第5話

昼食を食べ終えた僕達に自習待機を伝えると、教師はそそくさと教室を去っていった。

自習する訳もなく、静かに言語障害について考察を

深めようとするカリスマ系男子とその取り巻き。

成績良い奴も頼られて満更でもなさそうにその輪に

加わっている。

そもそも、何を考察するんだ。

分からなくなった単語は把握できるはずもない

じゃないか。

どうせ、時間つぶしの域を出ないのだろう。


その輪を外から眺めるしかできない自分は、

ささくれだった気持ちを鎮めるために、

スマホに目を向ける。

彼女と知り合ったゲームを始めることにした。

「おい、なんだよその機嫌悪そうな顔は?」

ゲームのマッチング中に声をかけられる。

振り向くと人懐っこい犬のような笑顔と共に頭を

小突かれる。

「なんもねぇよ」

アプリを閉じて、新山に相対する。

新山は僕にとって、この学校で唯一の小学校から

知り合い。

カリスマ系男子達と一緒にいても色褪せない魅力。

それでいて、カリスマ系男子達の胡散臭い人の良さとは違い、憎めない人の良さを持ってる。

人望の厚さがその証拠。


「なぁ、お前そういや、好きな子できたって言ってなかったか?聞かせろよ」

どう返答すべきか、なぜか回転の悪くなった頭で

考える。

「名前だけでも、、、歳とか、住んでるとこは?」

「えっと、、、さやかだと思う、歳はたぶん同い年。△△県に住んでるよ」

ついというか、自分に好きな子ぐらいいると

言いたかった男子校生の性なのか話してしまった。


すると、新山は喉に何かが突っかかったような

顔をする。

「さやかだと思う?多分同い年?どうやって

知り合ったの?」

心臓の鼓動が心無しか早くなる。

「それは、、ゲームで知り合って、、」

新山が大きく息を吐くと真正面から僕の目を見る。

「なぁ、別にネット上で女の子と話すのを

どうこういう訳でもない。でもさ、名前だって

本名かわからない、年齢だって嘘かもしれない、

住みだって本当か?そんな相手を好きだって

言いきれるのか?」


僕は何も言えなかった。

新山は苦笑する。

別に責めたつもりは無い。

ただ、ネット上の知り合いの素性が本当だって言いきれるのか?

そう言って、僕の肩に手を置く。

中央の喧騒が大きくなる。

何かが分かったのだろうか。

新山はそっちに向かった。

雲が完全に太陽を覆ったようで世界が少し暗く

見えた。





『悲鳴を聞いたと証言した、□□地方近くの県でも□□地方同様の言語障害が出たと発表がありました。悲鳴と汚染物質との関係を――』










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