第2話 アリバイは大事

 ご同行することになった僕は最寄りの警察署ではなく、わざわざ3時間もかけて東京の本部にまで行くことになった。殺人事件かも知れないからね。しょうがないね。僕だって小説の中でしか見たことないわ。

 いわゆる取調室にて彼女との関係とか当日の行動だとかを根掘り葉掘り聞かれたが、案外早く解放された。ブドウ狩りのレシートの日時とおばちゃんの証言から、沙織が死亡したと思われる時刻のアリバイが完全にあったからだった。サンキューばばぁ。

 解放される寸前で、偉そうな人から箝口令が敷かれた。どうやら、親族を除き真実は伏せるようだ。仮に他殺だったとしても事故死であるという処理をするらしい。そりゃそうだ。殺人が発生したなんて事が知られたら、どえらい騒ぎになる。1億円の口止め料なんて安い安い。いや、こんなにくれるの?怖くて他言できんわ。


 夜遅く、ようやく家に帰って一息付いてネットサーフィンしたが、沙織に関してのそれらしき事件は発見できなかった。国家権力ヤバイ。お風呂に入ってからも暫く眺めていたが、そろそろ飽きてきてウトウトしていたらまたインターホンで起こされる。身なりの良い美人さんが立っていて、なんと沙織のお姉さんらしい。


「沙織が死んだの。警察からは既に事情を伺ってはいるけれど、改めて本人から話が聞きたいの。もちろん協力してくれるよね?私は正直、貴方の事も疑ってるわ」


 正直過ぎない?そんなことを言われたら家に上げる他なく僕は嫌々リビングに案内する。もちろん顔には出さない。


「沙織から聞いた事があったけれど、本当に何もないわね。欲しい物とかないの?沙織に言えば買ってくれたでしょう?」


「えっ?そうなんですか?あー、そう言われてみれば、事ある毎に聞かれましたね。まぁ、欲しいものは大体持ってますから」


 うんうん、カオナシなのかな?って思ったことあったわ。懐かしい。私が欲しいものは、あなたには絶対出せない。なんつって。いや、単純に欲しいものが特にないだけだし、買ってもらう理由もないしね。

 何もない僕の部屋にはもちろんお茶もコーヒーもお菓子もないので、しょうがないから早速話に入った。警察で一度話していたこともあってスラスラ要点をまとめられたため、説明はすぐに終わった。疑われてるみたいだから、念のためブドウ狩りのレシートも見せた。


「話は分かったわ。警察から聞いたこととも相違ないし、話していても、あなたが事件に関与しているとは思えない。ただね、姉という立場から言わせてもらえば、あなたが沙織の告白を受けていてくれたら、と思わずにいられない。いえ、それは仕方のないことね。忘れて」


 ふぅ。納得してくれたみたいで良かった。僕としても沙織の死に関しては思うところがあるような、ないような。いずれにせよ、僕の選択のせいにされても困るのは確かだ。


「今日はもう遅いから、私もここに泊まるわ。何もないけど。明日から一緒に犯人を探しましょう。あなたも、身の潔白を証明したいでしょう?」


 突っ込みどころが多すぎる。ここ僕の部屋だし、明日は大学あるし、まだ全然疑ってるやん。良くそんな男の部屋に泊まれるな。恐れる心がないのかい?違うか。多分、この状況で自分が行方不明になったら、僕が犯人だと確定するような状況を既に作っているんだ。やっぱめちゃくちゃ疑ってるじゃん。


「あ。遅れたけど私の名前はあてな。愛の手の波と書くわ。人類幸福統制局で研究員をやっているわ。仕事は暫く休みを貰ってるから、事件が解決するまでよろしくね」


「あ、はい。僕は山田考一、T大学で学生やってます。あのー、すみませんが明日は」


「明日からよろしくね」


 最後まで聞こう?沙織の姉とは思えん。んで、なんで姉の方がキラキラネームなの?両親、反省したの?っていうか、人類幸福統制局って……、くっそエリートじゃん。

 言うや否や、愛手波さんはささっとシャワーを浴びて出てきて、沙織のために用意してる布団に横になる。


「おやすみなさい」


「あ、はい」


 一方的に電気も消しちゃう。僕はなす術がない。まぁ、元々ロングドライブと慣れない警察対応で疲れてて眠かったし、いつもより早いけど僕も素直に寝ることにする。


 ところで、その布団で妹さんとセックスしてたんですけど。いいのかな。

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