第2話 成敗(2つの意味で)


 同時刻。

 入浴施設、別の部屋で起きていたこと。

 入浴施設からの帰り道、ルーから聞いた話だよ。

 俺とルー、ルーの両親も一緒だ。

 ここからは、ルーの話したの、そのままだ。



 − − − − − − − −


 ナルタキ殿。

 ナルタキ殿が街の人達に応援されていたころ、女性休憩室のひとつでは、ダーカスの娘たちが、ブルスからの薄布の取り合いをしていたんです。

 私も参加してました。


 その布を王室から頂いて服を仕立てるのにあたり、それぞれが結構違ったんですよ。薄い布といっても単なる薄いだけじゃなくて、文様が織り込まれていたり色も何種類かあって、色の白いとか、褐色の、髪の色とかで似合う似合わないがはっきりしていたんです。

 なので、みんなほぼ裸のまま、布のやりとりをしていました。

 ただ、まだ服じゃありませんから、素肌にそのまま巻きつけて、ですけどね。

 甘い芋菓子もたくさんありましたし、お風呂の余熱で部屋は暖かいし、来春から夏にかけて仕上がりも予想できて、みんなそれはそれは楽しそうでした。

 


 そこで事件が起きました。

 商人組合長のティカレットが、他の人と同じく風呂に入りに来ました。でも、ティカレットは、ここのお風呂に完成後に来たのは初めてだったみたいで、施設内をうろうろしているうちに私たちの騒ぐ声を聞きつけたみたいです。

 それで、あいつ、私たちの部屋を覗いたんです。

 舞い上がったティカレットは、「ここは天国か」とか口走ってしまったので、私達全員が気がつくことになりました。

 

 「誤解だ!」

 と、これがティカレットの言い分でした。

 ナルタキ殿も誤解だと思われますか?

 そうですね、おっしゃるとおりです。誤解なわけがありません。


 私たちは、みんなティカレットの被害者です。

 みんな、多かれ少なかれ、いろいろなことをされています。私も、お尻を触られたのをずっと根に持ってきました。

 「もう、絶対に許さない」と、これが私たちの総意でした。

 もう、みんなでその場で相談するなどという必要もありません。


 ナルタキ殿、レイラを覚えていますか。

 レイラは、私と同じ「豊穣の現人の女神」の一人です。ヤヒウを飼っている娘ですよ。

 そこには、そのレイラも学校の先生のユーラもいました。「豊穣の現人の女神」が3人とも揃っていますから、なんらかの宣告を下すこともできます。


 私たちは、ティカレットを逃さないようにこやかに部屋に迎い入れ、そして、監禁しました。

 最初は相好を溶けそうなほど崩していたティカレットが、泣き叫ぶまで一瞬でした。

 私たちが、なにをしたかですか?

 脅しただけですよ。

 あくまで、ね。


 布を束ねていた紐がありましたから、それを使ってみんなでティカレットを縛り上げました。

 私が、決を下しました。

 「商人組合のティカレット。

 その方、仕事以外において、ダーカスに仇なすことが多すぎる。また、豊穣を司る女というものを、劣情をもって見ることしかできないのか?

 その行為、あまりに見ておれぬ。もっと仕事に力を注げるよう、雑念の元を断つ。

 レイラよ。

 この男を去勢してしまえ!」

 ってね。

 

 レイラは、毎年ヤヒウが生まれる季節に去勢をしていますからね。

 手慣れたものです。

 ユーラが、みんなに的確な指示を飛ばしました。

 ティカレットは暴れましたが、その指示のおかげで逃げ出されることはありませんでした。

 ティカレットは再度別の形に縛り上げられ、レイラが去勢のための道具を取り出しました。

 「大丈夫だよ、痛くないー。

 オスの子ヤヒウはみんな通る道だからねー。もう、大人なんだから泣かない泣かない。

 暴れると却って痛いし、別のところから刃が入ると、血が止まらなくなったりするからねー。

 さ、一思いに2つとも取っちゃいますからねー」


 ティカレットは泣き叫びました。

 私たちは、うるさいので彼の口に、芋菓子をつっこんで、猿ぐつわを掛けました。

 私たちは、それを見てそろそろいいかなって思いましたが、レイラはもうひと押ししました。


 あれっ、ナルタキ殿。顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?

 聞きたくなかったですか?

 父上、あなたも顔色が……。

 あ……、それでも聞いておきたいと。

 わかりました。


 血止めの革紐を手に巻きつけたレイラは、ティカレットの耳元でこう囁いたんです。

 私、彼女のことを、あんな色っぽい声を出す娘とは思っていませんでしたよ。

 「……今年だけで50匹分、100個の玉を取ったんですよ、私。

 人のは初めて取りますけど、おんなじ構造なんですねぇ。

 私、人のを取るのは初めてです。

 私にとって、最初と最後、合わせて2つ、いただきますね。

 あと、取ったあとの玉は余りに可哀想なので、普通は埋めて、そこに乳を注ぐ儀式をするのです。でも、あなたはあまり可哀想じゃないので、目の前で踏み潰しましょうか?

 それとも……、茹でてから、食べさせてあげましょうか?」

 母上、笑い出しましたね。

 そうです、本当に可笑しかったですよ。

 でも、そのときは笑っちゃったら台無しですからね。みんな、微笑みを顔に貼り付けて、でも噴き出さないようにするのに大変でした。

 

 ティカレットはここで気絶しました。

 白目をむいてましたよ。

 私たち、ティカレットを縛った紐を解き、猿ぐつわもはずして、男性用の風呂の前に彼を放り出してきました。

 あ、もちろんですが、取りませんでしたよ。

 レイラだって、ヤヒウの仔ならともかくあんなののは見たくもないって、実際には触りもしませんでしたからね。


 えっ、今日、ティカレットを見ていないんですか、ナルタキ殿。父上も?

 じゃあ、入浴しないで逃げ帰ったんですね。

 えっ、入れるわけあるかって?

 えっ、たぶんもう使い物にならないって?

 大丈夫ですよ、ティカレットですからね。10日もすれば懲りずに復活しますよ。でも、復活したらまた、レイラが止血紐持ってティカレットのところに行くでしょう。


 えっ、ナルタキ殿、怖いですか?

 言ったじゃないですか。

 ダーカスの女は強いって。

 おもちゃ扱いされたから、おもちゃ扱いしてやったんです。

 でも、大切にしてくれる人は大切にしますよ。

 ねぇ、母上?



 − − − − − − − −

 

 母娘の可笑しそうに笑う声を聞きながら、俺は戦慄していた。

 横を歩く、ルーの親父から感じる圧が弱い。

 初めてだ、こんなこと。

 それにひょっとして、いくらか内股になって歩いているんじゃないか?


 牧畜と去勢はまぁ、切り離せない関係だろう。

 ダーカスでは、基幹産業だ。

 レイラの言うことに嘘はないのだろうけど、だからこそ怖い。


 で、ふと、聞いてみようと思った。

 「義父殿。

 女性を取っては投げ、ちぎっては投げしていた時分、この怖さは考えずに済んでいたのですか?」

 「な、なにを突然言い出されるのだ?」

 「『始元の大魔導師』様。

 我が背が、そのようなことを言ったのですか?」

 えっ。


 顔面蒼白で圧も消え失せたルーの親父と、にこやかに笑いながら、目だけはらんらんと光っているルーの母親。

 あ、俺、やっちまったか?

 いいや、もう。

 それこそ、倍返しだよ。



 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


ようやく、スケベオヤジを成敗できました。


昨夜、イメージアートを頂きました。

第一章5話のルーです。

可愛いですよ。


https://twitter.com/RINKAISITATAR/status/1333072632242085902

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