第8話闇の中の行軍

 三時間ほど休息をとった春香たちは車外にでることにした。

「いつまでもここにいるわけにはいかないしな」

 うーんと背伸びをし、零子は言った。

 いくら安全地帯になったとはいえ、ここにとどまっていても何もはじまらない。

 不本意ではあるが、ディスマのいう通りこのゲームをクリアしなければ生き残る術はない。

 また、あのような恐ろしい敵と戦わなければいけないかと思うと亜矢は涙が出そうになった。

 美穂が彼女の肩をだき、なんとか励ました。

「私がついてるから、しっかりしなよ。私がこの菊一文字で守ってあげる」



 車外はほとんど見えない闇であった。

 海斗が軽く烏の杖を振るうと前後左右に拳大の炎が四つ浮かんだ。

 周囲が随分と見やすくなった。

 それでも遠くの方は暗くて見えない。

 足元の様子から察するにどこかの地下街のようだ。床は所々ひび割れ、歩きにくそうだ。もしかするとどこかの地下鉄の駅構内かそれにつながる地下エリアなのかもしれない。

「提案があるんだけど」

 と海斗が春香に言った。

「何ですか?」と春香。

「これから移動を行うにあたって、陣形をくんだほうがいいと思うんだ。まずは前衛に零子さんと獅子雄くん。中央は君を守るかたちで僕と空美、竜馬さん。後衛は美穂さんと亜矢さんにお願いしたいんだ」

「そうですね。適当に進むよりもその組み合わせのほうがバランスがよさそうですね。僕に異論はありません」

 春香は答えた。

 皆、それには異論はなかった。


「このエリアのどこかにステージを支配するボスがいると思うよ。そいつを倒せばこのステージはクリアだね。そして簡単にいうとそれを七回くりかえせばこのゲームはクリアって寸法さ」

 ディスマがそう解説するが、竜馬はそんな簡単な話じゃないんだろうと心中でどくついた。



闇の中を海斗が作りだした炎を頼りに行軍する。一歩、一歩と確かめるように慎重に歩みを進める。


 突如、左前方から巨大な鷲が飛び出した。頭が二つある凶悪なものだった。ナイフのような鋭い爪で 春香らに襲いかかる。

 零子は氷の心で対応する。

 固有特技ユニークスキル狙撃を発動させる。

 魔銃フェンリルが二度火をふく。

 的確に双頭の鷲の頭を粉砕した。


 ドロップアイテム「双頭の鷲の羽」「双頭の鷲の肉」を取得しました。


「ドロップアイテムはアイテムボックスに回収され、後で好きなときに取り出せるよ」

 ディスマが言う。

「便利なものだな」

 獅子雄が感心した。

「そうだよ。それが王者の能力さ」

 そう答えるディスマの声をスマホの画面をながめながら、春香はきいていた。


 四本足のワニ、黒い甲羅の亀、人食い蟻の大群。迫りくる、襲いかかる敵を次々と粉砕しながら、彼らは行軍した。道を進み、突き当たりにあたるともといたところにもどり、違う道にすすむ。

 驚いたことに一度通った道をそのすべてを海斗が覚えていたため、同じ道を二度通ることはなかった。


 そのようにして進むうちに彼らはかなり開けた場所に到着した。

 朽ち果てた大きな噴水が奥に見えた。水はすでに渇れはて、瓦礫だらけであった。


「こちらに来なさい。そこにいたら危険だわ。さあ、早く、こちらへ来なさい」

 その声はどこか懐かしい女性の声だった。もしかすると母親に似ているかもしれない。

 その声を聞いた、亜矢はふらふらと隊列を離れた。


「さあ、さあ、こっちに」

 そう、もう怖いのは嫌だ。

 あんな見たこともない怪物と戦うのはごめんだ。

 美穂や零子さんは平気かもしれないが、やっぱり私には無理なんだ。


「そうよ、こっちにおいで亜矢ちゃん」

 あの声の所はきっと安全に違いない。もう戦わなくてすむんだ。


 亜矢は完全に隊列からはなれてしまった。

 かすかに光るところに導かれる。


「亜矢ー‼️そっちにいっちゃだめ‼️」

 遠くのほうでさけぶ美穂の声がした。

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