第37話新世界

 大公爵アスタロートの低い声が春香の胸に響きわたる。

 どのような世界を創造したいのか。

 このゲームを生き抜くことで精一杯であまり考えてこなかったことである。

 世界を再構築する。

 それはディスマが最初に言った言葉である。

 逆接的に言えば、春香が今まで住んでいた社会、世界は一瞬にして滅んでしまっているということである。

 春香が考えるに今までのステージは人類が滅んだあとの未来を旅してきたのではないだろうか。

 魔女アラクネーの最後の言葉。

 エルフたちが語った物語。

 それらを結びつけて考えると自分たちのような人間はもういなくなった世界を冒険しているのではないかと。

 だが、まだ第三ステージである。

 ゲームのステージはあと四つも残っている。

 まだ道なかばである。


「わからない」

 首を左右に春香は言った。

「僕は生き残ることに精一杯だ」

 じっと春香はアスタロートを見る。

 圧倒的な魔力を誇り、見るものに抵抗する気など一切失わせる地獄の大公爵にたいし、春香は精神的に一向に引く気はなかった。

 生き残るのに精一杯というのは事実だ。だが、だからこそ、諦めずに絶対に生き延びてみせる。

 春香の瞳にはその決意の色でそまっていた。

「でも、どうせ造りなおすなら、まったく新しい世界にしたい」

 春香は宣言するように言った。


「それが、答えか」

 アスタロートが言う。

「ああ、そうだ」

 春香は気圧されない。

「よかろう。その答えを貴君らの気概とうけとめよう。此度は一旦ひいてやろう。次にまみえるときには余と対抗できる力をつけたまえ。だがそれも我がしもべを倒せればだが……」

 大公爵アスタロートの足もとが光る。足元には六芒星を基準とした複雑な魔法陣が形成される。

 光りのなかにアスタロートがかき消え、つぎにあらわれたのは巨大な鱗をもつ生物だった。長い首に翼が背に生えている。太い爪が床に食い込んでいる。

 体長は恐らく十メートルほどあろうか。

 金色の殺気のこもった目でこちらを見ている。

 鱗竜ドラゴンであった。

 その凶悪な生き物はアスタロートの眷属であった。



「おい、あれってドラゴンじゃないか」

 慌てながら、竜馬が言う。

「見たら、わかるじゃない」

 ホルスターから精霊銃クーフーリンを零子は抜く。

「今度はドラゴンか」

 白虎の剣を構え、獅子雄は言った。

「くるよ」

 短く言い、海斗が警戒する。


 鱗竜ドラゴンが大きく口を開ける。その口に空気が集まり、熱を帯びていく。

 炎が燃え盛り、巨大な火炎の玉となる。

 それが一気に吐き出された。

 火炎の玉は直径一メートルほどあるだろうか。

 鱗竜のブレスは春香たちを焼き殺すべく、襲いかかる。

 まず最初に飛びだしたのは美穂であった。

「今度は負けない」

 そう言うと美穂は鬼切安綱を抜き放つと固有特技ユニークスキル剣技流星を発動させる。

 真横一文字に鬼切安綱を走らせると火炎の玉は見事に両断された。

 二つに別れた火炎の玉の一つを零子は狙い撃つ。精霊銃クーフーリンの威力をもって、火炎はかき消された。

 獅子雄は白虎の剣を振るい、炎を打ち消す。彼も固有特技ユニークスキル獅子奮迅を発動させていた。身体中に力が漲る。

 

 晴明の杖を頭上にかかげ、幾度か回転させる。精神を集中させ、虚空をみつめる。彼はあるものを想像し、この世界に創造しようとしていた。

「来たれ‼️」

 短くさけぶと、海斗の目の前に中華の甲冑をきた背の高い人物が出現した。

 手には長大な三叉戟を持っている。

 額にはもう一つの目が輝いていた。

 三眼の武人であった。

「我は二郎真君なり」

 その武人はそう名乗った。


 



 

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