第4話 中山敦は古代のヤンキーっぽい
「お前だろ?お前が沙織を殺したんだ。そうに決まってる。なんだ?沙織が邪魔になったのか?大体、沙織のプロポーズにOKしないなんて意味が分からない。あんなに可愛くて頭が良くて優しくて、おまけにお金持ち。いったい何が不満なんだ。意味が分からない。馬鹿なのか?」
アレレ~。おっかしいぞ~。僕と沙織の家族を除く一般人には沙織は事故死したことになっている筈なのに。何故か僕が疑われている。いや、むしろお前が犯人で確定じゃね?
「沙織が自殺だったら、もちろんお前が殺したようなもんだ!事故死だったとしても!お前がどっち付かずな態度を取らなかったら死ななかった!お前が悪い!全部お前が!なんで沙織はお前みたいなやつを選んだんだ!?」
あー、そういうことね。沙織が僕にお熱だった理由はセックスのテクニック位しか思い付かないけど、炎上しそうだから黙っておこう。うるさいし殴りかかってきそうだから、僕は愛手波さんの後ろに隠れる。
僕と愛手波さんは今、容疑者の中で最初に連絡が付いた中山敦が住んでいるアパートに来ている。アパートに付いて沙織が死んだことを伝えるなり早々、僕が怒鳴られている訳だ。
「気持ちは分かるわ。私は沙織の姉の愛手波。妹の死に納得できなくて、色々調べて回っているの。悪いけど、沙織が死んだ日の事を話してほしいの」
え?気持ち分かっちゃうの?やっぱり僕が悪いの?僕には分からないな。それくらいの事で死ぬなんて、理解できない。だって、この世界では結婚する事が確定しているんだ。僕でなければ、他の誰かと幸せになっていただけだ。多分、僕と結婚するよりもずっと幸せに。いや、黙っておこう。
愛手波さんに促されて、中山敦は素直に話し始める。っていうか、僕、いる?怒鳴られ損なんですけど。ずっと睨んでるっぽいし。
沙織の生前、最後のランチの相手が彼のようだ。いつもはメールでやり取りなのに、電話が来て何事かとは思ったものの、ランチ中の彼女にはそこまでいつもと異なる点は見受けられなかったらしい。普通に大学の事とか、サークルの事とか、僕への愚痴を言っていただけだ。逆プロポーズの件も、OK貰えるまで何度もアタックすると発言していたらしく、そこまで落ち込んだ様子も見れなかったとのこと。え?沙織って裏ではいつも僕の悪口言ってたの?酷くない?
「沙織はよぉ。良くお前の事話してたぜ。自分が一番キツイ時に助けられたってな。愚痴って言っても、要するにもっとお前に恩が返したいって話だしな……。お前、全然欲がないんだってな。沙織んちはお金持ちでよぉ。親も忙しくて、愛情表現はいつも、高級なオモチャだったり、ブランド物の洋服を買ってもらったりなだったらしくてな。だから沙織もそういう方法しか知らねぇんだ。ああ、悪い。別にお姉さんの親を悪く言いたい訳じゃねぇんだ」
「いえ。そうね。私も沙織が幼い頃に留学していて日本にいなかったし、親の仕事も日に日に拡大していったから、沙織はずっと寂しい思いをしてきたのでしょうね。寂しさを埋めるために悪い虫に引っかかって。だからこそ考一君に惹かれて。今回の件、私や両親に責任がないとは言えない」
って言うか、沙織んちってそんなにお金持ちだったの?知らなかったわ。服とか全然興味ないから分からんし、沙織にもそんなに興味なかったら聞いたこともなかったし。冷静に考えると酷いな僕。
「んで、考一。悪いな。沙織が死んだって聞いてよぉ。熱くなっちまった。許してくれ。本当言うとな。お前にはむしろ感謝してる。沙織の事は中学から知ってる。今みたいな付き合いになったのは高校で同じ部活に入ってからだが、高校入ったくらいの頃のアイツは明らかに塞ぎ込んでた。変わったのはお前に出会ってからだと思う。段々明るくなってなぁ。俺とも良く話すようになった。俺はお前と違って、アイツには何もしてやれてない。お前に怒鳴ったのはそうだな、ただの嫉妬だ。忘れてくれ」
「僕だって、別に何もしてませんよ。ただ普通に、一緒にいただけです」
「俺は沙織が塞ぎ込んでいた理由を直接聞いた訳じゃねぇが、それとか、あいつの家の事を知っていて、ただ普通に付き合うってことは難しいんだ。タイミングもあったにせよ。多分俺には、お前と同じことはできなかっただろうな……」
なんなら僕は沙織の家の事情は知らなかった訳だけど。まぁ、知っていたとしても、変わらなかっただろうな。お金を持ってるかとか、どうでも良いし。
中山敦は沙織と別れた後、家に帰ってからバイクの手入れをしていたようだ。そのアリバイを証明するものは何もないが、ステレオタイプの不良よろしく根は良い奴っぽいし、何より沙織の事を好きだったっぽいし、中山敦犯人説は薄い気がする。いや、そうでもないか。自分の手に入らないくらいならいっそ、ってこともあり得るのか?僕には全く理解できないけど。
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