第17話エルフの罠
震える零子の体を抱きよせ、空美は治癒の光をあてる。手のひらから発せられる優しい淡い光によって、苦しんでいた零子は安らかな表情に戻る。
次に美穂の体を抱える。
彼女にも治療を施す。
「さすがに全員とまではいきませんでしたか……」
若干くやしそうにカインはいった。
「なぜ、こんなことをするのですか」
春香が問う。
「なぜって。お答えしましょう。それは我々を滅亡からすくうためです。私たちはもとはあなたがたと同じ人間なのです。故にあなたがたとなら、繁殖は可能なのですよ。あなたがたにはこの世界にとどまっていただきたいのです。そのためにあなた方に抵抗してもらうのは困るのですよ」
そうカインが言うと、周囲に火の玉がいくつか浮かび上がった。
「だから俺たちに毒をもったわけか」
豹の剣を抜刀し獅子雄は春香の左前にたつ。
「獅子雄、食べなかったんだね」
うれしげに春香はいう。
烏の杖の先端をカインにむけながら、海斗は春香の右前にたつ。
「君は、スマホを握って僕をみたね。料理に手をださずにだ。それは手をつけるなって意味だろう」
海斗が言った。
「そういうわけだ」
獅子雄は代わりに答える。
「ああー痛い痛い」
頭をなでながら、キッチンから竜馬がフライパンを手に出てきた。
その様子を見て、アベルが驚きの表情をとる。
「頭をなぐられるは縛られるは、ひどいめにあったよ」
ちらりと竜馬はアベルを一瞥する。
「町工場の職人をなめてもらっちゃあこまるな。あれぐらいなら、なんなくほどけるよ」
そう言うやいなや、竜馬に火の玉が飛来する。
それを素早くフライパンでふせぐ。
「危ない、危ない」
そう言い、竜馬は春香の前に立つ。
「よう、大将。またやっかいなことになったな」
と春香にいった。
そのどこか場違いな明るい口調に春香は微笑した。
「あなたがたは世界をどのような形につくりなおすつもりですか。まさか元の世界にもどりたいと思ってるのですか。そこはあなたがたが本当に幸福になれる世界なのですか。美しい我々と暮らすほうが幸せになれるかもしれませんよ」
カインが言う。
「すまないが、拒否するよ。このような手段をとる君たちを僕は信頼できない。それに僕たちはこの世界に留まる気はない」
と春香はいった。
「そう言うことだ」
鉄の大盾を獅子雄は身構える。
「では力ずくでいうことをきいてもらいます」
空中に浮かぶ火の玉が猛スピードで春香たちに襲いかかる。
野球のバッターの要領で竜馬はフライパンで打ち返す。火の玉は壁に跳ね返り、消滅した。
「もうあんたなんでもありだな」
そう獅子雄はいい、鉄の大盾で火の玉を防ぐ。
彼は
「大丈夫か、春香」
後方の春香を気遣う。
「ああ、なんともないよ」
春香は答える。
アベルがレイピアを抜刀し、海斗に斬りかかる。
彼は一呼吸し、烏の杖を降る。
その間にもレイピアが迫り来る。
「兄さん‼️」
思わず空美が悲痛な叫びを上げる。彼女の愛する兄があの亜矢のように死んでしまうという恐怖にかられての悲鳴であった。
だが、そうはならない。
抜き身の日本刀を持った片眼の剣士がアベルの斬劇を防いでいた。
ガツンと鉄と鉄がぶつかり合う音がする。
「柳生十兵衛見参」
その片眼の剣士は名乗った。
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