第16話滅亡の理由

 通された部屋はかなりの広さであった。

 奥の暖炉にカインがふっと息をふきかけると、火がちろちろと点いた。壁にいくつもあるランプに火がついていく。

 それは彼の扱う魔法であった。

 彼は周囲に存在する精霊に働きかける力を有していた。

 長大な円卓がおかれており、春香たちは囲むように座った。

「たいしたものは用意できませんが、お食事を用意しますね」

 そう言うとアベルは台所に消えていった。

「いいねえ、丁度俺も腹が減ってたんだ。なあ、カインさん、ちょっとキッチンをかしてもらえるかな」

「ええ、どうぞ」

 カインがそう答えると腕まくりしながら、竜馬もキッチンに入っていった。



 アベルも空いている席に腰かける。

 食卓の燭台に白いろうそくがささっている。そこにも火がともされる。

「食事ができるまで、簡単ではありますが、私の話を聞いてもらえますか」

「ええ」

 と春香は短く答える。



 遠い遠い昔の話です。かつてこの大地はあなたがたと同じ人間が支配していました。

 その当時の人間は空を飛ぶ乗り物で世界中を往き来し、小さな機械で遠く離れた友人たちと会話のやりとりができたといいます。

ですが、その栄華を極めた人間にも突如、終焉を迎えます。

 未曾有の大災害が世界中で起き、それに伴う物資不足によっておろかにも世界中で戦争が勃発したのです。

 その時使われた生物兵器によって人類は滅亡に瀕しました。

 当然のように自然環境も破壊しつくされ、とても 人類がすめるような環境ではなくなっていたのです。

 当時の科学者たちの組織「バルトロマイの賢者」は人類を存続させるために遺伝子を改良しました。

 それがあの醜い緑の小人と私たち森の一族です。

 緑の小人は厳しい環境でも子孫を増やせるように屈強な肉体と旺盛な繁殖力を持つように改良して生まれたのです。そのかわり、彼らはかなり知性が低下してしまいました。

 私たち森の一族は不死に近い寿命と精霊に感応する力を与えられました。ですが、その分繁殖力は限りなく低くなってしまったのです。

 かつて四万人ちかくいた森の一族も時がたつにつれ減少していき、ついには我々だけになったしまったのです。



 じっと話をきいているうちにアベルが料理を運んできた。

 野菜のスープに黒パン、きのこのソテーであった。

 決して豪華ではないが、食欲のそそる良い香りがした。

「良い匂いだね」

 くんくんとスープの香りをかぎ、零子はいった。

「そうね」

 と美穂が相づちをうつ。


「さあさあ、どうぞお召し上がりください」

 とアベルがうながす。


「きこえるか、春香くん」

 その時あのサンジェルマン伯爵の声が脳内に響いた。

「あ、その声はあの時の……」

 春香が心の中で答える。

「気をつけろ、その料理食べるんじゃない」

「それはどういう訳ですか」

「そいつは危険だ。やつらの企みに乗るんじゃない」

 またもやそこで声は途切れた。

 スマホを持つ手をぐっと握り、春香は海斗を見た。

 海斗と視線が合う。


 バタンと大きな音がした。

 スープを口にした零子と春香が倒れた。

「きゃあ‼️」

 高い悲鳴を空美は上げた。


 その光景をうれしげにカインとアベルは眺めていた。


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