頂上

レッズが準決勝でバルサシティに勝利した裏では、クラブトッテナムとアムステルダムFCによる試合が行われていた。結果は合計2-0でアムステルダムが勝利。優勝候補には入ってすらいなかったアムステルダムが決勝戦へと進出することは驚きをもって迎えられた。


アムステルダムは今年、大きく飛躍したチームであり、若手中心のチーム編成がその要因となった。

GKのオネネ、キャプテンを務めるCBのデ・リヒト、CMFのデ・ヤングなどは特に若手として期待されており、若手じゃなくともOMFのジエシュやCFのタディは警戒すべき選手だ。



決勝戦はスペインのマドリードで行われる。中立地での開催のため、レッズの強みであるホームでの声援が機能しないのは難点だ。しかし、去年よりかは開催地も近いため、熱心なレッズサポーターは応援しに来てくれるし、いやらしい話、経済力のある日本人を味方につけているレッズの現地での応援者は多い。

基本的には現地ではレッズがかなり応援を多く受けている。


この決勝戦進出を受けて、日本では大盛り上がりしている。去年も決勝戦に出たものの、いまいち彼の凄さがわからない日本人も多かった。そのため大盛り上がりというほどではなかった。

しかし、ワールドカップに出たことで日本人全体が秀徹の凄さをやっと認識したのだ。出た4試合のうちの2試合でMVPを獲得し、大会のベストイレブンにも選ばれ、出場選手の中で最も評価点が高かったのだ。当然と言えば当然である。

レッズのユニフォームやタオルなどは日本で現在飛ぶように売れており、下手したら優勝賞金よりも大きな金額がレッズへ入ってきているかもしれない。それほどの盛り上がりだ。


後にわかったことだが、0時という深い時間から放映されたこの試合は日本で20%の視聴率を獲得。ワールドカップをも超えるような盛り上がり方であった。



〜〜〜〜〜



決勝戦では両チームが4-3-3のフォーメーションを用いる。

レッズはいつもどおりの、

アリオン

アレキサンダー、デーク、メティプ、ロバート

ヘンドレーソン、フェベーニョ、ミレナー

サリー、秀徹、マニャ

というメンバーで大舞台へと臨む。最近はワイデルダムも使われてはいるが、やはり戦術に対する理解度が高く、トリプルSをより活躍させれるのはミレナーだ。決勝の舞台に立てて彼も嬉しいだろう。


試合前の会見で、クラップは人生で何度も経験できないような夢の舞台であるからしたいように、思い切りプレーして来い、とレッズのメンバーへと声をかけた。


レッズもアムステルダムも、戦力だけを見るならば世界一強いチームというわけではない。きっとそれに該当するのは、バルサシティ、クラブマドリード、ユヴェ・トリノ、パリシティ、マンチェスター・ブルーズのいずれかだろう。

レッズはアリオン、デーク、ロバート、アレキサンダー、秀徹、サリー、マニャなどワールドクラスの選手を取り揃えてはいるが、中盤やCBさらに控えの選手などを見ると最強であるとは全く言えない。アムステルダムはもっと戦力的には劣っているだろう。

それでも、2チームとも戦術や戦略、連携などでそういった戦力差のある相手を打ち倒してここまでやってきた。今のレッズの選手たちがやりたいサッカーは個人技がどうこうというサッカーではなく、チームでここ数年蓄積させた戦術を駆使したサッカーだ。


アムステルダムにとっても同じだ。アムステルダムはすでに主力のデ・ヤングがバルサシティに移籍することが決まっており、デ・リヒトもまだ確定ではないが移籍するとされている。

レッズと同じく、この試合がこのメンバーで出来る最後の試合である。お互いに負けられない。



亜美も祈るように見守る中、試合は開始した。アムステルダムとしても、チャンピオンズリーグで今季14ゴールを決めて得点ランキングのトップに立つ秀徹はマークが必要な相手になる。今回も徹底的なマークがつくことになった。

アムステルダムは、低い位置でしっかりと守備を固める守備戦術を用いている。デ・リヒトは19歳にしてディフェンスにおけるリーダーを務めており、状況判断力はデークと比べても遜色ない。

あとは対人守備や読みの精度を上げればデークに勝るようなDFになれるだろう。とにかく、今のデ・リヒトは世界で五指に入るほどに強いCBだ。そんな彼が統率するDFたちが引き気味に構えたら点を奪うのは難しい。


一方で攻撃戦術は大胆なカウンターだ。本来はポゼッションを得意としているのだが、レッズを相手にポゼッションするのは自殺行為に等しいし、そもそもレッズ相手にボールを持ち続けられる自信などない。そんな戦術で臨んでまともに戦えるのはブルーズやバルサだけだろう。しかも彼らですら今年はレッズに負け越している。

なのでカウンターなのだ。ウイングにはネレルという足の速い選手も配置しているし、正確無比なロングパスを出せるジエシュもいる。彼のフライスルーパスはカウンターされる上で脅威になりそうだ。


前半8分、試合が動いた。秀徹が中央でボールを持つと、それに寄せてきた相手をかわしてどんどんドリブルしていき、ペナルティエリアに侵入する。

確かにリヒトやその他のDFも強敵だ。シュートブロックに長けているのでシュートも失敗するだろう。しかし、彼らにも確実にボールが通る股は開いており、そこを狙ってやればいい。

ペナルティエリアへ侵入後、すぐに寄せてきたリヒトの股を通すシュートを放った。余程のことがなければ、相手の股抜きを察知してから股を閉じることは難しい。リヒトもそれの例外でなく、シュートはリヒトを通過してゴールへと転がっていく。


が、どうしてもグラウンダーのシュートは勢いも弱く、相手のGKのオネネに止められてしまう。折角掴んだゴールチャンスだったがGKによって阻まれてしまった。



その後も両者ともに積極的な攻めを見せたものの、お互いに今日は守備がよく機能していた。レッズは特に前線でのハイプレスが奏功し、ビルドアップを許さなかった。


ミレナーの起用がかなりそれに寄与していた。例えば相手のRSBの選手がボールを持った時、マニャが速めに縦のパスコースを切りながらプレスをかけに行く。

そうすると、それに呼応した秀徹が横へとパスすることを予測してリヒトへのパスコースを封じる。

ワイデルダムならば、ここに特にアクションを加えないだろうが、ミレナーは違う。秀徹がさらにGKへのパスコースを切れるようにリヒトのパスコースのカットを彼が担当するのだ。


そうすると、RSBの選手はLSBなどがいる左サイドに向かって蹴るか、タッチラインからボールを出すしか選択肢がなくなる。左サイドに向かって蹴っても、そのモーション中に取られる危険性もあるし、蹴れてもパスがサリーやヘンドレーソンなどにカットされる危険性もある。

こうしてアムステルダムのRSBの選手はレッズによるハイプレスの格好の餌食になっている。ちょっぴり可哀想だ。



そして、前半の終了間際に再びレッズにチャンスが巡ってきた。ヘンドレーソンのスルーパスを右サイドで受けたアレキサンダーは早めに中央を確認する。

中央ではリヒトが統率するディフェンス陣が引き目で守っており、アーリークロスは通用しなさそうだ。


そこでさらに深くまでサイドを上がって、慎重にクロスを上げることにした。彼は今年すでにRSBにして15アシストを記録しており、リーグでは12アシストしている。これはDFにおけるアシスト記録としてはロバートとともに史上最多である。

そんな彼のクロスは恐らくサイドバックで一番美しく、正確だ。最早芸術的とまで言える領域にあるクロスを放ち、ボールは秀徹に向かって飛んでいった。

秀徹の前のシュートを打つスペースはリヒトらに塞がれている。故にシュートは打てなさそうだが、アレキサンダーが狙ったのは秀徹の後ろのスペース。そこにクロスを入れれば秀徹はきっと点を決めれると確信していた。



秀徹は来たボールの軌道から何をすれば良いか察した。そしてゴールに背を向け、体を宙へと浮かせ、上げている左足を下げる反動を使って右足を振り上げ、ボールを蹴り上げた。

秀徹のインステップはボールにジャストミート。美しいクロスからのさらに美しいオーバーヘッドシュートはゴールの右上へとまっすぐ飛んでいき、ゴールネットを揺らした。



「ゴール!!やりました!高橋秀徹の先制ゴール!!」


日本の実況解説もこのゴールには大声をあげる。去年、ベレルにやられたオーバーヘッドシュートをやり返した形になった。



前半はそのまま終了。苦戦したものの、いい時間帯に点を決めることが出来た。後半は伸び伸びとプレーできそうだ。

後半、アムステルダムは同点弾を決めるため、さらに勝ち越すために猛攻を仕掛けてきた。レッズはフェベーニョを中心にしてブロックを作って対抗するが、チャンスメーカー型のCFであるタディとジエシュのコンビは止め難く。防戦一方となった。


「アレキサンダー、右から来るぞ!」


「ヘンドレーソン!プレスをかけてフェベーニョはパスコースを切れ!」


いつも以上に熱く、デークも味方を統率する。もしかしたらこの試合はオランダのCB同士の対決なのかもしれない。そう思わせるほどにこの試合ではCBのデークとリヒトがよく効いていた。

粘り強く、強度の高いディフェンスをアムステルダムは崩しきれず、後半21分にはレッズにカウンターのチャンスを与えてしまう。



デークから大きく前線へ蹴り出されたロングフィードを秀徹が胸でトラップ。少し失敗してボールはかなり前へと転がったが、秀徹はそれに追いついてそのボールを取ろうとした相手の前で軸足当て。難なく突破してマニャへとスルーパスを出す。


マニャは自慢の快速で左サイドを駆け抜け、ペナルティエリアで中央へと折り返す。秀徹と立ち位置を入れ替えたサリーが中央でそれを受け取り、小回りの効くドリブルで敵を引きつけ、シュートフェイントから秀徹へとラストパス。


相手をサリーが引きつけたことで、かなり秀徹にとってシュートを打ちやすい土壌が仕上がっていた。あとは、強烈な一撃を叩き込むだけだ。

秀徹が放ったインフロントでの突き上げるようなシュートは右から左のゴールの上のネットへと突き刺さった。


「ゴーーール!!!」 


1点目ももちろん凄かったが、2点目はトリプルSの攻撃の全てが詰まったようなゴールだった。多くのレッズファンがこれに感涙した。


まだ勝ったわけではないが、もうレッズの勝利は固いと見られていた。

ただ、秀徹はベルギー戦のこともあって2点リードは怖いということを知っていた。2点というのは勝っているチームに余裕を与えつつも、負けているチームにはぎりぎりまだ逆転できるかも…と希望を抱かせれる点差だ。


「フィル (デークのこと)、みんなも舞い上がってるけどまだ2点差だ。君だけでも気を緩めずにプレーしてほしい。」


デークは秀徹に言われて小さく頷く。そういえばワールドカップで秀徹はこの点差から痛い目に遭ったなあと思いだしたのだ。


「わかった。お前にもう同じ思いはさせたくないし、守りきってみせるよ。」


何よりもデークの言葉は頼もしかった。



アムステルダムはまだ折れずにゴールを狙ってきている。レッズの守備陣も少し集中力が切れてきており、その隙に漬け込むように、なおさら攻撃が激しくなっている。

だが、世界一のCBデークが孤軍奮闘する。相手の攻撃のすべてに対応し、緩み切ったレッズの選手たちに指示を与えている。見兼ねたクラップが、アレキサンダーに代えてゴメロ、メティプに代えてロヴランをそれぞれ投入し、新陳代謝を目指した。


それでも苦しいレッズの守備陣に、さらに秀徹も加わり、必死にゴールを守る。対人守備力の高い秀徹が相手にプレスをかけてボールを奪いに行き、それで駄目ならばデーク、あるいはデークに指示されたDFがパスコースを切ったりして対応する。

今まで気付かなかったが、秀徹とデークの組み合わせはまさに最強であった。


「ここまで気付かなかったのが勿体無いぐらいだ…。」


クラップもそう漏らす。もし気付いていればDMFとして起用する道もあったかもしれない。


そうして、長い長い90分も終わり、結果は2-0。レッズの優勝が確定した。



高橋秀徹


所属 リヴァプール・レッズ

市場価値:2億7000万€

今シーズンの成績:48試合、59ゴール、12アシスト

総合成績:154試合、139ゴール、55アシスト

代表成績:20試合、16ゴール、6アシスト

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