第41話三つの鍵

 ルカはぐるりと見渡す。

 狭いコンピュータールームに自分をふくめて八人もいる状態はかなり暑苦しかった。

「あなたがたが本当に救世主なんですか」

 ルカはきいた。

「それはどうか分からないんだけど、僕たちはある条件をクリアしなければいけないんだ。その条件もまだなにかわからないんだけどね」

 春香は言った。

「このステージのクリア条件は恒星間航行用宇宙船ノアを無事に出発させることだよ」

ディスマが赤い瞳でルカを見る。

「プロフェッサー・ルカ、君の目的と同じだね」

 とディスマがルカに言う。

「そうだけど。どうして、それを知っているの?」

 訝しげにルカは問う。

「それは企業秘密だね。まさに神のみぞ知るということだよ」

 ディスマは話をはぐらかす。

「うん、あ、あんたは」

 突如、空美の顔を見たルカはすっとんきょうな声をあげた。

「あのときの天使じゃないか」

 空美の小さな肩をつかみ、ルカは言った。

「ちょ、ちょっと何いっているのかわからないんですけど……」

 困惑した顔で空美はい言う。

「すまないが、離してくれないか」

 海斗が間にはいる。

「ご、ごめんなさい。あんまり似てたもんで」

 頭を下げ、ルカは謝った。

 たしかにあまりにも夢にあらわれたあの天使にこの女性は似ているが、背中に羽もないことだし、きっと他人の空似というやつだろう。ルカは無理矢理、自分を納得させた。

 それに今はもっと優先させることがある。

「つい取り乱してしまって、すいませんね。ここはあなた方の言う通り狭いのでブリーフィングルームに行きましょう。詳しい話はそちらでお教えします」



 ルカ教授の案内で春香たちはコンピュータールームを後にして、ブリーフィングルームへと向かった。薄暗い、無機質な廊下をしばらく歩くとある鉄の扉の前についた。

「デストピア感はんぱないな」

 チカチカと光る廊下の天井の電灯を見て、竜馬は感想をもらした。

 壁の電子画面にルカは手のひらをあてる。

 すると、鉄の扉は左右にひらいた。

 そこは会議室のような部屋だった。

 奥の壁にかなりおおきなモニターが備え付けられていた。

 パイプ椅子がいくつか置かれていたので、春香たちはそれぞれ座った。

「改めて、自己紹介させていただきます。私はバルトロマイの賢者の一人でルカといいます。恒星間航行用宇宙船ノアの開発責任者でもあります」

 そう言い、彼女は用意したコーヒーを一口すすった。

 零子も配られた同じものに口をつける。

「うわっ、不味い」

 思わず、正直な感想をもらす。

「零子、失礼だぞ」

 獅子雄がたしなめる。

「すいません、このような物しかご用意できなくて……」

 伏し目がちにルカはいう。


 彼女は現在の地球の惨状を説明した。


「おいおい、マジでデストピアじゃないか」

 竜馬は言う。

「そのようですね」

 海斗が同意した。その顔は険しい。


「そうなんです。そして、バルトロマイの賢者は私一人になってしまいました。他の科学者たちはゼロテスのシモンの手の者によって殺害されてしまったのです。現在活動しているのは私ともう一人のエージェントのみです。他の人間を含めた動植物は冷凍睡眠に入って、ノアの出航を待っています」

 かすかに涙目でルカは言った。

「本題に入りましょう。宇宙船ノアはすでに完成しています。ですが、出航できない状態にあります」

 ルカは説明する。

「それはどういうことですか?」

 海斗がきいた。

「航行に必要な人工知能ヨハネの起動鍵スタートアップキーをゼロテスのシモンの実戦部隊ヘロデによってうばわれてしまったのです。鍵は全部で三つあります。それぞれ黄金、乳香、没薬といいます。戦士の皆さん、残念ながら私には戦う力はありません。どうか代わりにその起動鍵を取り戻してほしいのです」

 深々とルカは頭をさげた。

「頭をあげてください、ルカ教授。クリア条件を達成すためにはその三つの鍵を取り戻さないといけないというわけだね」

 春香はディスマにきいた。

「うん、そうだよ」

 少女の声でディスマは答えた。


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