ゴール量産

〜世界最優秀選手賞の授賞式の少し前の話〜


2019年の1月にはアジアの国代表の頂点を決めるアジアカップが開催される。それに向けての親善試合が組まれており、現在秀徹はその招集を受けて、日本に帰国している。


日本代表の監督は、現在森谷というJリーグでも監督をしていた監督が就任している。ちなみに、U-23の監督も彼である。オリンピックに出場するのはこのチームなので、この監督はアジアカップとオリンピックという両方の大舞台で指揮を任されていることになる。秀徹は19歳なので、オリンピックにも当然ながら参加することになる。

さて、そんな森谷の指揮力はというと残念ながら最悪に近い。何が最悪なのか詳しく見ていこう。



森谷ジャパンは本多、香取、岡田といった前線でのベテランを一掃して、若手のみの陣容で試合に臨んでいるのだが、選手配置が微妙である。というかはっきり言って配置の仕方が下手くそだ。

誤解のないように言っておくが、優秀な選手は多いのだ。秀徹の出現以来、またたく間にヨーロッパでの日本人選手が増加。

秀徹はもちろんのこと、ポルトガルで月間MVPにも選出された上島、オランダで活躍する堂山(どうざん)らは足元の技術が高く、ポルトガルやオランダとはいえヨーロッパでも通用している。


だが、彼らはボールを扱うのは上手いが、サッカーは下手だ。ポジション取りや戦術性の欠片もなく、森谷もそれらをまるで理解していない。ボールを上手く扱えるから、ドリブル出来るから彼らを起用しているのだ。

彼らはボールを基本的に足元でしか貰おうとしない。上手い選手は、スペースやあらゆるエリアを使って相手を簡単に出し抜く方法を考える。ドリブルは最終手段であるべきで、不要なドリブルはなるべく避けるべきだ。だからといってバックパスや何にもならないパスミスをするのも勿体無いのだが。


その点秀徹は上手くわかっていて、ピンポイントで敵をかわしたり、ドリブルでしか局面を打開できない場合にのみ用いるようになった。ドリブルばかりしていたシュトゥットガルト時代よりもそれで評価は着実に上がっている。

だが、上島に至ってはドリブルをしまくるだけでなく、足元でボールを貰うために他人のポジションに侵入して、被ったりしている。

サッカーに詳しくない人が一見すれば、彼が凄く活躍しているように見えるが、実際はそんなこともない。他人のチャンスを潰してボールタッチを増やしてもチームのためにはならないからだ。



そういった選手を積極的に森谷は起用している。しかもそれだけでなく、彼は戦術に関してあまりにも鈍感なのだ。

基本的に4-5-1のフォーメーションを好んでいるが、これによって中央から攻めたいのか、サイドから攻めたいのイマイチよくわからない。親善試合はひどいものだった。


日本の最大の武器である秀徹をOMFにして中央に寄せたということは、中央突破を狙うのだろうと考えられた。だが、特にそこに関して指示はなく、選手たちはバラバラに動きまくる。

上島や堂山といった戦術に親でも殺されたのかというほど戦術を無視する選手たちは指示されようが聞かないかもしれないが、他のCMFの柴田やCFの大隅らはちゃんといわれたことはきっちり守る。しかし、彼らへも指示がない。

なので、彼らの狙いはサイドだったり中央だったりとバラバラ。それでいて上島はLMFのくせにOMFの秀徹やCF、CMFなどのポジションと被せてくるのでパス回しすら上手く進まない。


何とか秀徹のコーナーから大隅が合わせて1点を決めて1-0で勝利したものの、相手は格下。満足できる結果ではなかった。

試合後のインタビューなどでも監督は、「この勝利は大きい」とか「得点には結びつかないことが多かったが内容は良かった」などわけのわからないことを言っている。


(この人マジで何考えてるんだ…。)


秀徹は思う。西田は良い監督だったが、結果はどうあろうとワールドカップ後に退任することが決定していた。本当はそれを反故にしてでも続投すべきだったが、協会の判断は違ったのだ。


以前解任されたヘイルは戦術に問題があったとはいえ、采配は的確だったし、人選も素晴らしかった。それに比べて、森谷は戦術も采配もダメダメだ。


(また代表でプレーするのが嫌になりそうだなぁ。)


特に上島のプレーは秀徹をイライラさせる。いずれ対立してもおかしくないだろう。



〜〜〜〜〜



世界最優秀選手賞後のレッズは、過密日程のためやや調子を落としつつも、相変わらずの強さを発揮した。

第11節では3ポイント差でレッズを追うマンチェスター・ブルーズにも3-1で快勝し、第19節までの10戦で8勝2敗。

シーズンの前半戦終了時点での勝ち点は51。このままいけば、優勝は近いだろう。ただ、マンチェスター・ブルーズも勝ち点は46点で逆転もあり得る。今年はかなりレベルの高い優勝争いが展開されそうだ。


それ以降の順位はロンドン・ブルーズ、クラブトッテナム、アーセナム、マンチェスターユニオンという並びになっており、ロンドン・ブルーズは少し抜け出したものの、どのクラブが来年のチャンピオンズリーグの出場権を獲得できるのか予想することは困難である。



夏の時点から、クラップは秀徹がレッズにいるのは今季でラストだろうと思っていた。彼にユーヴェ移籍の可能性を示唆し、契約延長を見送らせた張本人なのだからそう思って当然だ。

チームだけのことを考えるならば、もしかしたら秀徹を無理にでも契約延長させた方が良いかもしれない。しかし、実のところイングランドというのは世界最高の選手を育成するにはあまり向かない。

イングランドのプレミア・リーグはレベルが本当に高い。チーム間の力量差が小さく、ジャイアントキリングも起こりやすい。これは一見すれば良いことだが、チャンピオンズリーグは狙いにくくなる。

逆に、スペインは最も世界最高の選手を育成し、所属させるには適している。国内のリーグには圧倒的な2チームと、それを追う1チーム、あとはそこから少し離れたところにいる3チームほどが牛耳っている。

要は、バルサやマドリードにとっては主力を温存しても勝てるような敵がプレミア・リーグよりかは多いのだ。チャンピオンズリーグを戦う上では有利だ。

直近10回のチャンピオンズリーグのうち、7回はスペイン勢が王者になっている。


世界最高の選手になるには、チャンピオンズリーグでの活躍が絶対条件になる。彼をみすみすレッズに、あるいはプレミアリーグに閉じ込めて世界最高になるチャンスを逃させてはいけない。その一歩目がユーヴェへの移籍になるのだ。

彼の望むローガンとの共演は世界最高の選手になる過程に必要だ。クラップはレッズというチームの利益よりも秀徹の利益を望んだのだ。



そんな彼のラストシーズンにクラップが彼にしてあげれることは、何だろうかと考えた。もうすでに戦術的なところはバッチリで、ドリブルも世界一に近く、これ以上どう上手くさせるかクラップにはわからない。

ただ一点だけ、まだ向上の余地がある部分を知っている。それは得点力だ。


彼のシュートセンスは申し分ないものの、こぼれ球を押し込んだり、抜け出してシュートへ持ち込んだりといった得点嗅覚に関する部分が未熟だった。だが、世界的なストライカーは皆、そういった嗅覚が鋭く、得点シーンの大半はそれを駆使した場面だったりする。


こぼれ球を押し込んだりするのはあまり美しいゴールとは言えないが、前までの秀徹の点のとり方よりも遥かに簡単だ。

故に、クラップは7月の末から秀徹には徹底的に得点力の向上を図らせた。すると、彼はメキメキと得点を伸ばした。


プレミア・リーグの第9節が終わるまでには11試合14ゴール2アシストを記録。

その後も、得点を重ね、プレミア・リーグ10試合で12ゴール3アシスト、カップ戦2試合で1ゴール1アシスト、チャンピオンズリーグ3試合で4ゴールを記録した。

合計すれば、プレミア・リーグだけで18試合21ゴール5アシスト、公式戦全てなら26試合31ゴール6アシストになる。

圧倒的であった。昨年もゴールデンシューを獲得し、今季はそれ以上のペースでゴールを重ねているメーシュですら、まだ25ゴール。いよいよ秀徹はとんでもない選手になってしまっていた。


この記録の裏にはクラップが得点の取り方を教えた影響がある。秀徹は相変わらずゴラッソも決めまくっているが、シュートのこぼれ球を狙ったり裏抜けをより積極的に狙う狡猾さが全面に出たゴールも増えた。

また、サリーらがより秀徹にボールを集めるようになったことや、アレキサンダーとロバートのアシストが増加したことも理由としてあげられるだろう。


そんな絶好調な彼のもとにまたまた移籍の話が舞い込んで来るのだった。



高橋秀徹


所属 リヴァプール・レッズ

市場価値:2億6000万€

今シーズンの成績:26試合、31ゴール、6アシスト

総合成績:132試合、111ゴール、49アシスト

代表成績:13試合、10ゴール、4アシスト



あとがき


温かいレビューありがとうございます。おかげでなろうで削除されて萎えていた中でも立ち直れました。

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