第5話切り抜けろ

 笑い声と共に零子は銃を乱射する。次々と虫たちは爆発し、粉微塵となって舞い散っていく。

「あははっ」

 狂喜じみた笑い声をききながら、春香は虫たちが倒されていく度に細かい数字が浮かんでは消えていくのを見た。

「あ、あれは……」

「あれかい、あれはね、ジューダス・ペイン。ユダの痛みだよ。まあ、分かりやすくいえば通貨みたいなものだね。敵をたおせばお金が手に入る。ゲームの基本だね。どれだけ手にはいったかはアプリで見ることができるから、後で見るといいよ。でも今はこの戦いを切り抜けるのが先決だね」

 ディスマは答えた。


 震える手で岸和田美穂は刀の柄を握った。引き抜くと思っているよりも簡単に抜刀できた。

 見た目よりも随分と軽い。

 片手でも十分扱うことができそうだ。

 くるりと回転させ、地面からはいよる虫たちに斬擊をお見舞いした。

 一陣の風が舞いおこり、虫たちを粉砕していく。


 これならいける。

 自信のようなものが湧いてきた。


 一歩踏み出し、一撃を繰り出す度に虫たちは消滅していく。

 気かつけば、春香たちから三メートルほど離れていた。車両の連結部分に近づいていた。

 連結ドアの外側も虫で溢れかえっていた。

 ダムが決壊するようにドアは倒れ、虫たちが流れ込んできた。

 渾身の力で刀を振るものの、一撃によって消滅する虫たちよりもおそってくるやつらのはうが多い。

 あわや虫たちに覆われそうになるところ、亜矢がたちあがり、危ないとさけんだ。

 弓を構えると瞬時に矢があらわれる。大きく引き絞り矢を放つと美穂の頬のすぐ横を突き抜け、虫たちを粉砕した。


 だんと床を蹴ると竜馬は飛び出し、美穂の細い腰をつかむと後ろに飛び退いた。

 追いかけてくる虫たちを中華包丁を振り回し、撃退した。

「あんた、調子にのって前にですきだ」

 竜馬がたしなめる。

「ごめん、助かったわ」

 日本刀を構えなおし、美穂は答える。

「ありがとう、亜矢。やればできるじゃん」


 はあはあと肩で息おし、汗が頬をつたわっていく。

 心臓の高鳴りを覚え、自分の柔らかな胸を亜矢はつかんだ。

 とっさであり、必死であった。

 美穂が危ないと思った瞬間、体が動いてた。

 助けることができた。

 よかった。

 この状況、自分だけが泣いているわけにはいかない。

 本当をいうと逃げ出したくて仕方がない。

 でも、逃げるあてもない。

 震える足にぐっと力をいれ、亜矢は思った。

 まだ死にたくないと。


 うにうにと蠢く虫たちの中からかなり大きな蝿がぶうんという羽音をたて、浮かび上がった。

 その大きさは人の頭ほどはあるだろか。

 赤い複眼がかなり気持ち悪い。

 気の弱い空美はそれを見て、意識を失いそうになった。ふらふらと倒れそうになる体を海斗は支えた。


「あれがこの虫郡のリーダーだね。あいつをたおすと指揮系統を失い、やつらは逃げていくはずたよ」

 ディスマが言った。

「ああ、そうかい。わかったよ」

 その言葉を聞き、零子は狙いを定め、引き金をひく。

 ダンダンダンと銃声が鳴り渡る。

だが、巨大な蝿は弾道を読んでいたかのように動き、そのすべてをかわした。

 大きく一歩を踏み出し、クレイモアで獅子雄は斬擊をくりだす。

 しかし、それもかわされ、ジグザグに目にも止まらないスピードで飛来し、春香に突撃する。

 とっさに獅子雄は春香の体を引き寄せる。大蝿の羽だけが頬をかすめていった。

 うっすらと白い頬に血が流れる。


「戦士の皆さん、気をつけてね。王様が死んじゃったらリヴァイアサンゲームはゲームオーバーだからね」

 ディスマは言った。



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