第6話

今更ながら思う。

本当に僕は彼女のことが好きなのか。

声だってゲームで通話した時に少し聞いただけだ。

性別以外信用出来る情報なんてない。

中央の喧騒もほとんど聞こえないに等しくなる。


スマホにメッセージの通知。

『男子たち地震なのに盛り上がってんのね笑笑』

添付した写真への簡単なコメント。

今はなぜか嘲笑のように聞こえる。

返信する気力が湧かずそのままアプリを閉じる。


何も考えたくなくて中央の喧騒に耳を傾ける。

「単語が消えてるのは悲しみだけのようだね」

「たぶんな、、悲しみへのボキャブラリーだけが他の感情に比べて少ない」

「他の感情、喜び、怒り、驚き、恐れ、嫌悪に関してこれから消えるのか?」

「でも、そんな予兆はないぞ?」

「そういや、文字として残ってる悲しみの単語とかないのか?」

「いや、心理学の本持ってたやつのを見たんだけどどうやら、悲しみを表してただろう単語だけ滲んでるんだよ」

思ったより考察は深くなっていたようだ。

言語障害の対象は悲しみを表す晦渋な単語だけらしい。

どうであれ、自分は輪の外の傍観者に過ぎないが。


新山がこちらを見る。

外から見ているだけの自分は彼の目にどう映ってるのだろうか。

恐ろしくてスマホに目を落とす。

『地震の時の歌なんだったんだろうね』

脈絡もないそれを彼女に送って机に伏せた。


今日は運良くシャワーを宿直室から借りれ、

うちの学年が使うことになった。

昼と余り変わらない夕食を食う。

体育館は避難者で半分強埋まったようで生徒は教室で就寝。

非日常への興奮か騒がしいクラスメイト達がなにやら盛り上がっている。

『今日も今日とて何も変わらない一日を過ごすのか』

非日常になったって、ほとんど変わらないのか。


騒がしかった教室も静まり始めた午前0時。

再び地が揺れた。

一瞬で喧噪を取り戻した教室の中。

僕は、前回よりもはっきりと歌を聞いた。





『午前0時、□□地方にて再び地震が発生しました。気象庁によると午前の地震の余震だそうです。また、この地震による津波はありません。』

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