第25話ミノタウロスとの死闘
ラルヴァンダードと名乗る少女の声が頭のなかに響く。
「ラルヴァンダード、君はなにものだい」
春香は心のかで問う。
「あたしは東方三博士の一人ラルヴァンダードよ。大地と獣を司る博士。アスタロートの奸計によって怪物のなかにとじこめられたの。お願いです、助けて、王様」
その少女の声は悲痛だった。
「わかったよ、なんとかしてみる」
春香はその悲しいまでの願いにこたえることにした。
その様子を獅子雄は黙ってみていた。この世界にきてから、親友の様子がおかしい。今のように相手もいないのにぶつぶつとなにかを喋っている。そしてそのあとはなにかを決意したように語りかけるのだ。いったい春香はどうなってしまうのだろうか。本当に王とやらになってしまうのか。
「海斗さん、あの怪物のなかに三博士の一人が囚われています。どうにかして、助けられませんか」
春香は海斗にたずねる。
「春香くん、どうやらまたなにか見えたようだね。わかった、どうにかしよう」
そしてこういう時、春香が頼るのは自分ではなく海斗なのだ。
海斗の優れた戦略眼はたしかに認める。
だが……。
どうしてもっと自分を頼ってくれないのだろうか。
今まではずっと俺にべったりだったのに。
それが日常だったのに。
獅子雄はただだまって彼らのやりとりを見ていた。
グオオオッとミノタウロスは鼓膜がいたくなるほどの凶声をあげた。
真っ黒な戦斧を頭上にかかげ、春香たちに突撃してくる。
「零子さんと美穂さんと僕で遠距離攻撃で足止めします。獅子雄君、あの戦斧をどうにかとめてくれ。竜馬さんと空美は春香くんをたのむ」
矢継ぎ早に海斗は指示をだしていく。
心のなかにもやもやとするものがのこるが、勝ち抜き、生き残るためには作戦に従うしかない。
獅子雄は抜剣し、ミスリルの盾を身構える。
空気を切り裂き、弾丸は駆け抜ける。
見事命中するが、かの牛頭の額にかすかな傷をつけるだけだった。
「くそ、火力がたらない」
零子は悔しがる。
零子は一撃で仕留められなかったことに悔しがったが、ミノタウロスの突撃をわずかに緩めることに成功した。
引き続き美穂が間髪いれずに矢を放つ。
連射能力を使い、美穂は必殺の一撃をくりだす。
ほぼ同時に海斗が烏の杖をふる。
矢が真っ赤な炎をまとい、ミノタウロスを攻撃する。
矢はミノタウロスの肩に突き刺さり、灼熱の炎が皮膚を焦がす。
確実にダメージをあたえているはずだが、お構い無しにミノタウロスは戦斧で突撃する。
激しくふり下ろされる戦斧を獅子雄は的確にミスリルの盾で受け流す。受け流すことには成功したが、腕にしびれが残り、しばらくは盾を上にあげることはできなくなった。
斬撃の方向をずらされた戦斧は床にめりこむ。床の石が破片となって周囲に飛び散った。
「今だ、美穂さん」
海斗がいう。
無言でうなずき、美穂は全速力で床をかける。床にめりこんだ戦斧に飛び乗り固有特技抜刀術をくりだす。菊一文字は水平にミノタウロスの腹部を切り裂く。赤黒い血が噴水のように吹き出し、美穂の愛らしい顔を真っ赤に染めた。
美穂は見た。
彼女が切り裂いた傷口の奥に赤毛に褐色の肌をした美麗な少女が眠っているのを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます