第2話 おまじない

 雨の中、ユウくんと一緒に帰った次の日。学校に行くと、すぐにみっちゃんに声をかける。


「はい。これ、頼まれてたプロフ帳。全部書いたよ」

「ありがとう。見てもいい?」


 みっちゃんはそう言って、その場でプロフ帳を眺めていたけど、途中で手を止めて私を見る。


「藍ちゃん、好きな人いるんだ」

「う、うん」


 やっぱり聞かれちゃったか。

 好きな人についての質問。人のプロフ帳を見たら、ほとんどの子が反応してくる場所だ。


「年上って書いてあるけど、どんな人なの?」

「えっと……高校生のお兄ちゃん。優しくて、すっごくカッコいいの」


 言うのはやっぱりちょっと恥ずかしかったけど、それでもハッキリ答える。ユウくんがどれだけステキな人か、ちゃんと伝えたかったから。


「そうなんだ。高校生を好きなんてすごいね。応援してるからがんばって」

「う、うん。ありがとう」


 話していて、顔が赤くなっていくのが分かる。でも、がんばってって言ってもらえるのは嬉しかった。

 だけどその時だ。突然、私達の目の前にゴムボールが飛んできた。


「きゃっ!」


 声をあげ、飛んできた方を見る。するとそこには、同じクラスの男子、三島啓太みしまけいたが立っていた。


「もう、危ないじゃない! 遊ぶならよそでやってよ」

「うるせーな」


 みっちゃんが怒るけど、三島は全然気にしない。それどころか、文句を無視して私を見ると、イジワルそうにニヤリと笑った。


「おい藤崎。高校生を好きなんて、バカじゃねーの。そんなのムリに決まってるだろ」

「な、なんで?」


 ムリ。その言葉に、さっきまでのドキドキしていた気持ちが、一気にしぼんでいくのが分かる。それを見た三島は、調子にのって続けてくる。


「何歳違うと思ってるんだよ。向こうから見たら、お前なんてガキじゃねーか。どんなにがんばっても、よくて妹。お前の言ってる好きになんてなんねーよ」

「う……うう……」


 言い返したくて、なのに言葉がちっとも出てこない。そのかわり、悲しい気持ちが溢れてきて、胸の奥がチクチク痛む。


「こらーっ、三島! いい加減にしないと先生に言いつけるよ!」

「へん! 全部ホントのことだろ!」


 みっちゃんに怒鳴られ三島は退散していくけど、私の中にある嫌な気持ちは残ったままだ。


「藍ちゃん、元気出して。三島の言うことなんて気にすることないよ」


 そう言って慰めてくれるけど、私は顔を伏せたまま、小さく首を横にふる。だって、三島の言ってることはきっと正しい。


 ユウくんは私よりずっと年上で、大人だ。クラスの男子、特に三島とは全然違ってて、とっても優しくてカッコいい。

 けどユウくんが大人って事は、反対にユウくんから見ると、私は子供ってこと。大人と子供じゃ、恋としての好きなんてなれやしない。

 そんなの、私だって薄々分かってた。


 みっちゃんはそんな私を見たまま困った顔をしてたけど、それから思い付いたように言った。


「ねえ。藍ちゃんが好きなその人って、近くにある、あの高校の人?」

「うん。そうだけど……」

「やっぱり。だったら、上手くいくおまじないがあるよ」

「えっ……」


 上手くいく。その言葉を聞いて、少しだけ顔を上げる。それを見て、みっちゃんは話の続きを聞かせてくれた。


「もうすぐ、その高校で文化祭があるでしょ。文化祭が終わる時に、小さい花火が上がるんだけど、その時手を繋いだまま花火を見てた二人は結ばれるんだって」

「そうなの?」


 文化祭。そう言えばユウくんも、最近準備をしてるって言ってた。それに、私が遊びに行ってもいいかって聞いたら、案内するって言ってくれた。


「私、やってみる。ユウくんと一緒に、手を繋いだまま花火見る!」

「その意気だよ。がんばってね」


 みっちゃんに励まされ、涙を拭いて顔を上げる。

 おまじないなんて、本当にきくかどうかは分からない。けど、もしほんの少しでも効果があるのなら、何だって試してみたかった。

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