リベンジマッチ

サッカーワールドカップ。それは世界最高峰のサッカーの祭典であり、テレビでの延べ視聴者数はオリンピックのそれをはるかに上回る。この大会で活躍できれば世界中からの注目を集める。

日本は過去数回出場し、グループステージは突破した経験はあるものの、ベスト16止まりが二回。苦戦している。


前回の優勝者はドイツ代表であり、その前はスペイン代表。欧州の代表チームが強い。

ロシアで行われる2018年度のワールドカップで優勝候補とされるのは、ドイツ、スペイン、ポルトガル、ベルギー、フランス、イングランド、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ辺りだろうか。ただ、これといって抜きん出たチームはいないため、熾烈な優勝争いが予想される。


日本は、グループステージではコロンビア、セネガル、ポーランドと戦う。

コロンビアは前大会での得点王のハレス・ロドレゲスを擁するチームで、前大会は日本相手に4-1で勝っている。日本にとっては嫌な相手だ。優勝候補とまでは呼ばれないまでも強豪には間違いない。ランキングは16位。

セネガルはここ数年で力を伸ばしたチームで、秀徹の同僚のマニャやクレバリが在籍する強いチームだ。苦戦を強いられそうだ。ランキングは21位。

ポーランドは秀徹も対戦したミュンヘンFCのエースストライカー・レヴァンダなどが在籍するチームで、世界ランキングでは8位につける強豪だ。メンバーは優勝候補のチームに劣るものの、日本より遥かに格上だ。


対する日本はプレミア・リーグでも指折りの選手である高橋秀徹を擁するものの、ランキングでは55位であり、監督も解任したばかり。何だかあまり勝てる気がしない。

ランキングについては、アジアやオセアニアなどはランキング低位のチームと戦うことが多く、そのチーム同士で争うので実際の強さよりも低く出がちではあるのだが、それでも実態も戦う3チームに劣るだろう。



〜〜〜〜〜



6月19日、初戦の相手コロンビアとの一戦が開始された。

日本代表には実のところ、ファンが多い。単に日本の人口が多いというのもあるし、自国から出場しない東アジアや東南アジア諸国のサッカーファンはアジア代表として日本を応援している。韓国代表もいるものの、韓国代表は国としてそもそもあまり好かれていないのと、サッカー選手たちも素行が極めて悪いためあまり応援されていない。


つまり、日本代表の戦いはアジア中から応援されているのだ。簡単には負けられない。

フォーメーションは4-3-3。OMFに秀徹を置き、3トップに香取、大隅、本多が入る。一応、練習では攻撃は完成形になりつつあったが、実戦形式での経験はコートジボワール戦の30分ほどのみ。機能するかは賭けに近い。


コロンビアは4-5-1のフォーメーションを用いる。

OMFに入るのはエースのロドレゲス。彼はテクニックや決定力が抜群に高い。

他にもRMFのスピードに優れるユヴェ所属のクアドレードや、CFで決定力が高いファルカウなども注意すべき相手になる。



試合は日本のキックオフから開始された。ワールドカップの初戦ということもあって、お互いに立ち上がりは慎重な入りとなった。今回の日本のキャッチコピーは推進力あるポゼッションサッカーである。

CMFの柴田と秀徹がパス交換を主導し、前線の選手はあまりサイドに寄らずにコンパクトにまとまる。サイド攻撃はサイドバック任せではあるが、これで中央でパスを回す機会が増え、縦への効果あるスルーパスも通りやすくなるという算段だ。

日本にはサイドから攻撃を展開してどうにかなるような選手があまり所属していない。こういった中央でのポゼッションが大事である。


そして、前半6分に早くも決定的なチャンスが訪れた。秀徹のスルーパスから抜け出した大隅がペナルティエリアに突入。そこで相手のDFが追いついてきたので切り返して香取に渡し、香取が強烈なシュートを放った。

ボールは確実に枠を捉えており、入ったかと思われたが、故意かどうかわからないものの、相手のCBが出した腕に直撃。これによって、相手のCBは退場し、日本がPKを獲得することになった。


あのコロンビア相手に早くも先制するチャンスを得たことに、日本サポーターは大喜び。ピッチの中の選手たちも同様だった。日本で最も強いキッカーは本多か秀徹だが、ここはPKを獲得した香取がキッカーとなり、ペナルティエリアで構えた。

ホイッスルが鳴り、漂う緊張感の中、香取はPKを左の隅へと蹴る。キーパーは逆側にボールが来ると読んでおり、ボールはゴールの中へ。4年越しにコロンビアにリベンジする足掛かりとなる貴重な先制点を勝ち取った。



ロドレゲスは苦悶の表情を浮かべながら、このPKでの失点を見届けた。そして、前回戦った時の日本とまるで違うのだと本能的に察する。理由は色々ある。

戦術的なところでも、前回は選手間で齟齬があったし、そもそも監督の人選も良くなかった。だが、今の監督はその辺がわかっていそうな布陣をしているし、何よりロドレゲス以上の注目を集める秀徹がいる。実は日本がグループステージではどのチームよりも強敵になるかもしれないと感じた。


リスタート後、ロドレゲスを攻撃の中心とするコロンビアがサイドアタックから攻め立てる。特に右サイドのクアドレードは、スピードとドリブル能力を兼ね備えている。右利きで右サイドをやっているのでクロスも上げやすい。

中央では178cmと大柄ではないものの、ヘディングが上手いファルカウが待機している。ロドレゲスもレッズの時のコウケーニョのようなあちこちに顔を出すチャンスメーカーの役割を果たしているため、攻撃も円滑に進んでいる。


コロンビアは攻勢を続け、前半21分にはクアドレードからのクロスにファルカウが合わせて枠内に良いシュートが飛ぶこともあった。反射神経とスーパーセーブに定評があるGKの川鳥がこれを止めたが、危ないシーンだった。

さらに前半34分、日本はペナルティエリアすれすれのコート左側でフリーキックをコロンビアに与えてしまった。ロドレゲスはフリーキックが得意であり、致命的なプレーになりかねない場面だ。

ホイッスル後、彼の左足から放たれた一撃はカーブを描いてディフェンスの壁を越えてゴールへ。川鳥もこれは止められず、同点弾を許してしまった。


コロンビアの選手たちもこれを喜び、ロドレゲスを讃える。確かに良いコースでゴールへ吸い込まれたものだ。喜んだのも束の間、同点になってしまったのを日本のサポーターたちも悲しむ。選手たちも。

もしかしたらこのままなし崩し的に追加点も奪われるのではないか、とさえ思ってしまう。実際、前回のワールドカップのコートジボワール戦がそうであった。ただ、秀徹だけは毅然と前を向いていた。



秀徹は今日はここまで、柄にも無く司令塔のような立ち回りをしていた。ほぼドリブルはせず、淡々と来るボールを前へ前へとさばいていたのだ。

それでそれなりにチャンスも作り出せたのだが、いかんせんCFの大隅は決定力に欠ける。香取も得点嗅覚にはある程度優れているものの、シュートで違いを見せることは今日は出来ておらず、唯一いい線を行っているのは本多だけだ。


そこで、痺れを切らした秀徹はリスタート後に自身でゴールを狙いに行くことにした。ワールドカップが始まってから未だドリブルをしていなかった秀徹だったが、キックオフ後早々にドリブルで前線のファルカウとロドレゲスを軽々と抜き去った。これには観客も熱を帯びて歓声を送る。

次に秀徹は、もたもたしていて前線に飛び出さなかった大隅を囮にして、前へと出ていく。一旦大隅にボールを預けてポストプレーさせて、自身が前へと進む時間稼ぎをしてもらったのだ。


秀徹が大隅から再びボールを貰ったときには、コロンビアDFはあと4人だけ。元々そこまで守備が堅固なチームではないから無理矢理速攻すればこじ開けられることはわかっていた。

走ってきた本多に秀徹はボールを渡す。本多はサイドバックにプレスを受けるが、外側へと展開して敵を引きつけて秀徹へとボールを返した。


ボールを持つ秀徹はペナルティエリアの外側におり、まだゴールまで距離がある。それでも秀徹は思い切りシュートを放った。放ったシュートは枠内へと飛び、ゴールの予感のする一撃となった。キーパーがぎりぎりで弾いて入らなかったものの、あともう少しだった。

秀徹はゴールすれば万々歳ではあったものの、とりあえず日本を甘く見ている相手にも弱音が溢れてきそうな味方にも、日本がゴールの予感を漂わせるチームであると認識してもらうのが狙いであった。つまり発破をかけたのだ。

これによって、相手も前がかりになるのは止めるだろうし、味方もより強度の高いプレーをするようになるだろう。相手に前がかりになられると、秀徹もより低い位置で守備に回らないといけなくなって厄介だ。FWならば守備をしなくても大丈夫なこともあるが、MFをやっていたら流石に放棄できない。

何にせよ、このシュートでコロンビアペースだったのが一気に日本のペースに逆戻りし、試合はまたわからなくなった。



前半は1-1で終わり、後半に突入した。コロンビアはやはり一人少ないという不利な条件に苦しめられることになった。それもいなくなったのはCBの選手だ。守備陣が段々疲弊していく。

そして、後半20分のコーナーキックのシーン。CBが一人居ないことで日本へのマークが疎かになってしまい、大隅がフリーに。秀徹から上がったコーナーキックは正確に彼の頭を捉え、ヘディングによる勝ち越し点を挙げた。


まさかそんなはずがない。コロンビアのサポーターは目の前の、あるいはテレビ越しに見る試合会場で起こったことが信じられなかった。

日本の選手や画面越しに見るサポーター、会場のサポーターはこのゴールに大喜び。4年前に涼しい顔でロドレゲスらにボコボコにされた屈辱を晴らせた気分だった。


その後のリスタート後は日本は守りに入ろうとしていた。実際それは正しい選択であり、堅実な指揮をする西田らしいものだった。しかし、秀徹はあくまでももう1点を奪い取る気でいた。


後半34分、大隅まで守備に走ったのであえて守備を放棄した秀徹はほぼ相手にも警戒されずに、ハーフライン際でぶらぶら歩きながら待機していた。

川鳥はそれをわかっており、相手のシュートをセーブすると、すぐに秀徹へ向かってパントキック。相手は目の前に三人いるものの、カウンターの場面で秀徹がボールを持った。

左サイドから秀徹は攻め始める。


一人目に対面したDFは味方が戻るのを待つために無理には仕掛けず、重心を低く保って抜かれないようにゆっくりと待った。だが、そんな狙いは見通している秀徹は、左方向にボールを大きく蹴り出してただのスピードで相手を抜き去った。

相手は秀徹のユニフォームを掴もうとするが、それすら叶わない。この時の秀徹はこの試合の最高速度を叩き出すほどのスピードを出していた。


そして、ペナルティエリアに到達するとあとのDFは二人。でも、もう後ろからコロンビアのDFが駆けつけることはあと5秒はないだろうから、余裕を持って決着をつけられそうだ。

二人のDFは左サイドにいる秀徹をどうしても右へと行かせたくないようで、右側を二人で塞いでいる。かといって縦へ行けばシュートを打ちづらいので、秀徹はあえて右へと行くことにした。

一人目を高速シザースで戸惑わせ、ちょんとボールを右へと移動させ、二人目がそこにプレスをかけてきたので、ボールを足裏で足元へ引き寄せた。相手はそれを見て秀徹の攻撃も仕切り直しかと少し油断したが、次の瞬間、軸足当て (ボールを止めるフリをして右足で止めるのであれば左足に当て、ボールを前へと押し出すフェイント)をして、DFをかわして右側へと到達。

そのままきつい体勢だったが足を伸ばしてシュート、ボールはゴール右上隅へと吸い込まれていった。


あまりにトリッキーで素早いドリブル突破に、コロンビアのDFも苦笑いしながらゴールの中に転がるボールを眺めていた。これで日本の勝ちが決定的になり、3-1で日本の勝利となった。



高橋秀徹


所属 リヴァプール・レッズ

市場価値:2億1000万€

今シーズンの成績:43試合、35ゴール、20アシスト

総合成績:106試合、80ゴール、43アシスト

代表成績:9試合、7ゴール、3アシスト

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