴いている。全く清々しい朝だ。しかしこれはいわゆる朝チュンではない。あのあと滅茶苦茶セックスしてないんだな、それが。結局、僕の昔話の後は案の定微妙な空気になったので、しょうがないから早く寝た。早く寝たから早く起きた。それだけのこと。なにその強キャラ感。
起き上がって愛手波さんが寝ている布団を見たら、愛手波さんがいなくなっていた。えー?またそのパターンなの?この俺に、同じ技が通用すると思うなよ!一回目も効いてないけど。
とか思っていたら普通に台所にいた。なんかご飯作ってる。
「一回寝たくらいで彼女面すんなよな」
「あら、おはよう、考一君。目玉焼きと味噌汁で良いかしら」
「普通にスルーすんなよな」
うん。普通に良いんですけどね。っていうか昨日の夕食といい、さすが28歳ともなると一味違うわー。あれ?よく見たら洗濯機も回ってる?やだ愛手波さん、ちょっと有能過ぎない?止めて?そうやって僕を誘惑しないで?家政婦欲しくなっちゃう。
「早く起きちゃったから。今まで仕事で夜更かしばかりだったのだけれども、早寝早起きも悪くないわね。スッキリする。ご飯、すぐできるから、ちょっと待ってて」
「はーい」
はーい。脳内の僕も賛成しているようだ。
僕は着替えたり顔を洗ったりしてからネットサーフィンしてくつろいでから、彼女と朝食を取る。冷静に考えると昨日の僕の話は大分頭がおかしいはずなのだが、一夜明けた愛手波さんはいつも通りだ。もしかして中二病だと思われているんだろうか。
「昨日の話なんですけど、あんまり驚かないんですね」
「男の子にはそういう時期があるから」
ヤバイよヤバイよ。やっぱり中二病だと思われてるよ。
「冗談よ。ご両親の事は、可能性の一つとして、もしかしたらとは考えていたわ。それとあなたの未来予知に関してだけど、私はそれができる人を知っている」
え?そうなの?恥ずかし!おもっきし、僕が例外でしたキリ!とか言っちゃってたじゃん!僕のアイデンティティーは崩壊寸前です。
「DSシステムの開発者の一人が、予知能力を持っていたと言われているわ。というより、DSシステム自体が彼の思考パターンをモデルにして作られている。あなたのそれも、正確には予知能力ではなくて、桁外れの演算予測能力がなせる技よ」
僕のアイデンティティー復活!僕は依然、特別だ!焦ったわー。マジで顔から火が出るかと思ったわー。まぁ、DSシステムには全く敵わないし、結局の所、特に役に立つわけでも無かったんだけどね。
朝食後、僕らは行動を開始する。と言ってもまだ早いし、最後の容疑者は多忙らしくて今日は夕方にならないと会えないとのことで、僕らは沙織のアパートを調べることにした。沙織の死後、愛手波さんもまだ行ってないらしいので、もしかしたら何か手掛かりがあるかもしれない。
僕は例の話があって両親とそんなに親密だったとは言えなくて、母親が死んで父と二人きりになってからそれは加速した。なので、高校生になった僕が一人暮らししたいと申し出たところすんなりOKが出ていて、僕は沙織と会うときは外か、僕のアパートかのどちらかだった。彼女の部屋に行ったのは、沙織が大学生になって一人暮らしを始めた際に引っ越しを手伝った時だけだ。
久し振りに見た沙織の部屋は以前見たときとあんまり変わっていなかった。オシャレっぽいシンプルな家具類、雑貨屋で集めたであろうよく分からないもの、デートする度に増えていったヌイグルミ類、大きめのパソコン。これは前来た時はなかったな。良い物持ってるじゃん。
沙織の両親は既に部屋を訪れていて、その際、遺書等は特に無かったらしい。僕たちも改めて色々探してみるが、無いものは無い。
「特に気になる物はないですねぇ」
「そうね。だけど、逆に言えば、やっぱり他殺の可能性が高いのでしょうね」
愛手波さんはパソコンを弄りながら答える。パソコンの中の文書ファイルや、検索履歴を見ても自殺を仄めかすような物は発見できなかったようだ。
愛手波さんと入れ替わって一応僕もパソコンを調べてみる。何となく入っているソフトの一覧をぼーっと見ていた僕は見慣れないソフトの存在に気付く。ADS drive?とりあえず起動してみるとパスワードを求められる。試しに僕の誕生日を入れてみるとこんなウィンドウが出てくる。
【考一君、愛してる。必ずあなたを助けてみせる】
僕が遊びに来る事を見越したドッキリだろうか。愛手波さんにすぐ見破られたくらいだから、沙織も僕が虚ろな事に薄々気付いていたのかな。できれば、沙織が生きてる時に見たかった。まぁ、これを見ていた所で、あの時の僕の選択が変わっていたとは思えないけど。
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