第10話サンジェルマン伯爵の助言

 もう一度、春香は周囲を見るが声の主は見当たらない。それに誰も声に気づいていない。やはり、この声は自分だけに聞こえているようだ。

「善き盗賊ディスマの隙をついて、君にはなしかけている。私はどこにでも存在し、どの時代にも存在できる人間なんだ。時間がない、すでに戦士がひとり亡くなっている。手短に言おう、魔女アラクネーの弱点は蜘蛛の胴体の内側だ。そこにあの魔女にとって大事な器官がつまっている。そこを狙いたまえ。どうか信じて欲しい新しい王よ。私は君たち残された人類の味方だ……君たちの勝利を信じている。このふざけたゲームを勝ち抜くのだ」

 声が遠ざかっていく感覚がした。

 サンジェルマン伯爵の声は聞こえなくなっていった。


 この声の言葉をどこまで信じていいのだろか。だが、悩んでいる時間はない。はかなくも亜矢が亡くなり、どうにか獅子雄が攻撃を防いでいるが、このままでは事態を打開できない。

 ここは一か八かサンジェルマン伯爵の言葉を信じてみよう。

 それは直感のようなものだった。

 直感はあの言葉が真実であるとつげている。

 春香は得体の知れない自信のようなものを持ち、海斗に語りかけた。


「海斗さん、あの蜘蛛女の弱点は蜘蛛の胴体の内側です。どうにかそこを狙えませんか」

「そこが弱点なのか……なぜ君はそんなことを知っている?」

 疑問を海斗は持つが、すぐに首を左右にふった。

「いや、僕は君の言葉を信じよう。他に信じるものがない今、僕は君を信じるよ。君が王として選ばれたというのなら」

 そう言い、海斗は数秒思案する。

「春香くん、ペトロ商会を使って盾のようなものをつくれないか」

「やってみます」

 春香はペトロ商会に接続する。


「御用はなんでしょうか、陛下」

 うやうやしくペトロは答える。

「盾を作りたいんだが……」

 ふっとペトロは微笑する。

「お安いごようです」


 ドロップアイテム銀蝿の羽と大亀の甲羅を使用します。

 よろしいですか?


 答えはイエスだ。


 鉄の大盾が錬成されました。


 空間を切り裂き、鉄製の巨大な盾が獅子雄の前に出現した。人ひとりが隠れることができるほどの巨大なものだ。


「獅子雄、そいつを使って‼️」

 春香が叫ぶ。


「わかった‼️」

 獅子雄は空中に浮かぶ鉄の大盾を掴む。内側のベルトに腕を通し、装備する。


 優雅にして華麗に海斗は烏の杖を振るう。

 火竜サラマンダーが出現し、魔女アラクネーの顔面めがけて紅蓮の炎を吐く。

 高熱の炎がアラクネーを襲う。

 漆黒の前足をあげ、炎を防ぐ。炎はかすかに足を焦がすだけだった。

 蜘蛛の胴体が少し上に上がっていた。


「今だ‼️獅子雄くん、アラクネーの体を盾でもちあげるんだ‼️」

 海斗が肺が痛むほど大声をだす。

「了解」

 短く言うと獅子雄は固有特技ユニークスキル突撃を使用する。獅子雄の腕力が数倍に増す。鉄の大盾でアラクネーの体を持上げる。

 だが、力がわずかに足りない。

 持上げきれずにいる。

「手をかすぜ、兄弟」

 そう言うと竜馬は鉄の大盾の下に潜り込み、獅子雄と共にアラクネーの体をもちあげる。

 二人は渾身の力で押し上げる。


「零子さん、下に潜り込んでやつの下っ腹に風穴を開けてやれ」

 海斗がいうと同時に零子は全力で駆け、アラクネーの体の下に滑り込む。

 胴体下に滑り込んだ零子はアラクネーの腹部に向けて魔銃フェンリルの引き金をひく。

 十発もの弾丸が発射され、胴体を突き抜ける。

 赤黒い血が噴水のようにふき上がった。

 鮮血が零子の顔を染め上げる。

 不適な笑みを零子は浮かべた。

「仇をとれ、美穂‼️」

 零子は言った。







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