第35話アスタロートの階層
くるりと菊一文字を回転させ、美穂は鞘に納めた。白い肌の美女の後ろに春香たちの姿を確認し、彼女は安堵した。
「無事でよかったよ、大将」
そういい、はでに抱きついたのは竜馬であった。大声で本気でうれしそうな姿をみて、空美は緊張がほぐれる気がした。
愛する兄がいて、強い美穂がいて、陽気な竜馬がいても部屋にとじこもり、戦闘を行うのは緊張の連続であった。それが春香の顔を見たとたん、ほぐれる気がした。やっとこれで、皆がそろった。そのことに彼女も安堵していた。
「本当に無事でなによりです。で、こちらの女性は?」
海斗がきいた。
「彼女はホルミスダス。三博士の一人だよ。この階層に来る前に解放に成功したんだ」
ホルミスダスは少し腰をかかがめ、挨拶する。
「我が名は三博士が一人、ホルミスダス。皆様、以後お見知りおきを……」
「なるほど、では残りは一人というわけか……」
形のいい顎に手を起き、海斗は言った。
「そうですね。それについて、ラルヴァンダードがすでに位置を特定しているんだ」
春香は言う。
何故か、ラルヴァンダードは春香の首に褐色の肌をした腕をからませていた。何度も獅子雄がひきはなすが、隙をついてはぴったりと抱きつくのであった。最初、照れていた春香も、もはやそれが自然となったいた。
それはホルミスダスも同じで彼女は春香のすぐ前を歩いていた。油断するとすぐに触れあうほど近い距離であった。
「最上階の七十階層に大きな霊的反応があるの。きっとそこに姉さんが捕まっているに違いないわ」
ラルヴァンダードが説明した。
「やはり、最上階か。迷宮のセオリーとはいえ、すこし、セオリー通りな気がするな」
海斗がなにか思案しながら、言う。
「だが、行くしかないだろう。また何か罠があるかもしれないが、こんな所でずっといるわけにも行かないしな」
腕をくみ、竜馬が言った。
「そうよ、皆そろったことだし、最上階をめざしましょう」
腰のホルスターにぶら下がる精霊銃クーフーリンを零子はなでた。
「うん、行こう」
そう春香がいい、最上階を目指すことになった。
最上階への道のりはそれなりに苦労したが、進化した武器を使う零子と獅子雄の手によって、戦いは勝ち続けることができた。
「すごい、威力だな」
干し肉を獅子雄に手渡し、竜馬がいった。干し肉は塩味がきいていて、疲れたからだに染み渡るうまさだった。
すでに六十九階層にたどりついていた。
その部屋は広く、何者の気配もない。
ただ中央に円形の筒がのびているだけだった。
「あそこが最上階に通じるエレベーターだよ」
ぴょんと春香の肩にとびのり、ディスマが言った。くんくんと春香の匂いをかいでいる。
「なんか嫌な匂いがするな」
と一人、小声でいった。
陛下、最上階にいくにあたり、ほかの皆さま方の武器を強化されてはいかがでしょうか。
ペトロ会長が進言する。
「皆の武器を獅子雄と零子さんのように強化できるけど、どうでしょう?」
海斗、空美、美穂、竜馬に聞くと、彼らに異存はなかった。
岬海斗の烏の杖は晴明の杖に進化しました。
岬空美のクレオパトラの首飾りはガヴリエルのアミュレットに進化しました。
岸和田美穂の菊一文字は鬼切安綱に進化しました。神木の弓は為朝の剛弓に進化しました。
住吉竜馬の鬼包丁は霊刀カルラに進化しました。
「こいつはすごいな」
竜馬が言った。
霊鳥カルラが彫られたその小太刀は冷たいほどの冷気を放っていた。長い料理包丁のような形をしていて、見るものを魅了する美しさを持っていた。
「よし、これで準備はできたね。さあ、いこう」
春香の合図で全員がエレベーターに乗り込む。
ラルヴァンダードとホルミスダスを加えて、合計八名。全員が乗り込んでもあまりあるスペースを持ったエレベーターであった。
鉄の扉がゆっくりと開く。
そこはかなりの広さの空間であった。びっしりと赤い毛の絨毯が敷き詰められている。
獅子雄と零子を先頭にその広大な部屋にでる。
美穂ははるか前方に玉座を見つけた。そこには黒い羽を生やした男が座っていた。
その後ろに金髪の女性が壁から生えた鎖につながれていた。
「あれが堕天使アスタロートじゃ」
ホルミスダスが苦々しげに言った。
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