プレミア最終節

レッズはアン・スタジアムの奇跡以降、勢いを盛り返してリーグ戦の最後の追い上げに入った。リーグ第35節で3-0、第36節で4-1、第37節で4-2と相手を激しく打ち破った。秀徹は3試合で5ゴール。やはり驚異的な得点力を見せていた。


秀徹は今季、リーグ戦で33試合41ゴール6アシストというとんでもない記録を残している。去年まで31ゴールがプレミア・リーグのシーズン最多得点記録だったというのにそれを軽く抜いてしまうというのはただ事ではない。


(絶対にコイツは歴代最高と呼ばれるような選手になるだろうな…。)


それがクラップの偽らざる思いだ。本当に秀徹の成長は素晴らしい。だからこそ、彼とレッズで出来る最後の仕事になるであろうプレミア・リーグの最終節とチャンピオンズリーグ決勝戦は勝たねばならない。



レッズが好調を保った一方で、マンチェスター・ブルーズも好調を維持。勝ち点を取りこぼさずに1位のまま最終節を迎えている。

この二チーム以外の順位はすでに確定している。3位はロンドン・ブルーズ、4位はクラブトッテナム、5位はアーセナム、6位はマンチェスター・ユニオンとなった。


先程確定していると言ったが、どういう意味かと言えば、マンチェスター・ブルーズとレッズ以外のリーグ戦はすでに終わっており、日程調整の関係で奇跡的にこの2チームによるリーグ第28節に入る予定だった試合がまだ行えていなかった。

つまり、リーグ第38節だけが残っており、そこで雌雄を決するという胸熱展開なのだ。



もう他のチームのリーグ戦が終わった中、レッズとブルーズによる試合が今始まる。現在の両チームの勝ち点差はわずか2点。レッズが下回っている。

レッズは勝利することでのみプレミア・リーグ優勝を果たすことが出来る。逆にブルーズは引き分けにさえ持ち込めば優勝出来る。

試合はアン・スタジアムで行われる。



〜〜〜〜〜



「この試合に勝てば優勝だ!まだチャンピオンズリーグも残っているが、プレミア・リーグはラストになる。このチームで出来るサッカーのすべてを出し切ろう!」


クラップは試合前にドレッシングルームで選手たちを鼓舞する。今のスカッドは数年間かけて作り上げた集大成となるスカッドだ。何としても勝たせたいし、クラップ自身もブルーズに勝ってやりたい。



4-3-3のフォーメーションで、3FWにはマニャ、秀徹、サリーのトリプルSが布陣する。それぞれ、18ゴール、41ゴール、20ゴールを決めており、レッズのプレミア・リーグにおける得点のほぼ8割を三人だけで決めている。今や欧州一の3トップと言っても過言ではない。


相手は4-2-1-3のフォーメーションで臨む。グアディオ監督も、ここ最近はあからさまにレッズを意識した戦術改革を行ってきた。

まず、レッズのプレスへの対策として、GKのモラレスとCBのラポルツによるロングフィードでより速く攻撃を展開するサッカーを構築。彼のサッカーのアキレス腱となっていたハイプレスをこれによって克服しつつあった。



試合は前半から衝撃的な展開となった。前半のわずか1分のこと、秀徹が右サイドへと展開しサリーは中央へ寄せ、一旦はマニャとサリーはポジションが重なった。ポジションが重なるということは、マークをすれば二人ともを一気に無力化できるということだ。


ブルーズのCBオテメンドはしめしめとばかりに二人をマークする。しかし、これこそサリーとマニャの思うつぼ。秀徹が相手のDFをかわして縦へと突破すると、マニャはニアへ、サリーはファーへとそれぞれ走り込み、さらに同じスペースへとヘンドレーソンやワイデルダムが走り込んで相手を混乱させ、最後は秀徹の正確無比なクロスボールにマニャが反応。

前半開始直後に価千金の先制点を勝ち取った。



いきなりブルーズは出鼻をくじかれるような展開となってしまった。ブルーズ、というかグアディオ監督はゲームを支配できない場合やビハインドがある試合には弱い傾向がある。

故に今回もここからズルズルと大敗北を喫するのかとレッズファンは希望的観測をしていた。だが、今日のブルーズは一味違う。ここからが勝負だとわかっていたのだ。

先程言った後列の選手からのロングフィードは、今やブルーズのもう一つの武器となっている。

ブルーズの前線の選手たちはフィジカル面では強くないというかむしろ弱いが、テクニカルであり足元の技術に優れる。なので、ロングフィードを足元に狙いを定めて蹴るのだ。


前半17分、ラポルツから繰り出されたロングフィードは、RWGにいるスターレングへまっすぐ飛んでいく。スターレングは元レッズの選手で、所属当時から4000万€という価格がつけられていたが、ブルーズにて大成。今では1億3000万€以上の価値がある選手となっている。

彼にはレッズのLSBロバートが対応しに行くが、ロバートと同じぐらいスターレングは速いし、ドリブルもきめ細やかで上手い。さらにパスもシュートも得意で、今年はプレミア・リーグで17ゴール11アシストを記録していることからもそれが窺えるだろう。


ロバートも手堅い守備で味方を待つが、スターレングは揺さぶりながら前進していき、ワイデルダムが彼にプレッシングをかけようとしたところで右サイドの外側から走ってきた相手のRSBランナーへパス。

ランナーは流石の足の速さで右サイドをさらに前進し、クロスを供給。

そのクロスにアグイロが飛び込んでヘディング。デークですら出し抜かれてしまった。


ヘディングシュートはクロスバーに直撃してボールは跳ね返り、事なきを得たかと思われたが、それを拾ったデブライルがボレーシュート。ボールは無回転のままブレながらゴールへ。アリオンもゴール前が混戦状態だったこと、一旦クロスバーに当たって跳ね返り安堵していたことなどもあって動くことすら出来ずにゴールを許した。


それ以降も怒涛の展開が連続した。

前半26分にDMFのフェベーニョが相手に強烈なタックルを仕掛けてレッドカード。少し微妙な判定ではあったが、危険プレーには間違いない。レッズはこの大一番を10人で戦わなくてはならなくなった。


そうなると防御がどうしてと手薄になってしまう。前半36分にブルーズの中でもレッズキラーと呼ばれる、レッズ戦で特に活躍しているLWGのサニャにボールが渡る。

彼もまた速いドリブルと高い得点・アシスト能力を備えており、若き万能型ウイングだ。彼は左サイドに寄せてきたデブライルとともにアレキサンダーとヘンドレーソンを翻弄。いつもはサポートに回ってくれるフェベーニョもいないから簡単にボールを回されてしまう。


そして、デブライルからペナルティエリアへとスルーパスが放たれ、サニャがそれを自慢の快速で追いかけ、左足を振り抜いてシュート。逆転ゴールを獲得した。

これで2-1。レッズは優勝するために2点を取らねばならない状況に追い込まれてしまった。



この1ゴールで安心したブルーズは、ここから守りを固める体勢に入った。元々今回はDMFを二枚置くフォーメーションであり、守備をするならば中央はしっかり蓋を閉じているのでやりやすい。DMFのフェレナンディとギュウドンアンはより守備に集中することにした。

フェレナンディの守備力は言うまでもないかもしれないが、このギュウドンアンという選手もかなりそれに秀でている。対人守備は特別上手いわけではないが、パサーなだけあってパスコースカットに定評がある。あとどうでもいいかもしれないが、香取とめっちゃ仲いい。



そういった対人守備だけでなく、パスコースを読んだりカットしたりする選手がいるので、アレキサンダー、ロバート、秀徹といったワールドクラスのクロサーがいるレッズも大苦戦。

中央はもちろん、サイドからの攻撃も中々有効打にならなかった。

前半が終わって1-2。あまりにも2失点の後からの攻撃の芽が出なさすぎて、早くもレッズは敗色濃厚と見られていた。



後半に向けて、ハーフタイム中に選手交代が行われた。レッズに交代があるとすれば、DMFのフェベーニョが退場したので、その穴埋めにワイデルダムをより守備的な選手に替えるのだろうと思われていた。

しかし、クラップはここで勝負に出た。選手交代でワイデルダムに代えて投入したのはフェルノーネ。秀徹がOMFになり、フェルノーネはCFとなる。超攻撃的な配置である。クラップはこの交代に加えて選手たちにより前へ出てプレーするように要求した。

CBもより前へ出てプレッシングし、カウンターされないように、ラポルツやモラレスのようなビルドアップが出来る選手は前線から徹底的なゲーゲンプレスや、ハイプレスをかけるようにすれば、リスクはある程度回避できる。


後半は、攻撃的サッカーを極めたレッズの集大成のような試合になった。



中央に秀徹とフェルノーネという2人が入ることによって、中央からの攻撃も機能するようになってきた。

それだけでなく、クラップからの指示で、サリーとマニャはサイドへと開いている。

これによって、彼らのカットインやサイドアタックを意識せざるを得ないDMFのフェレナンディとギュウドンアンは、中央を留守にするようになる。

それも中央からの崩しを容易にする要因となった。



後半11分、マニャが左サイドでボールを持つと、秀徹とフェルノーネが助けに行く。相手にとっては外側からロバートが走り込み、フェルノーネが前から、秀徹が後ろから接近している状況。どこをマークすれば良いのかよくわからない。


そんなことを思っているうちに、あれよあれよと秀徹が中央へと切り込む形となる。慌てて相手は秀徹の前へと立ち塞がるが、それを待ってましたとばかりに秀徹は裏へと走るマニャにパスした。

マニャのドリブルは極めて特徴的だ。何しろ彼はドリブルは上手いがテクニックがあるとは言えないドリブルの仕方をするのだ。

彼のボールタッチは大胆だ。悪く言えば雑なのだ。それで相手は彼がボールを雑に扱ったところを突いて奪い取ろうとするだが、それは出来ない。彼は何度も言うように身体能力が高く、相手がボールを取る前にボール触り、相手を抜き去ってしまうのだ。

逆に言えばマニャに対しては足を出さないのが得策なのだが、ブルーズのラポルツは出してしまった。ラポルツとしてもかなりボールとの距離を空けてドリブルするので、しめしめとばかりに足を出したのだろうが、本当にしめしめと思ってるのはマニャの方で、長い足を繰り出してラポルツを抜くと、ゴール前でド派手にシュート。

近距離で打たれたボールにモラレスも反応できず、ゴールを許した。



やはりクラップの試合の修正能力は素晴らしい。10人という数的に不利な状況を抱えながら、ここへ来て同点へと持ち込んだ。あと1点ならばまぐれでも入るかもしれない。

このまま引き分けを守りたいブルーズと、勝ち越したいレッズの思いが交錯し合う長い長い35分が始まった。



レッズは断続的な攻撃を行い、相手にボールが渡ってもゲーゲンプレスで徹底的に潰し、後半はシュートを一本たりとも打たせなかった。前線の選手はもちろん、前へと前進してきているデークらDFも頑張っている。


だが、点は中々奪えない。最終的に相手は5バックへとフォーメーションチェンジを行い、絶対にペナルティエリアで枠内にシュートを打たせないようにした。

実際、チャンスはたくさんある中で、ペナルティエリアで打ったシュートはわずか2本。そのどちらも相手にブロックされている。実にまずい展開だ。


そのままブルーズの思い通りに試合は進み、後半アディショナルタイムへ。諦め切れない秀徹はラストアタックを敢行した。

ドリブルで中央へと仕掛ける。彼のスイッチが入ったドリブルは、何人だろうが抜き去るというのはよく知られている。このままではまずいと感じたフェレナンディは、抜かれた後に彼の袖を引っ張り、あえてファウルをもらった。

勢いを止めるためには仕方のないことだった。



試合もあと30秒といったところ。これが本当のラストチャンスになりそうだ。

ゴールまで22mの位置からの直接フリーキック。極度の緊張の中、キッカーの秀徹はホイッスルを待った。

本当はアレキサンダーが第二キッカー (本当に蹴る人の前に蹴るフリをしてフェイントする人)を申し出たのだが、この状況で秀徹が蹴ることは最早明白過ぎてフェイントにもならない。気も散るので丁重にお断りしておいた。


さて、ホイッスルが鳴ってシュートモーションに入る。秀徹が狙うのはゴール右隅。ボールを蹴るには、重心を前へと持ってきて体重を蹴る際に乗せて蹴る方法と、重心を軸足に残して遠心力で足を振り抜く方法がある。今日、秀徹がやるのは後者だ。

助走をつけ、思い切り軸足の左足を踏み込み、シュートを打ち込む。ボールは遠心力がかかってことで大きくカーブし、ゴールへと向かっていく。それも、横へのカーブではなく、縦へのカーブ。急に落ちるボールに対応がしにくい。



後半の45分+3分ちょうど。ついにレッズはブルーズを勝ち越すゴールを決めきり、3-2での勝利を掴み取った。

今年のプレミア・リーグの勝者はレッズとなり、秀徹がMVPに輝いた。



高橋秀徹


所属 リヴァプール・レッズ

市場価値:2億7000万€

今シーズンの成績:47試合、57ゴール、12アシスト

総合成績:153試合、137ゴール、55アシスト

代表成績:20試合、16ゴール、6アシスト

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