第8話 午前三時の男

午前三時の男につかまったら、

女はもう、普通の暮らしが成り立たなくなる。


この世界はすべて虚無であり、

人生は100億年も前に起きた一瞬の出来事であり、

もう何もかも、地球さえ既に消えた星だとほざくから。


午前三時の男は、寝ている女を尿意で目覚めさせ、

ベッドに戻った時からささやき始める。


『ああ空しいなぁ。

めんどくせえだろ。

すべては終わったことなのに、

あたかも今、やっていることみたいに、

真剣な顔をして、現実という名のフェイクに、

首を突っ込んで、心身を痛めつけるゲームをしているなんてさ。

こんなところ、もうおわりにして、俺と還ろうぜ。

俺と還ろうってば、なぁ、来いよ…』


男は女にエクスタシーを与え、

うっとりとさせる。

ひょいと吸い上げて、宇宙へ飛ばす。

ひゅーっと引いて、女に地球を見せる。


『ほらみろよ、あんな岩にへばりついて、

人間ごっこをしていて、

楽しいかよ。

くるくるくるくる、なんて落ち着きのない星なんだ。

俺は、あそこをもう、ひねりつぶすつもりだ。

なぁ、俺と還ろうぜ。

あんたはいい女だから、新しい星に入れてやる』


男は、優しく、緑色に輝く星に女を連れて行こうとする。


『だめよ、今はまだだめ』


女たちは、なんとか眠りの世界に戻り、

地球に戻って、男の声を聴くまいとする。


しかしまた、午前三時にその男はやってくる。





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