第43話城塞都市ナザレ

 両手を挙げ、サロメを名乗る戦闘服の女は敵意がないことを証明した。

 零子に諭された美穂はしぶしぶ鬼切安綱を鞘に納める。

「あなたがルカ教授のいっていたエージェントですか」

 海斗がきく。

「そうよ、私がバルトロマイの賢者の諜報員エージェントサロメよ」

 次に豊かな胸の前でサロメは腕を組む。

「しかし、似てるね、あの蜘蛛女に」

 じっとサロメの秀麗な顔を見て、零子は言った。

「蜘蛛女ってのはたぶんだけど、アラクネーのことかい」

 サロメが零子にきく。

「ああ、そうだよ。あんたは俺たちが倒した蜘蛛の魔女にそっくりなんだ」

 獅子雄がかわりに答える。

「なるほどね。それはきっとAS型の生物兵器だね。通称魔女アラクネー。似ているのも仕方ないわ。AS型をはじめ、魔女の通り名をもつ生物兵器は私の遺伝子をもとにつくられているんだからね」

 形の良い顎を手でなでながら、サロメは言った。

「簡単にだけど自己紹介しとくわ。私はゼロテスのシモンによって戦闘用に改造された魔法騎士マジックナイトサロメ。今はあいつらのやりかたが気に入らなくてバルトロマイの賢者に寝返って諜報員エージェントをしているの」

 サロメは言った。

「なるほどね。あんたも、どうやら訳ありということか」

 ごりごりと無精髭をなでながら、竜馬は言った。

「そう、だから、私は味方よ。まあ、正確にはルカの味方っていったほうがいいわね。さあ、城塞都市ナザレの入り口まで案内するわ。着いてきて」



 エージェント・サロメの案内で三十分ほど歩いただろうか、春香たちは城塞都市ナザレの城門にたどり着いた。

 その門は分厚く、無機質で何者をもよせつかせない威厳を持っていた。

 そっと歩みより、サロメはその鉄の扉に手のひらをあてる。

「ちょっと待っててね。システムをハックしてロックを解除するわ」

 サロメはそっとまぶたを閉じ、精神を集中させる。ぶつぶつと何語かよくわからない言葉を高速で呟く。

「聖ペトロの名において解錠せよ」

 静かにサロメは言うと、鈍い金属音を発しながら開いた。どうにか人が通れるほどの隙間だった。

「さあ、早く。すぐにしまってしまうわ」

 サロメの声にうながされ、春香たちは門をくぐった。

 彼らが全員入ったすぐ後、鉄の門はピタリと閉まった。

 

 天王寺春香に「鍵の聖人」「鉄門の守護者」の称号が与えられました。

 ペトロ商会はあらゆる鍵の製造が可能になりました。

 ペトロ商会によって製造された「魔法の鍵」がアイテムボックスに送られました。


 冷たい人工の床が春香たちの目前に伸びている。廊下の幅は約三メートル。バベルの塔の通路に似ていたが、電灯があらゆるところに点いているため、かなり明るかった。

 数分ほど歩くと、廊下は二つに別れた。

「ここからどっちに進めばいいんだ」

 竜馬は左右を見渡し、言った。

「ここからが本番だよ。両方にいかなくちゃあいけないんだよ。この奥にあるシステムを同時に解除しないと起動鍵が封印している部屋は開かないんだ。だから、私一人ではどうにもならかったんだ」

 サロメは説明した。

「ということは、二手に分かれないといけないのか」

 春香はサロメの瞳を見て、言った。

「そうなの。しかもこっからゼロテスのシモンが造り上げた生物兵器やら機械化兵士が守っているからね。道のりは平坦じゃないわ」

 サロメが言った。


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