第7話 俺んちの嫁

例7 悪いやつらは、金持ちを常に狙っているという話


もしも、と俺は考える。

もしも嫁が俺に毒を盛っているとしたら、

いよいよ効果が表れ始めたのではないかと思うのだ。


食道や胃や、肝臓が痛い。

胸焼けがする。

げっぷばかり出る。

気持ちが悪い。

痩せてきた。


『お義父さん、血圧が高いのだから

揚げ物なんてダメですよ』


娘の買ってきてくれたアジフライは

捨てられた。


俺は聞いた。


『魚くさい』


魚屋でパートをしている

娘が帰った後、

嫁がそう言うのを聞いた。


そしてアジフライを、ゴミ箱に

捨てるのを俺は見た。


悲しい。

くやしい。

にくい。


妻よ何故、お前は死んだ。


お前と2人、幸せだったのに。


お前が急逝して俺はこのザマだ。


住み慣れた家は


たしかに俺一人には広すぎた。


だけど、俺の家だ。


俺が35年ローンと退職金で払い切った

俺の人生そのものだ。


それなのにこの嫁ときたら

耐震不足だとか

お義父さんが心配だとか言い出した。


なんのことはない。

この嫁の狙いは

新築の大きな家に住むことだったのだ。


俺の家は取り壊された。


そしてこの家を建てた。

俺の部屋はなかった。

毎日、客間に寝ている。


そんなバカな事があるか。

その上、日々殺されようとしているのだ。


みすみす死にたくない。

なぜこんな女に俺の財産を盗られなくてはならないのか。


俺は考えている。

なんとか、この嫁を殺せないか、と。

なんとか、この嫁を追い出せやしないか、と。


ところが俺には自由がない。

出歩くことを制限されている。

信じられないだろうが、本当だ。


まず、金を全部嫁に取られた。

へそくりはある。

だけど、それは死ぬまで嫁に知られたくない。


嫁によるいびりを息子に言っても信じない。

認知症扱いをされ、医者につれていかれた。

もちろん、俺は医師に聞かれたことに全部正しく答えられた。


だから言ってやったんだ。

『ざまぁみろ、馬鹿野郎。俺は東大卒だ。

お前なんか、田舎の聞いたこともない大学を出ているくせに。

どうやって息子をだましたんだ』と。

そうしたら、それを『暴言』と診断され、

軽い認知症との診断が下った。


・・・その晩の食事は、たぶん、虫と、砂が入っていたと思う。

庭の雑草を入れたのだと俺はわかった。

嫁にとっては雑草でも、俺にとっては全部名前がわかる庭に生える草だ。


許せない。

誰かに嫁を殺してもらいたかった。

だから俺はある日、スマホから闇サイトに殺人依頼をした。

嫁の名前、携帯番号、メールアドレス、全部相手に教えた。

謝礼は500万円。

Mr.Tと名乗る男は、ゴミ出しに出た嫁を車で誘拐して、殺害後、富士山のふもとに

遺棄してくれるという計画を話してくれた。

なにせ、嫁という女は、どこにも行かないから、

ゴミ出しの時くらいしか、チャンスはない。


その時に、すぐに嫁は気を失うらしい。

そうしたら、そのすきに、俺はMr.Tに謝礼を支払う。


決行の月曜日の朝、可燃ごみの日だ。

俺は畳の下から、五束を出す。

そして、それを布袋に入れて、

腹巻の中に入れた。


その朝、嫁は同居後、初めて私に干物を焼いてくれた。

こんなに美味しい朝ご飯は初めてだった。

でも、今更遅い、と俺は心で嫁を嗤った。


嫁がゴミ袋を持って、外へ出る。


『さらば』


俺は、布袋を出して、ズボンのポケットに入れた。

玄関で靴を履いているその時だった。


俺は心臓が止まったのが、自分でわかった。

そうか・・・、あの干物に・・・。

すべての命が消える前、

嫁の声が聞こえた。


『まぁ、しぶといジジイだったわ』

かすかに・・・。

『よりにもよって、あんたにあたしの殺人を頼むなんてねぇ・・・。

うふふふふ・・・。

次は、息子よ』

『ご依頼通り、富士山に捨てにいきます』

『お願いね・・・』


絶対に息子は殺させないぞ・・・。

絶対に殺させないぞ・・・。


幽霊になって、俺はあいつを守るぞ・・・。

俺は、この嫁を殺すぞ・・・。

殺すぞ・・・、殺すぞ・・・、

ころ・・・。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る