伝説の幕開け

8月に入ると、恒例のスポンサーとの交流会が開催された。去年レッズで大活躍したこともあって、秀徹のスポンサー収入はあれから倍以上に膨れ上がった。彼が履いているスパイクなどは特に売れたらしく、広告塔としての役割をしっかり果たせたようだ。

今年は最終的に1300万€ (約17億円)のスポンサー収入があり、レッズの年俸の実に5倍にもなる。決して250万€に不満があるわけではないが、しばしば選手とクラブの間で年俸についてのいざこざが起こる理由も分かる気がした。

年俸は金額もさることながら、その選手の格を表すものでもある。10億円がほしいわけじゃなくても、ライバルの選手がもらっていたらそれ以上が欲しくなってしまうのだ。


ちなみに、今年の秀徹の能力値はぐんと上がって89。サリーには劣るものの、チームでは二番手の数字であり、全体で見てもトップレベルの数字だ。彼は密かに毎年楽しみにしているのだ。



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初戦の相手のアーセナムは、22年間も指揮を執り続けてきたベンゲス監督が退任し、新たな時代を迎えていた。まあ、チャンピオンズリーグの出場を2季連続で逃してしまったので、仕方ないと言えば仕方ないのだ。

とはいえ、数々のタイトルを獲得し、マンチェスターユニオンと2強とまで呼ばれた時代も指揮していた監督の退任はかなりショッキングだ。


アーセナムは今年から戦力を補強し、アキレス腱となっているDFにドルトのパパロフらを獲得。何とかこの窮地を抜け出そうと画策していた。



アーセナムにとってもレッズは嫌な相手だろう。何しろ優勝候補に挙げられるほどの実力の持ち主だ。特に、秀徹は相手にするには最悪の選手だ。

去年、パリシティを指揮していた相手の監督・エヌリは頭を悩ませている。パリシティにいたときに戦った時も、彼を封じるのが本当に難しかった。

圧倒的なスピード、あり得ないほどのテクニック、中々倒れないフィジカル、変幻自在なパス、正確無比なシュート。彼がボールを持てば必ず自チームにとっての厄介事が起こっていた。


だからこそ対策を練る。DMFのトレイルに秀徹への徹底マークを命じて、封じ込めを図った。ただ、これだけでは足りないと思い、CBのパパロフにもマークを命じた。秀徹はゾーンの受け渡しを狙ったマーク外しが上手い。

しかし一人がマンマークをし、一人が彼のスペースを見るという形でつかせたら流石に止められるだろうと考えたのだ。我ながら良い考えだとエヌリは思う。この戦術は全く通じないとは知らずに…。



今年のレッズの戦術コンセプトは、カウンター×ポゼッションである。攻められた際にはカウンターを狙いつつ、基本的には狭いスペースでもポゼッションを続け、ゴールの可能性を少しでも高めるのだ。

これを実行するために、攻撃陣はポジション取りの練習やオフ・ザ・ボールの動きの改善を徹底的に行った。



アーセナムのホームで行われる第1節。アーセナムのファンのいわゆるガーナーは、スタジアムになだれ込み、アーセナムの勝利を祈った。この一戦に勝てれば、どこに勝つよりも勢いに乗れるだろう。

アーセナムのエースは14番をつけるオーバン。ドルトで秀徹とは対戦したことがあり、去年の冬に移籍を果たした。

彼とコンビを組む9番のラカザットも得点力とボールコントロールを併せ持つ万能型ストライカーである。

また、10番をつけるエジスも注意したい人物だ。エジスはローガンの元同僚で、彼にアシストしまくったOMFだ。セクシーなボールタッチと、綺麗なパスでゲームを支配するチャンスメーカーだ。



アーセナムは4-4-2のフォーメーションを取る。MFの4は、1-2-1と配置されており、全員が中央に位置取る。サイドアタックはサイドバックとMFの選手がサイドに流れて行うフォーメーションだ。

レッズは、相変わらず4-3-3。新戦力のアリオンとファベーニョが先発入りしており、3トップはトリプルSのマニャ、秀徹、サリーとなっている。



キックオフしたアーセナムにレッズは強いプレッシャーをかけにいく。CMFの先発は、ヘンドレーソンとミレナー。彼らは以前、下がりめのポジションを取っていたが、DMFに安定した守備力を持つファベーニョが加わったことで、より高い位置でプレスをかけれるようになった。

そのため、アーセナムはレッズの陣地に入ることすらままならない。元々アーセナムは速攻が売りのチーム。中盤で潰されてしまっては何ともならなかった。



前半12分、サイドでボールを奪ったサリーがボールを中央へと運ぶ。ペナルティエリアにも突入できたし、サリーにとってかなり得意な位置だ。去年の彼ならばゴールできる確率が半々ぐらいのこの状態ならば、シュートを狙うだろう。

だが、今回はよりゴールの可能性を上げるために、秀徹へのパスを選んだ。


去年のサリーは自身が活躍することばかり考えていた。独りよがりなプレーはリーグ後半でも見られた。が、今年はまずチームが活躍することを優先する。秀徹が在籍するのも今年が最後との噂もあるし、その他の主力がいつ抜けるともわからない。

よりチームが活躍することが彼の名声を高めることにもつながるだろうし。


相手の股を通ったパスを受けた秀徹は、確実にゴールへと流し込み先制点を獲得。いかにマークについていようと、ペナルティエリア内では混戦状態なのであまり効果は期待できない。早くもエヌリが注意していたはずの秀徹に点を取られてしまった。



先制点を入れられて沈むスタジアムだったが、エヌリはまだ逆転可能だと思っていた。ペナルティエリア内に入れなければいいとよくわかったので、ロングボールを前線に入れる戦術にシフトし、DF間のパス回し中に取られないような仕組みを整えた。

この攻撃の発想は良かった。前へ出てきているヘンドレーソンやミレナーの守備の網をすっ飛ばして攻撃を行えるため、前線へ進みやすく、レッズ陣へと入る回数もぐっと増えた。


しかし、問題もある。まず、ロングパスを供給する選手が少ない。CBの選手は足元やパスセンスに定評があるというわけではないため、かなり不安定である。さらに、パスを前線で受けたとしても、展開力に欠けるので、それ以降展開することが出来ない。つまり、シュートに持ち込めないのだ。


逆にレッズの攻撃は速くてコンパクトだ。速いのは元々だが、以前にはなかったコンパクトな攻撃が実現しており、あっという間にゴール付近まで接近してくる。

秀徹をマークしていたとしても、攻め来るマニャ、秀徹、サリーの三人が目まぐるしくポジションを入れ替えて戦うため、秀徹ばかりについていても意味はないし、そもそも動きについてこれない。


前半38分には、中央攻撃から抜け出したマニャによる2点目が入った。サリーと秀徹の陰に隠れがちだが、マニャもゴールセンスが高く、今年は15ゴール以上決めることを期待されている。今日のゴールはその追い風となるゴールになった。



最早アーセナムの守備陣もこの攻撃は止めようもなく、後半7分にサリーに、後半23分にアレキサンダーのコーナーキックのこぼれ球をミドルシュートで押し込んだミレナーに、それぞれ決められて最終結果は4-0。初戦の内容としては最高の出来だった。


クラップは結果はもちろんのこと、コンパクトに攻め立てるサッカーがレッズにマッチしていることを特に喜び、選手たちをねぎらった。このコンパクトな攻撃では秀徹が誰よりも重要となる。

彼はCF、RWG、LWGの全てを経験している珍しい選手であり、全ての方向からの攻撃方法を熟知している。彼のカバーリングは攻撃に必須である。


この試合以降、秀徹の決定力は飛躍的に高まり、覚醒状態に突入するのだった。



高橋秀徹


所属 リヴァプール・レッズ

市場価値:2億3000万€

今シーズンの成績:1試合、1ゴール、0アシスト

総合成績:107試合、81ゴール、43アシスト

代表成績:12試合、10ゴール、3アシスト

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