第44話分進作戦

 二手にわかれる廊下を首を左右にふりながら、春香は見た。

「戦力を二分しないとけないというわけか……」

 ちらりと春香の瞳を見ながら、海斗は言った。

「そういうこと」

 サロメが答える。

「で、どうするよ。軍師殿」

 竜馬が腕を組み、海斗に問う。

「私は兄さんから離れたくないです」

 ぎゅっと海斗の闇の長衣ローブの裾を握り、空美は言った。

 彼女には珍しく、自分の意見を言った。

「俺は春香といくぜ。悪いがそいつだけは譲れないね」

 獅子雄が春香の肩に手をかけ、言った。

 それに対してにこりと春香は笑顔だけで答えた。

「ごめん、私はやっぱり頭じゃわかってるんだけど、その人とは少し距離をとりたいの……」

 美穂が節目がちに言った。

 その人とは諜報員エージェントサロメのことである。美穂にとって親友を殺した相手と瓜二つのサロメと行動を共にするのは、まだかなりのわだかまりがあった。

「まあ、それは仕方ないね」

 黒髪をかきあげ、サロメは言った。

「私はどっちでもいいよ。春香と海斗が決めたなら、それにしたがうよ」

 零子が両手を頭にのせ、そう言った。

「これは難しい判断ですね……」

 海斗は顎に手をあて、悩む。

 下手に人選を誤れば、この先ステージクリアどころか生命も危うい所となる。

「さて、どうしましょう……」

 春香が海斗に声をかける。


 その時、空間がぐにゃぐにゃに歪み、その直後二人の人物が現れた

 白い長依ローブを着たグシュナサフと水干姿の少女村雨丸であった。

「陛下、我らの同行もお許しください」

 グシュナサフが膝をつき、そう言った。

 続いて村雨丸がペコリと頭を下げる。

「姉さんずるい」

 ラルヴァンダードの声が春香の脳内で響く。

「姉上、抜け駆けは許せません」

 引き続き、ホルミスダスが言う。

「お黙りなさい。あまり大人数での行動は迷宮の探索には不向きです。ここは厳選された人数でむかうべきなのです」

 グシュナサフは二人の妹を無理矢理たしなめた。

「海斗殿、我らは陛下の直臣にあたります。なにとぞ、行動を共にさせていただきとうございます」

 豊かすぎる胸元に手を当て、グシュナサフは言った。

「拙者も同じでございます」

 村雨丸が狐の耳をぴくぴくさせながら、言った。


 腕を組み、海斗は考える。

「ではこうしましょう。春香くんには獅子雄君、サロメさん、グシュナサフさん、村雨さんが行動を共にしてください。僕と空美、零子さん、美穂さん、竜馬さんが別動隊として進みましょう」

 海斗は言った。

「異論はありません。それで行きましょう」

 春香に異論はなかった。彼としても獅子雄と行動を共にできれば、他者には言わないが、それでよかったのだ。

「じゃあな、大将。また無事に落ち合おうぜ」

 春香の細い肩を強く叩き、竜馬は言った。



 春香たちは右の通路を行き、海斗たちは左の通路に進んだ。


 春香たちがしばらく進むと、ガチャンガチャンという金属音が通路内に鳴り響いた。

 150センチメートルほどの小さな二足歩行の物体が現れた。そう、物体である。生物ではなかった。

 鉄色のそれは赤い単眼で春香たちを見た。

「でたよ。あれはゼロテスのシモンの機械人間グレムリンだよ」

 戦闘服のポケットから四つの指輪を取りだし、左右の人差し指と薬指にはめた。指輪には細い糸がつながっていた。

 その糸は人工の光を浴び、きらりと輝いた。







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