第23話バベルの塔

 コテージのリビングに集まった皆に春香は新しく作り上げた防具をくばった。

 勇士の籠手を手首にはめ、くるくると手首を左右にまわし、装備の具合を美穂は確かめた。まるでつけていないかのように軽く、装備していると心のなかにある恐れが薄まり、勇気が湧いてくる気がした。


 魔女の闘依を受け取った零子は一度個室にもどり、着替えてでてきた。

「おお、凄いね」

 うれしそうに竜馬はいった。周瑜の厨依を着た彼は完全に中華の料理人であった。

 その厨依は清朝末期に西太后に仕えた特級厨士が着ていたものだという。


 竜馬が感嘆の声をあげるのも当然であった。


 魔女の闘依はチャックのないライダースーツのようなデザインであった。体にぴったりとフィットしていて零子の抜群のスタイルの良さが際立って見えた。形の良い胸に細い腰つき、引き締まったおしりは魅力的だった。


 どうやって着たんだ。

 獅子雄は単純な疑問を持った。

 彼の腕には白銀色に輝くミスリルの盾が装備されていた。


「あのもしかして、零子さんってモデルでコスプレイヤーのレイさんですか」

 お姫様のようにアルテミスのティアラを着けた空美はきいた。

「うん、そうだよ」

 零子は腰のホルスターに魔銃フェンリルを納めながら言った。

「やっぱり、私ファンなんです。SNSもフォローしてます」

 珍しくテンションをあげながら空美は言った。

「ありがとね、空美。あんたもシンデレラみたいでかわいいよ」

 うふふと微笑みながら零子は言った。


「春香くん、皆用意ができたようなので行こうか」

 闇の長依ローブを着た海斗が言った。その容貌はかのマーリンを連想させた。

「そうですね、いきましょう」

 春香は答えた。



 次元の扉を開けて、外にでるとそこは砂漠であった。風が吹く度に細かい砂が舞う。

砂漠地帯であったが思ったほど暑くはない。

空を見れば分厚い雲におおわれていた。

砂漠であるのに曇っているという不思議な光景であった。

 遠くの方になにか大きな建築物がある。

「あそこが次のステージ‘’嫉妬‘’の攻略ポイントだよ。まずはあそこまで行ってみよう」

 ディスマがそう説明した。

 とことこと前方をあるき、春香たちを導く。

 ぐるりと周囲を美穂は警戒する。

 見渡すかぎりそこにあるのは砂漠とその建築物だけであった。

「どうやら敵の気配はなさそうですね」

 美穂は言った。

「ええ、そのようですね」

 海斗も同意見であった。



 三十分ほど歩いただろうか。春香たちの視界にはいってきたのは巨大すぎる石造りの塔であった。どんなに見上げてもその塔の頂上は視認するこたはできない。

「でけえな」

 竜馬が感嘆の声をもらす。

「ええ、そうですね」

 素直に春香もその意見に賛同した。

「あの塔が今回のステージ‘’嫉妬‘’の攻略目標だよ。名前はバベルの塔。あの塔のどこかに東方の三博士たちが捕らえられているんだ。その三博士の解放がこのステージの攻略条件だよ」

 ディスマが可愛らしい少女の声で説明した。

「今回はただボスを倒せば良いというわけではなさそうですね」

 はるかなる高さをほこるバベルの塔を見上げながら海斗は言った。

「ええ……」

 春香も同じように塔を見上げる。


「ついに迷宮ラビリンス攻略か」

 零子がどこか楽しげに言った。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る