復調

【作者からのお詫び】

お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、この前の話とこの話の間には本来もう一話ありました。しかし、なぜかデータが見つからず、穴が空いた状況でした。申し訳ありません。


その飛ばしてしまった話のあらすじ:

秀徹はドルト戦後、シュートをうつのが怖くなり、6ゴールでシーズンの前半戦を終えた。

このままではまずい、そう思っていた彼にクロップから救いの手が差し伸べられた。

イングランドにいるクロップに呼ばれて行った先では、クロップが屈曲なラグビー選手3人を集めて待っており、秀徹は彼らからみっちりタックルを受けてそれに慣れることにした。最初は全くそれらに太刀打ちできなかったが、その内秀徹はタックルを弾くのではなく、受け流せば良いと考え、そのコツを掴んでフィジカル的な弱みを補強。その勢いのままシーズン後半へと突入することになった。



シーズンの後半が始まったとは言え、まだ1月の移籍可能期間。

チームはリーグに対して所属メンバーを提出し、リーグはその所属メンバーが試合に出ることを許可している。リーグ間の所属メンバーの重複、要するにブンデスリーガとプレミア・リーグの両方に所属することは出来ない。なので、選手をチーム間で移籍させることはその所属を解除する手続きを取れる1月と、7月、8月に行われる。今がその期間だ。

別に秀徹は移籍を考えていたりはしないのだが、多くの場合、選手は代理人を通してその移籍や契約更新などの交渉を行う。

彼も市場ではもう2000万€(約26億円)の値札がつけられ、すでにレッズから年俸200万€(約2億6000万円)での契約更新を打診されている身だ。額も額なので代理人が欲しいところだ。


そこで紹介されたのが小林という壮年で背が高く、日本語の他に英語、スペイン語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、ポルトガル語を使いこなす優秀な商社マンだ。彼いわく、


「僕は今は商社で働いているが、サッカーも大好きだし交渉も得意だ。だから、これからは欧州で活躍するような日本人選手にエージェントとして雇ってもらって仕事をしようと思ってるんだ。」


と話す。

いくら秀徹が英語が喋れようと、母国語である日本語にその語学力が勝るはずがない。交渉の細部を詰めて話す際にその正確性が求められるだろう。確かに日本人は日本人のエージェントが欲しいところだ。

人当たりも良さそうだし、すでに他の日本人の何人も彼と契約をかわそうとしていることを聞き、秀徹も契約することを決定した。とりあえず年4万€(約520万円)の契約。まだこれは安い方で、移籍などをするとさらに代理人にボーナスが入ったりする。実はサッカー業界で一番儲けているのは彼らではないかとすら思ってしまう。

というわけで、今後は移籍の話やレッズなどのクラブとのやり取りは彼に一任することにした。



〜〜〜〜〜



ドイツの冬は寒い。ただ、そんな中でも観客はスタジアムに足を運び、果敢に戦う選手を応援する。

シュトゥットガルトFCはミュンヘンFCを破ってからファンを声援に応えるがごとく、快進撃を始めることになった。

エースの秀徹は後半戦開始から特に調子が良く、第24節までの7試合全てに出場し、7ゴール2アシストとまさに爆発していた。得点ランキングでも20位程度で折り返した前半戦から盛り返し、現在計13ゴールで5位。まだまだ順位を上げていきそうだった。

チームも順調そのもので、ミュンヘンとの一戦を含めて4勝2分1敗の好成績を残していた。



そして、その復活を象徴したのがドルトFCとの一戦だった。ドルトは前回、シュトゥットガルトを3-1で下し、その後のシュトゥットガルトが低迷期に入った原因とも言えるチームだ。当然ながら警戒すべき相手になる。フルメンスにやられた秀徹も一種のトラウマを抱えていた。


が、それを跳ね除けるような秀徹のパフォーマンスが炸裂した。4-5-1のMFのOMFの位置に入った彼はパス回しの中心となり、CFに入るリルナーとタッグを組んで攻め立てた。

基本的に彼はサイドからドリブルするプレースタイルだったので、この布陣を聞いてドルトの守備陣は、サイドに開かせないようにすれば何とかなると考えていた。しかし、父とひたすら1vs1を重ねてきた彼にとってドリブルする場所がどこであろうと全く関係ない。

中盤で攻撃のスイッチを入れる司令塔としての役割をしっかり果たしてリルナーのゴールでアシストを決めると、さらに後半32分のチャンスでトラウマを克服せんとセンターサークル近くから独力での展開を試みた。


まず、これを警戒したのは中盤の底に位置するヴァイグレだ。大柄な選手で、秀徹を真っ先に潰しにかかる。

だが彼はそれをスルスルと抜いていく。基本的に秀徹がボールを取られることは少ない。あるとすれば、フィジカルで競り負けてボールをこぼすというシーンだ。ただ、今の彼はそれすらも克服しつつあるのだ。

ヴァイグレを抜いた後に立ち塞がるのはフルメンスだ。フルメンスの脳裏にも彼のロングシュートが焼き付いており、あれをやられたらひとたまりもないと考えていた。そこでフルメンスはドリブルに対しては足を出さずに、シュートを打つまで付き纏うことにした。

秀徹は中々足を出さないフルメンスを不気味に思うが、そのまま一人をかわしてペナルティエリアに侵入。シュートする体勢に入った。そこでフルメンスはタックル。これで攻撃の芽は積まれたかのように思えたのだが、秀徹はバランスを崩したが倒れない。むしろ体重をかけてタックルしたフルメンスの方がよろけてしまう。これこそがボディコントロールによるタックル回避だ。

フルメンスによるシュート阻止を回避した秀徹はそのままシュート。正確に狙った低い位置を狙った一撃はゴールに刺さり、2-0の勝利へと導くゴールとなった。


試合後、


「俺たち、ミュンヘンとドルトに勝ったんだ!」


と皆揃えて嬉しがる。ブンデスリーガを代表する2クラブに勝つということは誉れ高いことだった。



高橋秀徹


所属 リヴァプール・レッズ→シュトゥットガルトFC(Loan) 

市場価値:2000万€

今シーズンの成績:22試合、14ゴール、11アシスト

総合成績:22試合、14ゴール、11アシスト

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