第18話想像する力

 分厚い刃の刀を十兵衛が振るうたびにアベルは防戦を余儀なくされた。ガツンガツンという鈍い音が室内に響きわたる。

 片眼の剣士の攻撃を受けるたびにアベルの美しい顔は苦痛に歪んだ。


「僕は解りかけているのかもしれない。僕らがあたえられた武器は想像したことを具現化できる力があるのではないかと。戦闘経験のない僕たちが魔物と戦えるのも戦闘のイメージをこの武器たちが実現させているとしたら。零子さんや美穂さん、獅子雄くんたちがなんの訓練もなしに、あのように動けるのは無意識にこう動けたらというのを想像し、この武器がそのイメージに対応しているのだとしたら」

 海斗が春香に語りかける。

「そのとうりだよ。君たちの武器は人間だけがもつ想像力を力に変える武器なんだよ」

 ディスマが代わりに答える。

「ということはあの剣士は海斗さんが想像力でつくりあげたということですか」

 戦闘をみつめながら、春香は言った。

「ああ、そうだよ。あれは歴史上の柳生十兵衛三厳ではない。僕が思い描いた柳生十兵衛だ」

 海斗はにこりと微笑み、言った。

「海斗さん、あなたはいったい……」

 春香はきく。

「なに、しがない歴史の教師さ」

 海斗は答えた。


 ついにアベルは十兵衛の攻撃に耐えきれず、レイピアを床に落とした。

 カランという乾いた音をたて、レイピアは床を転がる。アベルは手首をおさえ、床にかがみこむ。


 刀の切っ先を十兵衛はアベルにむけている。

「さあ、もう諦めたらどうです。大人しく僕たちを解放すれば、これ以上の危害を加えません。それでいいですよね、春香くん」

 海斗は春香に問う。

 最終的な決断を春香に委ねるということは、彼なりにリーダーと認めているという証左であった。

「異論はありません」

 春香は答えた。


 歯を食いしばりカインはその言葉をきいている。

 雨あられと降り注ぐ火の玉の攻撃は獅子雄の鉄の大盾と竜馬のフライパンによってことごとくふせがれていた。


 いまだに意識を回復しない零子と美穂のそばに春香は歩み寄る。

 毒素は空美の治癒能力によってかなりとりのぞかれているものの、完治にはほど遠い状態であった。

「すいません、まだ完治するには時間がかかりそうです」

 空美がくやしそうにいった。

 彼女は固有特技ユニークスキル祈りの力によって治癒能力を向上させ、聖霊の力によりその効果範囲を二人分にまでひろげていた。固有特技を二つ同時に使っていたためその顔色は疲労の色が濃かった。

「ためしたいことがあります。想像を力にかえられるなら……」

 スマホの画面をタップする。


「ペトロ会長、ききたいことがある」

「なんでしょうか、陛下」

「彼女たちの体内にある毒素を物質にかえてとりだし、アイテムボックスに送ることは可能か」

「お安いご用です、陛下。無論、その分のおジューダス・ペインはいただきますが」

「わかった、やってくれ」

 春香は命じた。

「お心のままに」

 ペトロ会長は答えた。


 スマホがパッと明るく輝く。

 うんんっと声をもらし、零子と美穂は意識を取り戻した。


 ドロップアイテム「エルフの秘薬」をアイテムボックスに送ります。


 成功した。

 彼女たちの体内の毒素を無事アイテム化に成功したのだ。


 その様子を見て、カインは歯を食いしばり悔しがる。

「このままでは、このままでは……」

 腰のベルトにぶらさがる短刀を引き抜き、その銀色の刃を手のひらに押しあてた。それを一気に振り抜く。鮮血が床に飛び散った。


「やめて、カイン兄さん‼️」

 悲痛な叫びをアベルはあげる。





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