第7話 教えて!愛手波先生!
竹田京子から話を聞いた僕たちは、僕のアパートに帰ってきた。二人の話を聞いた愛手波さんは結構精神的に来たらしくて最後の一人は明日にすることにした。仕事中も行き詰まったり疲れたりするとそうするらしく、愛手波さんの気分転換の散歩に僕は付き合っていた。おうちでネットサーフィンしたい。
暇だから、色々聞いてみることにする。
「愛手波さんって、いくつなんですか?彼氏いるんですか?スリーサイズは?納豆にネギ入れるタイプ?」
「今年で28。彼氏はいない。上から88、58、88。納豆にはネギとゴマ油を入れるわ」
真面目か!聞いてはみたけど、スリーサイズって聞いてもイメージ沸かないよね。っていうかパッと答えられる物なの?
「ごめんなさい。ぶっきらぼうだったわ。私を励まそうとしてくれてるのでしょう?あなたは、心が空な癖に、そうやって誰かを楽しませようとするのね」
「いやいや、全然、空な事ないですよ。むしろカラフルです」
なんだか、余計に空虚な感じになった。
「少しの間だけど、違和感を感じていたわ。あなたは、敦君や京子ちゃんの話を聞いても、堪えている素振りがない。沙織の死にすら、何も感じていないのでしょう?」
「そんな事は……」
ある。中山敦の思いには感動したし、竹田京子に関しても驚いた。でもそれは、物語の中でしか見たことのなかったものが現実にもあるんだなぁ、ふーん、の域を出ていない。沙織に関しても、別に死んだことその物に関しては何も感じていない。ふーん。そういうこともあるよね、って感じ。だってさ、
「だって、最初から全部決まっていることじゃないですか。この世で起こることは必然だ。起きる事は起きる。システムで計算できてしまう位、単純な事じゃないですか」
「……ごめんなさい。責めてる訳じゃないの。大人げない、ただの八つ当たり。ただ、私や多くの人は、DSシステムの存在を認識していても、それでも、そんな風には割り切れないのよ」
「まぁ、こうやって割り切れてしまう事が幸せか、と言われたら、それは微妙ですけどね」
不幸は感じないけど、幸せも同様。ずっと平野を歩くだけみたいな感じ。僕だって、これでも自分が何も感じない事は気にしてるんだぜ。
話を変えるために、僕はDSシステムについて気になっていた事を聞いてみる。
「ところで愛手波先生、昔から気になってたんですが、DSシステムを使えば自分の未来が見れますよね?未来を見たことで、その人の未来は変わらないんですか?」
「実に良い質問だ、ワトソン君」
探偵はオレだぜ!オレだかんね!いや、助手で良いですけどね。
「結論から言うと、変わらないわ。DSシステムを見るという行為その物が、生まれた時から既に決定している。例えばの話だけど、明日の自分をシステムで見たとして、お昼休みに缶ジュースを買っていたとするわね。あなたは未来を変えるため、缶ジュースを買わない、という選択を取ろうとする」
「いわゆるバタフライエフェクト狙いですか。超ショボいですけど。でも、それくらいならできそうじゃないですか?」
「できないわ。あなたは絶対に缶ジュースを買う。買わない、という選択は最終的には取れない。それは、急に気が変わったとか、未来を変えるのが怖くなったとか、無意識に買っていたとか理由は様々だけれども、あなたがそう考える事も含めて、DSシステムはあなたが缶ジュースを買う、という計算結果を弾き出している」
未来は変えられない。沙織の死に関して、もしかしたらシステムのバグとかではなくて、沙織は超お金持ちっぽいし自分の未来をDSシステムで見てそれを変えようとした結果が今なんじゃないかと思ったのだけど。まぁ、それにしたって自分が死ぬ方向に未来を変えるとか意味不明だし、どっちにしてもないか。
その後も散歩は続き、僕は愛手波さんの趣味だとか住んでる所だとか年収だとか会社での悩みだとか両親との仲の良さだとか好きな男性のタイプだとか色々聞くことに成功する。僕は既に、愛手波さんの次に彼女の事を知っているといっても過言ではない。明日には忘れそうだけど。
家に帰る前にスーパーに寄って、彼女の得意料理であるらしい薬膳白湯鍋の具材を買う。家にないから、鍋も買っちゃう。研究員は体力勝負だから健康管理が大事とのこと。ご馳走になりました。とても美味しかったです。
どうやら愛手波さんは今日も僕のアパートに泊まるらしくて、夕飯の片付けが終わって早々、シャワーを浴びる。
「ごめん、考一君、タオル取って貰えないかしら」
今日一日で何回も謝られてる気がする。さてはお前、メンヘラだな?
それで、普通にバスタオル巻いてリビングに来る。上から88、58、88のスリーサイズってこんな感じなのね。全く、愛手波先生には教えてもらってばっかりだぜ。いや先生、ガード緩すぎない?ノーガード戦法なの?誰と戦ってるの?
でも僕の心は空みたいで、やっぱり何も動揺しないし、多分、明日には忘れていると思う。
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