第6話 離れた手


 ユウくんと二人で回る文化祭は、とても楽しかった。途中、クレープを食べたいって言ったら、ユウくんが自分のお金を出して買おうとしたけど、ちゃんと私の持ってきたお小遣いで買った。お母さんからも、迷惑かけちゃダメって言われたからね。


 その後お化け屋敷にも行ったけど、そこは行かない方がよかったかも。

 だって、お化けや幽霊って嫌いだもん。人間が中に入って動かしてるのは分かるけど、それでも怖いものは怖い。私があんまり怖がるもんだから、とうとうユウくんがお化けの人達に、あんまり怖がらせないでって頼んでた。うぅ、恥ずかしい……


 そんなこんなで、ちょっぴり消したい思い出もできたけど、それでも振り返ってみると、やっぱり楽しい事の方がずっとずっと多かった。

 だけど、そんな時間ももうすぐ終わる。辺りが暗くなった頃、運動場に出てみると、そこにはすでに、大勢の人が集まっていた。


 もうすぐここで花火が打ち上げられて、それでこの文化祭は終わりを告げる。

 だけど私にとっては、この打ち上げ花火こそ、一番大事なイベントだ。ユウくんと手を繋いで、一緒にそれを見る。そうすれば、何かが変わってくれると信じた。


 花火を打ち上げる場所は事前に一度見ておいたけど、運動場の端っこにあって、周りには黄色いロープが張ってあった。対して私達がいるのは、運動場のちょうど反対側。もうちょっと近くに行こう。そう思ったけど、ユウくんはそこで足を止めた。


「あんまり近くに行くと人混みで見にくくなるだろうし、この辺でいいか?」


 確かに、打ち上げ場所に近ければ近いほど人が集まっていて、背の低い私じゃ上手く見えないかもしれない。しっかり見るなら、これくらい離れていた方がいいのかもしれない。

 だけどその時の私は、そうは思わなかった。


「えーっ、もっと近くがいい」


 花火に近い方が、もっとおまじないの効き目がある。誰に言われたわけでもないのに、何故だかそんな風に思ってた。だから、もっと近くで見たかった。運動場の反対側の、打ち上げるギリギリの場所。出来る事なら、そこまで行きたかった。


「背伸びしたら見れるもん。ね、行こう」

「おい、藍!」


 ユウくんの返事も聞かずに、手を引いて走り出す。目の前にはたくさんの人がいたけれど、その間を潜って、前に前にと進んでいく。

 そして、ようやく運動場の端っこに、打ち上げ場所のすぐ近くにやってきたところで、ユウくんに向かって振り返る。

 だけど――――


「えっ?」


 振り向いた先に、ユウくんの姿は無かった。その時になってようやく、いつの間にか繋いでいた手が離れてる事に気付く。キョロキョロと辺りを探したけど、周りにいるのは知らない人ばかり。

 はぐれたんだ。


「どうしよう……」


 これのままだと、手を繋ぐ事も、一緒に花火を見る事も出来ない。不安に思ったその時、近くにあったスピーカーから放送が聞こえてきた。


『本日は、お越しくださってありがとうございます。間もなく、最後のイベント、花火の打ち上げを行います』


 同時に、所々に灯っていた明かりのうちいくつかが消えて、辺りが一気に暗くなる。これじゃ、ますますユウくんを見つけにくくなる。

 こんな事なら、もっとしっかりユウくんの手を握っておけばよかった。


 ううん、そうじゃない。一緒に花火が見たいって言った時、ユウくんは私になんて言った?


『ここにいる間は、俺から離れずにいい子にしておくこと。約束できるか?』


 そう聞かれた私は、約束するって言った。絶対離れないって言った。

 なのに、もっと花火を近くで見たいって思って、ユウくんの返事も聞かずに駆け出してしまった。その結果がこれだ。


 ワガママなんて言わなくて、ちゃんと約束さえ守っていたら、こんな事にはならなかった。

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