第3話 警告
その日の昼は大学構内の食堂で熊田と一緒に昼食を取っていた。
端から見ればオレたちは恋人同士とかに見えるのだろうか……なんて考えてしまうのはこの前の近江との会話のせいだ。
食事に箸をつけつつ、先日熊田に要求された通り、オレは新しく買ったスマホを彼女に見せていた。
最初は熊田はオレの予想通りの反応を見せた。食堂内でゲラゲラと笑うもんだから恥ずかしいことこの上なかった。
そんな彼女は今、
「ふむ……ピンクってことは前使ってた人は女の人かな」
「だろうな」
熊田もやはりピンクで女性をイメージした。実際SIMのメールのやり取りで相手が女だってことは判明しているし。
ただ、女性っぽい名前だったってだけで相手が100パーセント女性だと言う根拠にはならないが……
それから、飯を食いながらオレのスマホを操作して、スペックがどうのとか操作性がどうのとか、あれが良くてこれが悪いみたいな寸評をしていた。
こっちとしては必要最低限の機能があればそれでいいので、そういうのは気にしないタチだ。
「満足したか?」
「うん。それなりに。あ、でも待って。最後に変なサイトブックマークしてないかチェックする」
「おい……言っとくがなにもないぞ。つぅーかお前は――」
お前はオレの彼女か――とツッコミそうになってすんでのとこで飲み込んだ。
これで熊田がマジっぽい反応を返してきたらオレ自身どう反応していいかわからなくなるからだ。
――これじゃあまるでオレが意識してるみたいじゃねぇか。それもこれも全部近江のせいだ。
にしても……女ってのはみんなこういうものなのだろうか?
まあ、偶然オレの周りにいる女がこういう女ばかりなのかもしれないが、初めて付き合った彼女を家に入れたときもそうだったなと思い出す。
いきなり部屋の色んなところを探し回られて、あの時は結局いかがわしい物の隠し場所が見つかっちまったんだよな……
……あれ?
そういえば、そのときは特にそれを咎められるようなことはなかったことを思い出す。
――だったら彼女は一体何を探してたんだ……?
いや、終わったことを蒸し返すのはやめよう。
「ほい。合格!」
「さいですか」
ようやくオレは熊田にスマホを返してもらえた。
それから他愛もない話をしながら箸を進め。それが終わるとオレたちは別々の講義に向かった。
…………
その日のカリキュラムを終えてアパートに帰って来た。郵便受けに入っているものをまとめて掴んで部屋に入る。
大体は興味のないダイレクトメールだったりするんだが、たまに入ってる店のチラシなんかは新聞を購読してないオレにしてみれば役に立つこともある。
一枚一枚適当に流し見。
そんな中、オレの目に一枚の紙が飛び込んできた。
「なんだよ……これ……」
千切ったA4ノートと思われる紙。
そこには赤いマジックで、
――彼女を返せ!!!――
と書いてあった。
書き殴られたその字からは怒りや憎悪といったものを感じる。
だがその内容は意味不明。
「彼女? ……って誰だよ」
普通に考えれば彼氏彼女の彼女って意味なんだろうが、生憎と今のオレには付き合っている女性はいない。以前はいたがその彼女のことを指しているとは思えず、となると考えられるのは。
「間違い。あるいは勘違い」
投函するポストを間違えたパターン。
最近やたらとうるさい個人情報の取扱云々で、アパートのポストには住人の名前が表記されていない。あるのは部屋番号だけ。
だから間違えたってのはあり得ない話じゃない。実際、別の人宛の郵便物が紛れていることはたまにある。
だからって、この紙を持ってアパートの住人に「これあなたのですか?」なんて聞いて回るのは躊躇われる。最悪オレが変な目で見られかねない。
けどこの紙から感じる異様さはある意味では警告とも取れる。
「……ま、いいか」
藪をつついて蛇を出すこともないだろう。こういうのには関わらないのが一番だ。
オレは深く考えないことにした。
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