第33話剣姫解放

 豪雨のように振り下ろされる円月刀を獅子雄はどうにか防いでいた。防戦一方では目の前の悪魔に操られているという博士を救うことはできない。それどころか、自分の身も危ないかもしれない。


「獅子雄、一旦引くことはできないか」

 春香はきくが、どう見てもそれは不可能な状態だった。

 凄腕のサンジェルマン伯爵も苦戦を強いられていた。


「ねえ、村雨丸。もとの短刀にもどれるかな」

 ラルヴァルダードが狐耳を撫でながらきいた。

「はい、大丈夫です」

 狐耳をひくひくさせ、村雨丸は答えた。

「王様、時間稼ぎ程度でよければ、あたしにまかせてくれないかしら」

「わかった、頼むよ」

 そう春香がいうとポンと白い煙をたて、村雨丸は一瞬にしてもとの妖刀村雨にもどった。

 妖刀村雨を鞘から抜き、ラルヴァンダードは剣姫に斬りかかる。

「ほら、時間を稼ぐから、王様のところにもどりなさい」


 ラルヴァンダードは獅子雄と入れ替わる。水気ほとばしる村雨をもってラルヴァンダードは剣姫に対抗するが、現状を維持するので精一杯であった。

「やっぱり、近接戦闘で姉さんに敵わないものはいないわね」

 苦戦しながらもラルヴァンダードはどこか嬉しげだった。


「獅子雄、零子さん。今から君たちの武器を進化させるよ。いいね」

 春香は二人に言った。

「ああ、頼むよ」

「うん、お願いするわ。どうにかこの事態を打破しないとね」

 獅子雄と零子は同時に頷いた。



 ペトロ、頼むよ。二人の武器を進化させてくれないか。

 幻影都市の住人ペトロに春香は命ずる。

 陛下のお心のままに。

 うやうやしくペトロは言う。


 目を開けていられないほどの光が二人の武器を包み込んだ。


 武器は変化する。


 豹の剣は一回り太く、長くなり、柄の末端が白虎の形に変化した。銀色の刃が至高の美しさだ。


 魔銃フェンリルは銃身がさらに延び、全長五十センチほどの巨大な銃へと姿をかえた。銃身には槍を持つ戦士の意匠デザインが刻まれていた。


 貝塚獅子雄の豹の剣は白虎の剣に進化しました。

 難波零子の魔銃フェンリルは精霊銃クーフーリンに進化しました。


 白虎の剣の白銀の刃を見て、獅子雄は確信した。

 この剣ならやれる。

 剣を持つ手にみるみる力が湧いてくる。


 固有特技ユニークスキル獅子奮迅を使用し、獅子雄はホルミスダスに攻撃する。

 両腕を最上段にかかげ、力任せに撃ち下ろす。

 またもや円月刀で受けながそうとするが、そうはならなかった。

 獅子雄のほとばしるほどの攻撃力により、受けきれなかったのだ。円月刀は床にむなしく落ちる。カランと乾いた音をたて、転がっていく。

 あまりの力で撃ちつけたため、ホルミスダスの手は震えていた。


 「隙あり」

 僅かな隙も見逃さず、サンジェルマン伯爵はホルミスダスの手に刺突を繰り出す。

 見事サーベルの切っ先が手のひらを突き抜く。

 耐えきれず、ホルミスダスは長剣を落とす。


 よし、今だ。

 心の中で零子はいうと精霊銃クーフーリンを構える。

 固有特技狙撃を使用し、ホルミスダスを狙い撃つ。

 ドンという内臓をゆさぶる音を発し、弾丸が発射される。あまりの反動のため、立ったまま一メートルほど後退した。床には零子の靴でできた傷がはしる。

 轟音と共に弾丸は空気を切り裂く。ちいさな鎌鼬が弾丸の軌道上に発生する。


 その銃撃もホルミスダスに見切られていた。彼女はわずかに顔をそらし、弾丸をよける。

 弾丸はホルミスダスの秀麗な顔の頬を傷つけるだけだった。

 外れた弾丸は空中で弧を描き、再度ホルミスダスを襲う。

これにはさすがに軌道を読みきれなかったようだ。


 ホルミスダスが驚愕の表情を浮かべたとき、すでに弾丸は額のサークレットだけを粉々に撃ちくだいた。


 両手をつき、ホルミスダスは床に倒れる。

「姉さん」

 ラルヴァンダードは叫ぶように姉の名前を呼び、その肉体を抱き抱えた。

「ううっん……」

 ランヴァンダードの腕の中で意識を取り戻したホルミスダスの瞳は黒色に変わっていた。


 

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