さらばシュトゥットガルト!
「シュトゥットガルトへの完全移籍ですか…。」
「そうだ。契約オプションとして盛り込まれてはいないが、このまま行けばシュトゥットガルトとしても成績良好だから収入も良くなるだろう。君を獲得する余裕も出そうだ。」
そう語るのはエージェント小林。シュトゥットガルトからオファーがあったようだ。
「リヴァプールがどう言うかは知らないが、最大で3000万€(約39億円)までの移籍金を負担するらしい。年俸は240万€(約3億1200万円)の3年契約。」
秀徹は全く受ける気はなかった。しかし、物は試しと思って、小林にどうすればよいか聞いてみた。ステップアップを考えるならばこれはあまり秀徹にとっても美味しい話ではない。ただ、もし彼が金に目がくらんでいる人物ならば、ボーナスも出るだろうし、すぐにでも移籍させようとするはずだからだ。
それに対して小林は、
「君もシュトゥットガルトによく馴染んでいるし、君がしたいなら止めないが…。
世界一の選手を目指すならば受けてほしくないな、お金の面は今のレッズよりも良いが今後を考えればレッズの方が出せるだろうし。」
とほぼ完璧な答えを返してくれた。秀徹も全くこれに同感だ。シュトゥットガルトはファンも温かく、リルナーやクローズらとは仲良くなれたが、それでも自分のキャリアが第一だ。金に目がくらみ、選手のキャリアを顧みない移籍や交渉を繰り返すようなエージェントも多い中、小林は選手の親身になって考えてくれる良いエージェントであった。
さて、リーグは終盤戦にあって、シュトゥットガルトはあれから5試合で2勝2分1敗とまずまずの成績を収めている。ただ、一位のミュンヘンには遠く及ばず、次点のドルトにも全く及ばない。
現在順位は6位。4位以内に入れば来季のチャンピオンズリーグの出場権を獲得でき、5〜7位以内に入ればマスターズリーグの出場権が獲得できる。マスターズリーグはチャンピオンズリーグに出場出来ないが、それに準ずる力を持ったチームが参加する大会だが、やはりチャンピオンズリーグに参加することこそが目標にはなるだろう。
ただ、そこからの4節は強豪揃い。シャルケブルーに、ライプツィヒFCなどのかなりの難敵とばかり戦うことになる。順位もシュトゥットガルトよりも上だ。何となくファンもチャンピオンズリーグ出場権には手が届かないようなムードを察していた。
が、秀徹という男だけはそれを許さなかった。ミュンヘンやドルトに対して見せた異常な程の強心臓と個人技でその2チームを圧倒。結果的に最終節までの4節で4連勝へとチームを導いた。
26〜34節までの9試合での秀徹の結果は8試合6ゴール2アシスト。シーズンでの結果は30試合20ゴール13アシストとなった。
歴代でも欧州のトップリーグで年間20ゴール決めた選手は全くいない。まさに快挙であり、得点ランキングでもミラーと同位の3位に輝いた。ブンデスリーガのシーズンベストイレブンにも当然のように選出され、その累計ドリブル回数261回、そして成功数の195回はヨーロッパの五大リーグにおける今シーズン最高記録となった。彼は世界的ドリブラーの座を1シーズンで獲得したのだ。
この快挙は連日日本のマスコミでも報じられた。若い日本人選手が五大リーグ以外の海外のクラブと契約しただけで話題になるのだ。この彼の活躍が話題にならないとしたら異常である。
ここまで日本代表の話もコンディションやクラブの兼ね合いもあって蹴ってきたが、6月から始まるオフシーズンを前にその話がようやく固まっても来た。日本人にはあまり独力で突破するようなドリブラーがいないのもあって、ますます期待は高まっていた。
ブンデスリーガも最終節まで終わり、ミュンヘンが一位、ドルトが二位、三位がレバークーゼン、四位に何とかシュトゥットガルトが食い込んだ。
四位のシュトゥットガルトは来シーズンにチャンピオンズリーグに出場したいならば、それをかけてベルギーだったり他のヨーロッパのリーグのチームともう1ゲーム行って勝たなくてはならないが、とりあえずそれに負けようがマスターズリーグかチャンピオンズリーグへの出場権は得られたのだ。嬉しいことこの上ない。クラブはこの結果に大いに満足している。
「シュウト、君のことを私は最初正直疑っていたし、見くびっていた。しかし、それは誤りだった。君は本当に素晴らしい選手で、それはシュトゥットガルトで永遠に語り継がれるだろう。」
最終節が終わった直後、監督もそう伝えてきた。はっきり言って秀徹は彼をあまり優秀とは思えていなかったが、秀徹を快く思わないながらに彼を重用してスタメンに入れ続けてくれた。それに秀徹も感謝している。
「こちらこそ…、シュトゥットガルトに来れて僕も良かったと心の底から思っています。」
これは秀徹も心から思っている。シュトゥットガルトは武者修行の場所として最適だったと思うのだ。
6月。イングランドへと帰る途中で仲良くなったリルナーとクローズが見送りに来てくれた。リルナーはいずれビッグクラブで活躍しそうだし、クローズはワールドカップの予選などで再び会うだろう。
「俺もお前に負けないように頑張るぞ!」
リルナーはそう言って秀徹の背中を叩く。サッカーを通じて人とこんなにも仲良くなれるのかと思い知らされた一年であった。
〜〜〜〜〜
リヴァプールに戻った秀徹は、一年前とは大違いの待遇でもてなされる。何しろ彼はスター選手の一人。クラブにとって大事な選手の仲間入りをしているのだ。
「秀徹、今の状況を確認するぞ?」
ともにレッズへと赴いた小林は秀徹にそう切り出して話を続けた。
「君のレンタル移籍期間は終了した。レッズも君の今年度の活躍を高く評価していて、来年は主力選手としての活躍を期待している。今日はその辺り、つまり来年の身の振り方と契約の見直しの話があると思う。君の年俸の1億円は実力に見合ってないしな。」
そう言い終わると、新聞記事を渡してきた。そこにはサッカーのニュースが載っている。
「ただ、高く評価しているのは他のチームも同様だ。君の今の市場価値はぐんと跳ね上がって5000万€(約65億円)。若手としてはトップクラスだ。
それでも君の成長の余地とシーズン20ゴールを決められる得点力欲しさに、パリシティはクラブに対して7000万€のオファーを出したとも言われている。流石は金満クラブだ。他にも青田買いのつもりかバルサシティやクラブマドリードも獲得に興味を示しているんだ。どうする?」
秀徹自身には直接連絡はないものの、その噂自体は彼も感知していた。パリシティやバルサシティ、クラブマドリードはミュンヘンと並ぶかそれ以上の強豪。移籍先としては魅力的だった。
「出場機会が保証されないですし、クラップ監督の元でサッカーしたいんです。」
薄々小林も感じてはいたが、やはり彼はレッズでサッカーがしたいようだった。小林も金銭的には特にパリシティは魅力的だとは思っていたが、パリシティは一回契約した選手を離そうとしないという特徴があるクラブだ。安易に契約しない方が彼の身のためにかる。
「まあそう言うと思っていたよ。来季こそ、レッズでプレーしたいよな。」
〜〜〜〜〜
「ふざけるのも大概にして下さい!なぜシュウトをまたレンタルさせなくてはならないんですか!!」
「あのなあクラップくん。彼はまだ若いし、ブンデスリーガでのことだってまぐれかもしれんだろう。それにうちの財政はカツカツなんだ。
ミランfcが良い話を持ちかけてきてね。一年のレンタルでレンタル料が900万€(約11億7000万円)。彼と契約更新しても十分に利益が出るんだ。乗るしか無いだろうよ。」
このクラブの上層部の意見にクラップは脳の血管が切れるほどに激昂した。彼は何よりも今シーズン秀徹とプレーするのを楽しみにしていたのに、それをミランにまたレンタルするなどあり得ない話だった。しかし、彼がいくら反発しても、上層部はすでにこれは決定事項だと言って聞かない。
重い足取りでクラップは会議室をあとにし、応接室で待つ秀徹にこのことを伝えに行った。
「そ、そんな!ブンデスリーガであそこまで活躍した秀徹をさらにレンタルなんて!」
小林は代理人としてクラブの方針を否定する。ごもっともな意見だ。しかし、当の秀徹は冷静だった。
「正直、プレミアでやれるかは不安だったんです。だから、もう一年、我慢して修行してきます。その代わり、クラブの上層部に一年で結果を残したら、どのような条件のオファーが来ようともクラブに残留させると約束させて下さい。じゃないと僕は契約更新しません。」
これにクラップも頷く。多額のレンタル料を払う前例が出来てしまえば、それに続くクラブもあるかもしれない。そこが心配だった。
「それは任せろ。僕が責任を持って契約条項に盛り込もう。ちなみに、次の契約は2020年までの4年契約で年俸は350万€(約4億5500万円)だとのことだ。詳しいことは後日ゆっくり専門のスタッフから聞いて欲しい。」
クラップはそこで契約の話を止めると、最後にこう締めくくった。
「君ならやってくれると思っていたが、君は見事にブンデスリーガで偉業を成し遂げたね。今季の君は20歳以下ではダントツの成績を残している。間違いなくメーシュやローガンのような選手になれると確信したよ。
本当に僕は君を指揮したかったが…、クラブの決定は非情だね。でも、これで君がイタリアでも活躍できれば、クラブの疑念は晴らされると思う。ぜひ頑張ってほしい。」
高橋秀徹
所属 リヴァプール・レッズ→シュトゥットガルトFC(Loan)
市場価値:2000万€
今シーズンの成績:30試合、20ゴール、13アシスト
総合成績:30試合、20ゴール、13アシスト
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