日記

 私はなぜ逃げてしまったのだろう。

 去ったのは彼女のほうだが、逃げたのは私だ。

 担任になって日は浅いといっても、教師が生徒から逃げるのはいかがなものか。

 

 春川桜子


 理由はわかっている。遥香はるかと似ているからだ。顔つきも笑い方も黒い髪も。

 幼い時分の恋心がいまだにつかえになっているとは、我ながら驚きだ。

 確かに歳も当時の遥香と同じくらいだから、重なるのも頷ける。しかし、中学校の教師としてそれはまずい。遥香とも公園で出会ったからといって感傷的過ぎる。


 それにしても『どうして私を見ているの?』とは。意識していた記憶はないが。

 事実がなんであれ、それくらいは気のせいや自意識過剰で片付けられなくては。

 酔ってきた。


 もう寝よう。


 また、あの公園で会うとこがあれば答えるとしよう。


 君が初恋の人に似ていたからと白状でもすれば満足するだろう。



 ああ。冴えない俺が口にすれば彼女は途端に興味をなくしてしまうに違いない。

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