vsセネガル
コロンビアから劇的な勝利を奪い取った日本を祝うサポーターの中に、当然のように亜美もいた。
「ねえ、秀徹君がやったよ!あのゴールほんとすごい!ってか、最初から最後までやっぱ輝いてたよね!」
秋田に亜美は興奮しながら話しかける。最近高校を無事に卒業した亜美は、明るくなった。秀徹への恋が彼女を明るくした面もあるし、あの密会発覚後、彼女は一気に秀徹いじりをされるようになったのもある。
バラエティに出演しても、前は何となくとっつきにくい印象を共演者に与えていたものだが、あの一件後に、とある芸人が勇気を出して秀徹のことを切り出してみると、彼女は顔を真っ赤にしてあたふたしながら話をしていた。
それが可愛いとネットや各所でも評判になり、今やテレビのバラエティにも引っ張りだこ。別に秀徹が好きと公言しているわけではないのだが、その姿は誰がどう見ても恋する乙女のそれであった。今までは鉄のJKなどと呼ばれていたが、今の秀徹いじりも満更ではなさそうなので秋田も嬉しい。
今回も、ロシアにわざわざ来たのはサッカー番組のためのリポートの仕事の一環だ。綺麗で人気があるだけでなく、サッカーにも精通しているからこその抜擢である。
コロンビア戦の翌日。この日は流石に選手も疲労を取るためにオフになっており、自由に過ごしている。そして、秀徹は暇だったのでテレビ取材を受けることにした。
本当は拒否するつもりだったが、スタッフから、どうしても会わせたい人がいると言われていたのでローガンでも来るのかと期待して受けてしまったのだ。
取材を開始する際、秀徹が先に部屋で待機していると、何も知らない亜美が入ってくる。入った瞬間、二人ともがお互いに顔を見合わせ、驚きで口をあんぐりさせている。
そして、段々亜美は顔が紅潮し始め、少し涙目にすらなってきている。SNSでたまにやり取りはするものの、2ヶ月も会えなかった恋い焦がれた相手が目の前にいたのだ。
亜美の秀徹への想いは日に日に増していた。前回の食事の時も顔を赤くさせたものだが、今は前よりもさらに好きになってしまっている。もはや、自分の想いを止められなくなってきている。
「あの、秀徹君!好きです、付き合って下さい!」
テレビのことなど忘れ、気付いたらそう言ってしまっていた。お見合い番組ならあり得る話だが、こういった普通の番組で告白するなんて前代未聞である。番組スタッフ一同や当の秀徹もぽかんとしている。
秀徹も実のところ、亜美が自身に気があるような言動をしていたことは何となく知っており、ワンチャンあるのか?ぐらいには思っていた。ただ、男性免疫がない、あるいはノリやキャラ付けでやっている可能性もあったし、仕事も忙しく、本格的に狙って行こうとはしていなかった。
そんな状況での告白。やっと現実を認識した秀徹は脳をフル回転させて考える。ドッキリってやつなのかガチなのか。受け入れるべきか拒否するべきか。今ここで返答すべきなのかそうせざるべきか。選択肢は色々だ。
でも、亜美の表情や仕草から察するにドッキリの類ではなさそうだ。以前からSNSでも積極的に喋りかけてくれていたのもある。ただ、秀徹もサッカー漬けの毎日を過ごしており、付き合って本当に彼女を幸せに出来るかなどの不安はある。
ここで簡単には決められなかった。
「ありがとう、亜美ちゃん。嬉しいけど、今はあまり気持ちが整理出来てないから、お返事は今度でもいいかな…。」
控えめに秀徹がそう言うと、亜美も小さく頷いた。こうして、ワールドカップの期間中にも関わらず、秀徹は日本で一位を争うようなトップ女優に告白されてしまったのだった。
正直、そこからの取材の内容を秀徹は覚えていない。何だか体がふわふわする感じがして、今までにない高揚感を楽しんでいた。このことは日本は勿論のこと、各国のメディアでも取り上げられ、色々な意味で注目を浴びる選手となった。
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グループステージの第1節が終了した。世界を驚かせた試合がいくつもあった。まず、開催国のロシアはやはり地元だからか強く、エジプトをコテンパンに叩きのめした。いかにエジプトにサリーがいようとも、味方の援護がなくては活躍できないのだろう。
そして、最大のビックマッチとなったポルトガルvsスペインという何とも気になる試合は、3-3という面白い結果に終わった。全体的に強い選手を取り揃えるスペインに対して、ポルトガルは絶対エースのローガンを中心に据えて戦う。
前半4分にPKで先制したポルトガルだったが、その後は逆転されるもローガンが3-2まで持っていき、試合終了直前のフリーキックでローガンが直接決め、漫画のような展開で3-3の引き分けへと持ち込んだのだ。この勝負強さこそ、秀徹がローガンを崇拝する理由の一つでもある。この試合を見て秀徹は身震いしたものだった。
また、前回覇者のドイツがいきなりメキシコに敗れるというのもビッグニュースだった。メキシコも強いチームだが、まさかドイツが負けるとは誰も予想していなかった。前回優勝した時に劣らないほど今回のドイツのメンバーは強力だからだ。
日本がコロンビアに3-1で圧勝したというのもビックニュースに違いない。コロンビアは世界的に見ても強豪だ。ヨーロッパから見て、アジア勢は元々期待されていないわけだが、まさか勝ってしまうとはという感じだろうか。
さらに、同じグループHのポーランドがセネガルに敗れたのも大きなニュースである。ポーランドはヨーロッパの予選を突破してきたチームであり、それはつまり荒波を乗り越えてここにいるということだ。セネガルも良いチームだが負けるとは考えられていなかった。
まさに波乱の展開。日本にとっての第2戦目となる、セネガル戦も同様に誰も予想できない展開となった。
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何度も言っているが、セネガルは身体能力の高い選手が多く在籍しているチームで、エースとしてマニャがいるだけでなく、秀徹がセリエAで苦戦させられたクレバリや、昨季はモナコで活躍したRWGのケイテ・バルダなども在籍する。
全体的にスピードがあってフィジカルに優れている。日本の選手はテクニックが他の国の選手に比べて高い傾向にあるが、フィジカルは弱い傾向にある。
コートジボワール戦でも露呈した日本の弱さだ。何とか克服せねば勝てない。
今日の試合は、どちらかと言うと守備重視のフォーメーションで、4-5-1で臨む。ウイングの選手をあえて一枚下げてMFとしている。守備参加を期待しての采配だ。
秀徹はLMFとして左サイドに入る。OMFには香取、RMFには原田、CFには大隅がそれぞれ入る。
日本vsセネガル戦はゲーム序盤から激しい展開となった。秀徹が以前クレバリに苦戦させられたのと同様に、クレバリも彼に苦戦させられた。当然ながら警戒を怠らない。
日本の今回のワールドカップの戦術は秀徹である。もっと時間をかけてじっくり戦術を工夫できるならば、他にもやりようはあっただろうが、今の最も効率の良い戦術は秀徹にボールを集めることだ。
なので、とにかく彼にパスが多く回ってくる。だが、クレバリはそれらをファーストタッチの際に尽く潰しに来る。おかげで攻撃面では前半の立ち上がりはまともに機能しなかった。
ただし、守備面では秀徹は大きな役割を果たした。相手の右サイドバックのワグは19歳にして、素晴らしい攻撃センスとスピードを持つ。それとRWGのバルダのコンビとなると、本来であれば手がつけられない。
それも本来であればの話であって、秀徹は一味違う。圧倒的なスピードと、対人守備能力、さらにはデークから盗んだ、二人が相手の時に使える距離の詰め方などを武器に二人を翻弄した。
左サイドでタッグを組む長戸もあまり守備が上手いわけではないものの、彼のサポートもあって左サイドからの攻撃をほぼ全てシャットアウト。ほぼセネガルの攻撃は中央ないし左サイドに絞られた。
とはいえ、セネガルは左サイドにマニャがおり、彼の突破力やCFの選手のポストプレーを活かして攻め立てる。前半10分過ぎまでほぼセネガルボールで試合は進み、日本はシュート0本にとどまった。
前半11分、セネガルの中央から前線へロングフィードが飛び、それを日本のDFがクリア。
しかし、それは不完全なクリアとなり、セネガルの選手がペナルティエリア内でボールをとってシュート。一旦GKの川鳥がパンチングしたものの、目の前まで詰めてきていたマニャにパスする形となってしまって押し込まれてゴール。ほぼワンサイドゲームのような形でゴールを決められた。
いきなり1点を奪われてしまって焦る日本。DFとGKのミスが重なり合った不幸な失点ではあるが、どんなシチュエーションだろうと1点は1点。取り返さねばならない。
ここで日本が負ければ、グループステージ突破にポーランド戦での勝利が絶対となってしまう。負けられない。
リスタート後はキャプテンの長谷川の喝入れもあって、日本の攻撃になった。今日の攻撃で持ち味を発揮したのは香取。高いキープ力でペナルティエリア内外でタメをつくり、味方を動かしてチャンスを作る。これに秀徹も助けられた。
前半の中盤に突入すると、日本の攻撃ペースは落ちたものの、両サイドのMFに守備力の高い選手 (原田と秀徹のこと)を起用したこともあって、一進一退の攻防を繰り広げていた。
そんな中、前半34分に日本のチャンスが訪れた。香取が中央でボールを持ち、オーバーラップしてきた長戸にパス。
長戸は左サイドから内側へと切り込んでいった。彼はLSBにしては珍しく右利きの選手でかなりカットインしやすい。ただ、クレバリに足を出されて止められてしまった。
ボールはコロコロとペナルティエリアから外に出ようとしており、セネガルがクリアすると思われたが、それを察知して詰めてきた秀徹が左サイドから対角を狙ったカーブシュートを放ち、ゴール。美しい同点弾だった。
同点ゴール後は一旦試合は膠着状態になった。
セネガルからしてみれば、右サイドは秀徹&長戸の強力なディフェンスタッグがいるし、左では酒田という守備力の高い選手がマニャらを妨害している。中々攻められない。
逆に日本からしても、頼みの秀徹は中盤のグェオやRSBのワグなどにマンマークされており、パスを出しにくい。秀徹がいないと日本は前への推進力が半減する。ハーフラインを越えてプレーするのも難しくなってしまっている。
リスタートしてから1本のシュートも両者とも打てぬまま、前半が終了した。
後半開始から10分後にはセネガルの左サイドからのクロスにノーマークだったファーサイドのFWがダイレクトシュートで合わせて勝ち越しゴール。2-1になった。
失点後も前へと進めない日本の戦いに観客もいらつく。秀徹が相手を引きつけて出来たスペースも有効に使ってくれる選手が味方にいないため、上手く攻めに転じることが出来ない。
守備面では、意外にもCMFの柴田が体を張った良い仕事をしていたので全方向とも何とか持ち堪えている。あとは攻める起点が必要だ。
後半25分、西田は満を持して選手交代枠を使った。交代選手は本多と岡田。本多は香取に、岡田は原田にそれぞれ代えて投入される。
本多は香取ほどのボールキープ力やテクニックはないものの、前への推進力を持つ。岡田も本来はサイドの選手という訳ではないが、裏抜けの技術があり、走力とポジショニングセンスで前進を助けてくれる。
二人が攻撃に加わったことで、再び攻撃の歯車が回るようになってきた。そして後半35分に待望の瞬間が訪れた。
ペナルティエリア内にやっとのことで侵入した日本は、その周辺でパス回し。シュートチャンスを探す。これは中々シュートを打てない日本の良くない癖ではあるが、時にはチャンスを巡らせてくれる。
本多と大隅と岡田で動きながらボールを回す。そこへ秀徹もペナルティエリアに入り、相手のDFの意識が一瞬そっちに向いた。
その隙を見逃さず、いつの間にか左サイドにいた岡田がクレバリがプレスをかけて来ないのを見計らって縦へ推進。ゴールライン際で中央の本多へと折り返し、それに合わせて本多が左足を一閃。華麗なゴールが決まった。
ポーランドを破ったセネガルまでも、日本は引き分けに持ち込んでしまった。本多はここまでそのビッグマウスや言動から批判を浴びがちだったが、このゴールを含めた試合の活躍で見る目も激変。秀徹とともに讃えられる存在になった。
試合はそのまま2-2で幕引き。日本はここまで1勝1分で決勝トーナメント進出に王手をかける状態になっていた。
一方で第3節で戦うポーランドはセネガルに続いてコロンビアにも敗北。グループステージ敗退が確定している。さて、日本の運命やいかに!
高橋秀徹
所属 リヴァプール・レッズ
市場価値:2億1000万€
今シーズンの成績:43試合、35ゴール、20アシスト
総合成績:106試合、80ゴール、43アシスト
代表成績:10試合、8ゴール、3アシスト
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