第34話集結

 ラルヴァンダードの腕の中で正気を取り戻したホルミスダスは彼女の手を借り、立ち上がる。

 腕を下腹部に当て、ホルミスダスは深々と頭を下げる。

「操られていたとはいえ、わが君に刃をむけた罪は万死に値します。ですが、願わくばわが君を命をとしてお守りすることでお許しいただけないでしょうか」

 涙ながらにホルミスダスは言った。

「気にしないで。君は操られていたんだろう。なら、悪いのはその君を操った悪魔じゃないか」

 ホルミスダスの白い肩に手をあて、春香は言った。

「ありがとうございます、わが君。鉄と炎を司る博士ホルミスダス、これからはあなた様の剣となり、この体尽き果てるまでお仕え致します」

 涙を手で拭うと、ホルミダスは顔をまっすぐ前にむけた。

「よかったね、ホルミスダス姉さん」

 ホルミスダスに抱きつき、ラルヴァンダードは言った。


 三博士の一人、ホルミスダスの解放に成功しました。

 ドロップアイテム「堕天使の剣」「ダマスカスの円月刀」「アスタロートのサークレット」をアイテムボックスに送ります。



「春香くん、私が協力できるのはこれまでだ。これ以上、上にいくとあの善き盗賊ディスマに感ずかれるかもしれない。君の幻影都市に身を潜めさせてもらってもいいかな」

 小声でサンジェルマン伯爵は春香にいった。

「わかりました。ありがとうございました」

 少し考えてから、春香は答えた。ここで彼に抜けられれば、戦力はおちるが、サンジェルマン伯爵にもなにか理由があるようだ。ここは彼の申し出を受けることにした。



 サンジェルマン伯爵が幻影都市に移動しました。

 幻影都市にサンジェルマンの屋敷が増設されました。

 なお、サンジェルマンの屋敷へのアクセス権はユーザーの天王寺春香だけが有します。


 サンジェルマン伯爵が突如きえたことに零子は疑問に思った。獅子雄は怪しい人物がきえたので、その剣技には敬意を払うものの、内心清々としていた。

 俺がもっと強くなって、春香を守る。

 彼はそう心に誓った。

「あの黒マントの男はどこにいったんだ」

 零子はきいた。

「彼はいったん戦線を離れるようだ。理由は僕にもよくわからないけどね」

 春香は正直に答えた。サンジェルマン伯爵がなぜディスマをさけるのか、彼は知らない。

「そうか。なあ、春香。私はあんたのことけっこう気にいってきてるんだ。なにかあったら頼ってくれよ」

 ふふっと微笑し、零子はいった。

「ああ、そうするよ。零子さん」

「零子でいいよ」

 と零子は言った。



 その部屋の扉を守るのは美穂であった。すでにその扉をやぶり、侵入しようとしてきた怪物、悪魔、妖鬼の類いを菊一文字の刃のもとに葬ってきた。

「だいじょうぶですか」

 空美は声をかけ、治癒の光を彼女にあてる。

「ありがとう、空美」

 笑顔で感謝する。

「あの声が聞こえてから、かなりたちます。春香さんたち無事だといいんですけどね」

 心配そうに空美はいった。

「空美、気をつけろ。また、外に誰かいるぞ」

 何者かの気配に気づき、海斗は言った。

「そのようだ」

 干し肉をかじりながら、竜馬はフライパンを肩にかつぐ。

 やや腰を落とし、美穂は抜刀の構えをとる。

 彼女は目を見開き、扉をじっと見ていた。

 ゆっくりと扉が開く。

 まばたき一つせず、美穂はその様子は観ていた。

 扉の隙間に人の姿が、かいま見えた。

 その瞬間、美穂は固有特技ユニークスキル抜刀術を使い、菊一文字を走らせる。

 銀の刃が空を切り裂くとき、いかなる魔物も目の前で一刀両断してきた。

 だが、はじめてそうはならなかった。

 剣姫ホルミスダスはわすか数センチに頭を後方にずらし、菊一文字の切っ先をかわした。刀はホルミスダスの黒い瞳の前を過ぎていく。

「すばらしい、剣技だ」

 感嘆の声をホルミスダスはもらす。

「美穂さん、剣をさげて。僕たちだよ」

 あわてて、春香はホルミスダスの背後から、声をかけた。

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