残留へ
“ユヴェ・トリノが2億5000万€のオファーをリヴァプール・レッズに提出!”
そんな記事が各国の新聞の見出しに大々的に載った。もちろん秀徹獲得のオファーである。
現在、2018年12月24日。1月の移籍期間に向けてついにユーヴェが動いたのだ。2億5000万€という金額はサッカー界でも未知な大金であり、もし成立すれば世界一多くの金額が動く契約になる。
今、このことで世論は真っ二つに割れていた。秀徹がこのオファーを受けるべきか否かである。
受けるべきだという理由には、大金をレッズに残せるからとか、ユーヴェは理想的な環境であることがあげられる。
まず、お金についてだが、秀徹とレッズに残された契約期間はあと1年半である。これが切れたら契約は終了。レッズに移籍金を払わなくても、秀徹と直接契約すれば書くとか出来る。なので、一般的には契約が切れる1年前が選手の売り時とされており、移籍金も残り契約期間と比例して下がっていくので、かなり高額オファーが出された今こそ売り時であると考えたのだ。
あと、ユーヴェはレッズよりも国内リーグでは強く、勝ちやすい。さらに今は得点力不足に喘いでおり、秀徹は必要とされている。
逆に売らない方がいいという理由には、秀徹はレッズの核となる選手であるし、移籍金は2億5000万€でも安いというものがある。
これが最大の理由だが、レッズファンとしてはクラブには契約更新に力を入れてほしいと考えており、秀徹はチームのエース。他の選手では補えないものを持っている。そもそも彼は、トップレベルのスピードがあり、ドリブルが最高に上手く、一年半でも20以上のアシストを記録し、60以上のゴールを決めてきた。彼をシーズンの途中で売るなど断じて許されない。
そんなわけなので、レッズファンだけでなく各国のサッカーファンが秀徹の動向をチェックしていた。
当の秀徹は、再び心を揺れ動かされていた。ついに提示されたユーヴェからのオファー。エージェントの話では、年俸も1500万€ (約19億5000万円)と超破格の提示額だ。
一応、5年契約でのオファーだが、ユーヴェはパリシティなどとは違って去るもの追わずの精神があり、将来的に移籍金さえ残していけば、無理には残留させようとしない。さらなるステップアップを狙う秀徹としてはとても良い契約内容だった。
「なあ、俺がイタリアへ行くことになったらどうする…?」
秀徹は亜美に尋ねる。亜美は、結局1年の半分以上をイングランドで過ごし、日本での仕事を徐々に減らしている。本格的にゴールインが近づいているかもしれない。
「嫌になるとでも思ったのー?イタリアでもスペインでも秀徹についてくよ!」
亜美は健気に答える。彼女は秀徹が活躍できればどこにいようと関係ないと考えているからだ。良い彼女だ。
「ローガンさんからのお誘いもあるしなぁ…。」
行きたい気持ちもあるが、シーズンの途中でレッズを離れる気にはならない。難しい選択だ。
一方で、ユーヴェの幹部たちはオファーを提出したものの、財政的にかなり厳しいものがあると考えていた。ただでさえ、夏にローガンをはじめとする面々を獲得したことで、財政を圧迫したというのに、それを上回る2億5000万€を払ったら確実に赤字になる。
秀徹はそれだけの価値がある選手だし、もっと高く売却出来るという利点や、アジアのマーケットを獲得できるという利点もあるので投資としては悪くないのだが。それでも今季すでに2000万€程度の赤字が見込まれるユーヴェがこれ以上赤字を増やせば親会社や資本元に何と言われるかわからない。
(今季成立させる必要はあるのだろうか…。)
これが本音である。
そこで、秀徹はこういう断りの入れ方をした。
「今年はレッズでプレーしたいです。しかし、ユーヴェでプレーしたい思いもあるので、ぜひ夏にオファーを下さい。夏なら移籍金も今より安くて済みますし、スカッドの編成もしやすいと思います。」
これにはユーヴェ側も大喜びだ。来季の目玉補強として彼を獲得するならば、予算を確保しやすいだろうし、不要な選手と必要な選手を判別して不要な選手は売却するなりできる。良いことずくめである。
ローガンには断りを別で入れておいた。彼は秀徹とプレーできることを楽しみにしていたが、まあ状況が状況だし仕方ない。楽しみは来季にお預けとなった。
〜〜〜〜〜
1月2日に行われたリーグ戦第20節のアーセナム戦に2-0で完勝し1得点をあげると、秀徹は急いでアジアカップの開催地、アラブ首長国連邦へと向かった。
ここから秀徹はアジアカップに出場するため、リーグ戦3試合に出場できない。ヨーロッパなどでは6〜7月のオフシーズンに開催されるが、アジア諸国のリーグは12〜2月がオフシーズンとなるので、この時期に開催される。
秀徹のようにヨーロッパで活躍する選手には不向きな大会である。
レッズとしては、秀徹が抜けてしまった穴をどう埋めるかが何よりも重要である。本当は招集を拒否したかったが、日本のサッカー協会側もそれを中々認めてくれなかった。
やはり秀徹は監督はいけ好かないし、メンバーも嫌いな選手が多かったが、新たに招集されたメンバーの中には彼が認めるような選手もいた。
一人目は19歳で同い年、ベルギーでCBをしている冨岡である。冨岡はテクニカルなCBで守備力がかなり高く、パスやドリブルまで上手い。レッズにいてもレギュラーになれるかもしれない。
二人目は17歳のOMF、久木である。彼はコントロールも上手いしサッカーも上手い選手で、練習ではかなり息の合った連携ができた。まだ国内リーグで修行中だが、クラブマドリードやバルサシティが獲得に興味を示しているらしい。元々バルサシティの下部組織にいたようだ。
正直、香取や本多などがいない日本代表にうんざりしていたが、彼らとならまた楽しくプレーできるかもしれない。そんな期待感が秀徹にみなぎってきた。
アジアカップは日本が最多優勝を誇る大会で、4チームからなるグループステージを突破した8チームで決勝トーナメントを行う。
言うまでもないが、日本はアジアでは強豪国。前回のワールドカップでもアジア勢では唯一決勝トーナメントに進出できた。
日本はグループステージでは、ウズベキスタン、オマーン、トルクメニスタンと当たる。そんなに強い敵はいないが、強いて言うならウズベキスタンは3チームの中では強い方だ。
今大会の日本は優勝候補の筆頭だ。世界的なスター選手である秀徹が背番号10を背負ってエースとして君臨し、その他にも世界各国で活躍する選手が招集されている。優勝の可能性は高い。
ただ、戦力だけ見れば最強にも見えるものの、それをどう使うかというのが試合では大事なのであって、森谷に果たして秀徹をはじめとした選手を上手く使う力量があるのかと問われれば微妙なところである。
秀徹としては、わざわざリーグ戦を良いところで抜けてまでアラブ首長国連邦に来たのだから良い結果を残したいのだが…。
高橋秀徹
所属 リヴァプール・レッズ
市場価値:2億6000万€
今シーズンの成績:27試合、32ゴール、6アシスト
総合成績:133試合、112ゴール、49アシスト
代表成績:13試合、10ゴール、4アシスト
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