第2話虫たちの襲撃

 夕日に照らせれた街並みを見ながらすきなアニメソングを聞いていたはずが、急に電車が止まったかと思うと窓には一面の吐き気をもよおすような虫たちで埋め尽くされていた。

 難波零子は立ち上がり、頭のヘッドホンをはずす。

 車内でも同じように窓を見て口を押さえている青年がいたので、近寄る。

「いったいなんなの、これ」

 零子はきいた。

 耳がいたくなるほどの悲鳴をあげ、女子高生二人が彼女に抱きついた。

 身長175センチと女性にしてはかなり背の高い彼女は瞬時に頼りがいのある人間として認識されてしまったようだ。

 いつもこのようにモデルのようなスタイルと派手な外見のため頼られがちであったが、本来は依存性の強い性格なのでこのように抱きつかれるのは不本意だった。

「俺にもよくわからない。でもこれはかなり危機的状況ってのはわかるよ」

 額に浮かぶ汗をぬぐいながら、獅子雄は言った。

「そんなの誰だって見たらわかるわよ」

 ふくれっつらで零子は言う。


 

 ぬるぬると虫たちが窓の隙間から溢れてきた。ちょうどコップに水を少しづついれ、最後に溢れてしまったような光景だ。


「やだー入ってくるよ‼️」

 女子高生の一人が悲鳴を叫びながら、泣いていた。どうやら腰を抜かしているようで零子の腕にぶら下げるかたちになっている。

 泣きたいのはこっちだよ、零子は心の中でそう言い、女子高生をだきしめた。


 背中がなぜかぞくぞくするなそれにチクチクとした痛みがある。

 異変に気づいた住吉竜馬は作業着のなかの背中に手をいれた。

 手をひきぬくとそこには見たこともない不気味な虫が幾匹もへばりついていた。

 べっとりと赤い血がついている。

 痛いのは出血しているからだ。

「くそったれ」

 あわてて上着を脱ぎ、背中の虫をはらいのける。

 虫のすべてを払うと彼も春香たちのほうにかけよった。

「どうなってやがるんだ」

 毒つきながら言葉を吐き出す。


「うわーあー‼️」

 車内に悲痛な叫び声が響きわたる。ドア近くにいたスーツ姿の男が叫んでいた。

 すでに彼の体一面にびっしりと虫によって包み込まれていた。

 人のかたちになった虫たちがいた。

 鈍い音をたてながら、虫たちは男の体をくっていく。血と肉片が電車の床に飛び散るがそれもすぐさま虫によって食われていく。

 あっという間に虫たちは男の肉体を食い尽くしてしまった。


 もう一足おそければ自分たちもそうなっていただろう。

 嘔吐をもよおすような血の匂いがする。

すっぱい生唾を飲み込み、岬海斗は妹の空美の体を抱き上げ、春香たちのほうに集まった。


 

 デニムのポケットに入れてあったスマホが激しく揺れる。それに警報にも似た電子音を発している。あまりに騒がしいので春香は思わずそれを取り出した。


 アプリケーション「リヴァイアサン」がインストールされました。

 アプリを開きますか?


 スマホの画面にはそう表示されていた。



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