第15話 密航までしなくても……
お昼を食べに、屋敷に戻った。
食堂は、オヤジが船に乗るので、大騒ぎだって知っていたからね。
メイドさん達も、お料理上手だから美味しいものが食べられるんだ。
てかさ、大公になると、本当は役所を持つことになるらしくて、ま、王宮だーな。
したら、そこに調理場が当然のように作られるんだそうだ。
外交儀礼があるからね。
とはいえ、今回俺はそんなの全部放り出して、旅に出ちゃうわけだから、ぜんぜんなにもしないんだけど。
だから、王宮調理人とかの話にはならないし、そのままメイドさんたちに頑張ってもらうことになる。
ま、俺達が旅に出たあとも、ルーの両親がここに住み続けるからね。それでいいんだ。
で、お昼を食べに戻ったら、ケナンさんが訪ねてきた。どうも、昨夜はギルドに泊まったらしい。
急遽、ケナンさんの分の昼食も作り足して貰って、その間に話を聞いた。
ケナンさんが言うには、ギルドが大騒ぎになっていたそうだ。
「なんで俺達がドブさらいをして、ネマラの死体を片付けなきゃならんのだ!?」
って、ほら、例の2人の冒険者が、反乱起したんだそうな。
「受けた契約は果たせ!
お前たちも、ギルドの掟は知っているはずだ!
もう、銀貨を受け取っているだろうが!」
ハヤットさんが、それを正面から爆砕する。
で……。
「朝から晩まで、高いところに登ったり、薬草を選別したり、挙句の果てに下水路の奥でドブさらいをして、ネマラの死体を片付けして、もう俺達、シルバークラスになれるかもっていうのに、なんでこんなことに……」
「シルバークラスに相当する銀貨を吹っかけただろう?
それが受け入れられた以上、働け!」
って、最後はハヤットさんが論破したそうだ。
ケナンさん、「私の出る幕はありませんでした」って笑っていたよ。
で……。
そのあと、ケナンさん、俺達がこの大陸を巡っていた30日の間の、エフスの状況を報告してくれた。
ダーカス近辺からの水路の掘削、もうすぐ終わるそうだ。
で、農地の拡大、あまりに順調。
ただ、来年の種子が大きく不足しそうなので、大変なんだって。できるだけ疎植にして、一株を大きくして、たくさんの収穫と大量の種を取ろうって画策しているらしい。本当に、1年でできることってのは限界があるよね。
こういう言い方が正しいか判らないけど、豊かさがまだまだ細いんだよ。
あと、サヤンがいなくなってから、エフスはとても平和だと。
ま、そりゃそーだ。ケナンさんの実力見ちゃえば、まずは、一歩引くよ。
マランゴさんも、大工仕事にキリが付きつつあるけど、エフスに工房を構えたいって言ってるそうだ。
サフラ出身者が多いから、仲間に困らないらしい。
マランゴさんが、ダーカス国内に定住してくれるなら嬉しいな。
またじっくり話したいしね。
エフスの公共浴場も完成間近で、ケーブルシップの定期便でダーカスに来て風呂を覚えた人達が、とてもとても楽しみにしているそうだ。
で、そのエフスの公共浴場、ケナンさんのパーティーの魔術師のセリンさんが支配人に内定だって。
お湯の管理は魔法だし、女湯の管理を男性支配人がするのもどうかって。
で、エディ出身でレンジャーのジャンさんは、エディとの国境の
で、エフスの湧水を居住区の高さまで上げる水車も順調に設置されていて、畑の潅水も随分と楽になってきているんだそうな。
日常生活では、水を汲み上げる労働はもうないってさ。
ん……、あれっ?
「あれ、弓使いの凄腕のアヤタさんは?」
って聞いたら、ケナンさん、露骨に目を逸らした。
「なんでよ?」
そりゃ、ツッコむよね。
ちょいと誘い受けの気もしたし。
「いえ、まあ……」
「ケナンさん、言ってくんないと解らないよー?」
「アヤタは、いなくなりました。エフスから……」
「それ、大問題じゃん!
探しに行かないと!」
「いえ、いいんです」
「良くないよっ!」
「いいんです」
ルーが俺の腕を抑えた。
「ケナン、ひょっとして、そういうこと?」
ルーが聞く。
……なんだ? そういうことって。
「そうなんです……」
「歓迎します。
最初から、普通に言ってくれればいいのに……」
「本当に、お言葉、感謝の極みです」
だからなんなんだよー。
ルー、話してくれた。
「アヤタ、トーゴで待ち構えていて、船に乗せろって直談判する気でしょう。
ダメだと言われたら、密航するつもりですよ」
「えっ、なんでよ?
そんなことまでしなくったって、アヤタさんなら大歓迎だよ!」
思わず、そう口から出た。
それに対して、ルーは妙に冷静。
「パーティー・リーダーはケナンですからね。
ケナンのパーティーとしてエフスの開墾の指揮をしている以上、任務中の離脱は不義理になっちゃうんですよ。
おそらくアヤタ、悩んだ挙げ句、結局ケナンに言い出せなかったんでしょうね。しかも、ケナンのパーティーを抜けたいわけじゃないから、余計どうしていいか判らなかったんでしょうね」
そっか。
仕事中に、他社の仕事が面白く見えちゃったのと似てるかなぁ。
しかも、今の会社も大好きで、ってことだよね。
勝手な行動とは言えるけど、雇用関係じゃないし、そんな風に考えちゃうこともあるんだろうね。
「ケナンさん、ケナンさんはどう考えてる?」
そう思わず聞いたけど、ケナンさんの答え、迷いがなかった。
「アヤタを連れて行ってやってください。
アヤタのこういうのは、実は初めてじゃないんです。
でも、アヤタが必要だと思って起した行動は、あとあと効いてくるんですよ。
結果として、何度も助けられています。
そもそもですが、このケナンのパーティーは、この大陸でミスリルクラスまで登りつめています。
将来、この大陸と他の大陸との間になにか問題が起きたら、我々になにかの仕事が頼まれるかもしれません。エフスを治める、今の立場を超えるような事態だって想定されるのです。
情報は、いつだって大切です。アヤタには、『他の大陸を見てきて欲しい』と、そう伝えてください」
そか。
そういう可能性、確かにあるよ。
それに、ケナンさん、微塵もアヤタさんを疑ってない。
いいなぁ、仲間って。
ケナンさん達を見ていると、いつもそう思うな。
昼食後。
エキンくんがやってきた。
俺がいなくなったあとの、ダーカスとトーゴの
とりあえず、ダーカス国内の
サフラとの国境近くに新設している
これで、完動するものができれば、エキンくんも一人前だ。
「それでなんですが、私も1人、部下を持ちたいのです」
ほお、人が欲しいかぁ。
「そうだな、俺がいなくなったら、エキンくんの双肩に掛かっている。
好きにしたらいい」
「そうなんです。
私が仕事しないといけないのですが、
自分以外の人のチェックも欲しいのです」
う、それは確かに切実だな。
俺だって、失敗したらそこいらじゅう焼け野原になっちまう仕事を、チェックまで含めて独りで続ける自信はないよ。
「よっしゃ、エキンくんの給与を倍にしよう。
その中から、1人雇うといい。
まずは自分と同額でなくてもいいだろうし、指導の分の苦労もあるだろうから、自分の取り分を確保するといい。
それから、だんだん一人前になったら、増やしてやってくれ。
俺が帰ってきて、2人ともいい感じになっていたら、今度はエキンくんに管理職手当を出すよ」
「本当ですか?」
「嘘なんて言わんけど……」
「いえ、そういう意味じゃ……」
「ま、頼みます」
「はいっ!」
とりあえず、エキンくんなら任せても大丈夫だ。
そのうちに、本郷だって来てくれるだろうし、ダーカスは盤石。
サフラから魔術師さん達も来てくれているし、もうなんの憂いもないよ。
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