ミランへ

8月1日。

あまりレッズでも練習できず、日本代表に招集され、気乗りしない試合にも出た7月が明けた日だった。日本代表でプレーしてみた感想は「やりにくい」だった。日本代表の選手、特に国内組は何だかパスを繋ぐことこそが正義と考えている様子であったが、彼の意見は全く異なる。繋げなかろうと、点を入れたらサッカーは勝てるのだ。

ボールは繋ぐことも時には必要だが、まずは前へと送ることを考えねばならない。行く先が見えているかないかの違いだ。試合には2試合出て結果は1ゴール。良くも悪くもないが、一応最年少ゴールということになる。彼の良いところの一つはプレーするチームの状況などに影響をあまり受けず、独力で展開できるところにある。その点、日本代表が熱望していたタイプの選手ではある。



さて、イタリアにやってきた。ドイツやイギリスよりも緯度の低いイタリアは暑く、何より日光が強い気がする。

今から彼が加入するミランfcは伝統ある古豪である。少し前までは紛うことなき強豪だったのだが、いかんせん最近は主力の流出、選手獲得の失敗、補強の失敗などを背景にかなり弱体化している。

まあ、とはいえ今でも世界でも恐らく三位の実力を持つイタリアのセリエAで中堅以上を保てるチームであり、シュトゥットガルトより強い。


メンバーを紹介しよう。まずはGKのドンナモンジャ。まだ17歳の彼だが、身長は190cmを優に超えておりスターティングメンバーに入る強者だ。同い年ということもあり彼には声をかけたが、中々気さくですぐに友達になれそうだった。

次はロマニョーレ。彼は21歳の若きCBにして、すでに成熟した動きを見せる選手で、今季はベテラン勢からレギュラーを奪うのではないかとすら言われている。

さらにMFのボナベントゥーレも若くて優秀な選手だ。彼は中盤でボックストゥボックスと呼ばれるピッチのあらゆる場所に顔を出して攻守に渡ってプレーするのを好む選手だ。

攻撃的MFであるサソも忘れてはならない。彼はドリブラーであり、OMFやRWG(ライトウイング)をこなせる。

また、日本代表のOMFやSTの本多、CFのバッキ、WG(ウインガー)のデウロフェオなども所属している。


監督のモンテナは来て早々、秀徹にこう頼んだ。


「やあ、君のことはよく知ってる。本心から期待していると言っておく。私はスペクタクルなサッカーをしたいとも思っているが、まず現実的にこのクラブが必要としているのは得点力だ。

イタリアは守備の国と言われるほどディフェンスが固い。ミランも同様だ。だが、点はここのところ取れていない。君もクラップ監督に教えられているのだから戦術がある程度わかっていると思うが、私はOMFを置かない4-3-3でウイングを活かした戦術を採りたいと思っている。

君にはウイングまたはトップとしてとにかく、点を奪って欲しい。方法はこだわらないから取ってくれ。」


彼は至って真剣にそう言っていた。前年度、このクラブは6位以内に入れず、マスターズリーグの出場権すら逃した。その原因こそが得点力不足であり、新任のモンテナはそこの改善に取り組もうとしていた。

しかし、このクラブが契約した選手には一つの基準となる年間15ゴールを奪えるような得点力の持ち主はレンタルで加入することになった秀徹しかおらず、仕方ないが彼にその大役を任せることにした。本来ならドリブラーとしての彼のチャンスメーク能力にスポットを当てたい思いはあったのだが。


今季、彼が与えられた背番号は“7”。デウロフェオがつける予定だったが、秀徹に譲られる形となった。

前年度とは違い、秀徹の入団はミラノ中で騒ぎとなり、会見には報道陣が殺到した。彼のユニフォームは現地だけでなく日本やドイツ、イングランドなどの彼のゆかりの地でも飛ぶように売れ、かかった900万€のコストも安いものとなった。

入団式には、7万人が本拠地・ヨンシーロに詰めかけ、彼のプレーお披露目は最も歓声が上がる演目となった。



8月4日。ミランはやっと選手をグラウンドに集める。初日はチームミーティングと契約確認、二日目は入団会見など、三日目に入団パレード及び入団式と大忙しだったが、やっと練習が始まるのだと秀徹は期待する。だが、そこにはチームメイトの他に、色々な企業の社員らしき人物がおりCMか何かを撮影したり、ユニフォームを着て写真を撮ったりしている。


「まあ、これも一つのビッグクラブのやくめなんですねぇ↑」


それを見て唖然とする秀徹に本多が声をかける。さらに、


「僕の中のリトル本多も、清々(きよきよ)しいってゆーてますわ。」


と語りかけてきた。


(何を言ってるんだこの人は…。)


これが大物であるのかと少し感心しつつも、本多の言ってることは意味不明だった。まあ、ミランは実力は落ち目にあるがブランド力は未だ健在だ。企業としてもそれを利用したいのだろう。それが彼が言うには「清々(きよきよ)しい」のかもしれない。


秀徹もユニフォームの写真や、スパイクを履いた写真。さらにはスポーツドリンクを飲む映像などまで撮られ、しまいには謎の150cmほどのパネルを持って写真を撮られた。そこには彼の名前、顔写真と何かの数値が羅列されており、OVRと書かれた欄には大きく82と記されている。

何の数字だかよくわからなかったが、聞いてみればとあるゲームの能力値だと言う。


(なんじゃこりゃ、俺がこれ持つ必要あるのか?)


そう思わなくもないが、その辺は気にしたら負けなのだろう。



〜〜〜〜〜



8月5日。やっと練習が始まった。ミランの選手たちは噂に反して非常に上手い。正直、びっくりだった。特にドンナモンジャ、ロマニョーレ、ボナベントゥーレ、サソ、バッキはとても上手い。バッキは去年のセリエAで18点を決めた男であり、チーム内得点王である。

ただ、ミランは強いて言えばカウンターぐらいしか戦術的な決めごとはなく、先述のとおりウイングやサイドバックによるサイド攻撃を主軸にしている。

秀徹はLWGを主に務めることになるが、彼はどこであろうと変わらずにドリブルできる稀有な選手だ。上手くやるだろう。



折角なので、2016-17シーズンが始まる上で紹介したいことを話しておこう。

2015-16年度のチャンピオンズリーグの優勝チームはクラブのレジェンドであるジドン率いるクラブマドリード。大エースであるローガンがいるそのチームは無類の勝負強さを見せつけた。

そんな中、何としてもチャンピオンズリーグで優勝したいイタリア最強のチームであるユヴェ・トリノは前年度に36得点を奪ってセリエA得点王となったイグアレンを獲得。さらにFCローマから中盤のピャナック、バルサシティから世界的 SB(サイドバック)のアウデスなどを獲得した。が、まあ10番を背負っていたポルバやストライカーのモラテなどの主力の移籍もあり、戦力的にはプラスマイナスゼロか、少しプラスぐらいだ。



一週間も練習をし終わると、いよいよセリエAのシーズンが始まる。セリエAは、最も得点を取りにくく守備が固いリーグである。昔から「カテナチオ」と呼ばれる守りを固めてカウンターを仕掛けるサッカーが代名詞となるほどである。

それはつまり、最も適応の難しいリーグということになるのだが、果たして秀徹はどうなるのだろう。




高橋秀徹


所属 リヴァプール・レッズ→ミランfc(Loan) 

市場価値:5000万€

今シーズンの成績:0試合、0ゴール、0アシスト

総合成績:30試合、20ゴール、13アシスト

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