第6話最初の勝利
クレイモアでまとわりつこうとする虫たちを幾度か追い払うと獅子雄はディスマに詰め寄った。
「そんな大事なことはもっと早く言えよ」
怒気をはらんでいる。
親友は自分たちと違い身を守る武器をもっていない。そのうえそんな条件があるとは。無論彼は春香を死なせることは絶対にさせないつもりでいる。
ならば攻撃よりも春香を守ることを優先するべきではないか。
獅子雄は春香の真横にぴったりと立ち、クレイモアを構える。
「この戦いが終わったら説明する予定だったんだよ。ベルゼブブの息子たちはそれほど強い敵ではない。現に簡単に倒せているじゃないか。でも完全には倒しきれていない。君たちはバラバラに戦いすぎなんだよ。もっと連携しなくちゃあ」
ディスマは言った。
たしかにそうだ。僕たちはバラバラに武器の性能に任せてたたかっている。
傷口から流れる血をぬぐいながら春香は思った。
「大丈夫ですか、天王寺さん」
胸元のサファイアが薄く輝く。
みるみるうちに傷がふざがった。
どうやら彼女の能力は治癒系のようだ。
「ありがとう、岬さん」
春香が礼を言う。
「空美でいいですよ」
にこりと愛らしい笑顔で空美は言った。
「なるほどね、たしかにその角ウサギの言うとおりだ。そこで提案なんだが、僕と銃をもってる君と弓の学生さんとで周りの虫たちを押さえる。岸和田さんと貝塚くんであの大蝿を頼む。竜馬さんと空美は春香くんをまもってあげて」
早口で海斗が説明する。
「ああ、やってやるよ」
「うん、やってみる」
零子と亜矢が答えた。
「はい、わかりました」
美穂はそう答え、日本刀を正面にかまえる。
その横に立ち、獅子雄は頷いた。
竜馬と空美で春香を挟むようにたつ。
短い杖を海斗は華麗にふった。
車両の前後左右に炎が出現し、虫たちを焼きつくした。紅蓮の炎が駆け抜けていくと消し炭だけが残った。それでもまだまだ虫たちは残っている。点々と小さな集団となった虫に零子は的確に銃弾を浴びせていく。
亜矢もそれに続き、矢を連射する。
ベルゼブブの息子たちは一瞬にしてほぼ壊滅状態となった。
紅蓮の炎の壁を突き抜け、大蝿が突撃してくる。
羽音をかき鳴らし、襲来する。
大きく踏み込み、美穂は斜め下に切りつける。
シュッと風が切れる音がした。
当たれば確実に倒すことができただろう。
だが、刀は空を切るだけだった。
大蝿は直角に右に曲がる。
その様子をじっと獅子雄は見ていた。
タイミングを計っていた。
美穂の斬擊を大蝿がかわした瞬間とびだす。
腰元まで引いたクレイモアを一気に突きだした。
ガツンと鈍い音がする。
大蝿の羽の右半分を切り落とした。
バラバラと硬い羽が落下していく。
バランスを失いフラフラと大蝿は飛んでいる。
「とどめだ‼️」
竜馬が大きく振りかぶり、中華包丁で蝿を真っ二つにした。
ぼとりと大蝿は床に落ち、動かなくなってしまった。そのすぐ後、わずかに残った虫たちは潮が引くようにどこかに消えてしまった。
「最初の勝利おめでとう。この車両と半径10メートルの範囲は君たちのテリトリーになったよ。世界再構築の初めの一歩だね」
ディスマは明るい口調で言った。
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