第34話 最後の国
ブルスの港、すでにあるってのがすごいよね。
ダーカスだって1から作ったし、リゴスだって情けない感じだった。
で、革を貼ったとても小さい船、いやボートが何艘も浮かんでいる。
ただ、そんなボートでしかないから、港はあってもダーカスの船とは高さが合わない。ボート、水面から30cmで船べりだからね。
てかさぁ、そもそも潮の満ち引きをカバーしきれてないだろうな、この桟橋の高さ。
潮が満ちたら、絶対に沈んじゃってる。
でも、まぁ、今の潮の加減は、階段みたいな踏み台で対応できる高さだよ。
港には、ブルスの国王夫妻を始めとして、王宮の人達が出迎えに来てくれていた。
そして、相変わらずここの人達は冬でも薄着というか、エディから来ると、しみじみと暖かい。これなら、民族衣装みたいのが薄手になるの、解るよ。
王様が船から降りて、あいさつをしている。
俺も行かなきゃだけど、その前にブルスの街を見渡す。
うーん、基本はエディに似ているけど、大きな違いがいくつかある。
青と緑が多い。
建物の壁、華やかな青に塗ってある家が多くて、それから、街中に樹木が多い。
ただ、大木というよりも、蔓みたいだけどね。
共に、今までの3国にはない特徴だな。
それから、例によって半球を組み合わせたような屋根があるけど、リゴスとエディは半球を積み上げていく感じの建物が多かったけど、ここでは半球を横に並べただけの感じの建物が多い。つまり、高さがない。
もしかたらだけど、南の国だから、夏とか台風が来るのかも知れないね。
まぁ、この世界では、台風だか、サイクロンだか、ハリケーンだかなんと呼ぶかは知らないけれど。あと、これ、バイクの話じゃねーぞ。
街を見渡せて満足したので、俺も船から降りる。
ブルスの王様とあいさつして、王妃様ともごあいさつ。
で、表情、違うなぁ。
王妃様、ダーカスに来たときは、なにかあった場合には、ブルスの王様の身代わりに身を挺する覚悟できていたらしいからね。表情がやっぱり硬かった。
でも、自国にいると、こんなに柔和な顔なんだ……。
ルーみたいなシャープな感じじゃないけど、これはこれで美人だなぁ。って、これは不敬でした。
でも、民衆の支持ってのは得やすい人だと思うよ。親しみ深さってのは、絶対に国民の評価項目にあるはずだもん。
で、ふと不思議に思った。
「ルー、他の国はみんな王妃様、顔を出さなかったけど、なんでブルスだけは王妃様が横にいるの?」
ダーカスだってそうだ。
俺、ケロ□軍曹の王妃様にはごあいさつを2回ぐらいしただけで、ほとんど会うことがない。
「豊穣の女神を信じている国では、既婚の男性と女性の壁がとても高いんですよ。
未婚であればまだしも、結婚してからは外に出歩くなんてことはタブーです。
もっとも、街で普通の生活をしている人達は、奥さんになった人も働かないと食べていけませんから、なんだかんだ言って出てきますけどね。でも、王妃様ともなれば、もう、絶対出てきません」
ああ、それはなんとなく解っていたよ。
「それに対し、ブルスでは豊穣の女神を信仰し始めたのって、割りと最近なんですよ。それまでは海神様を信じていましたし、今でもかなりの人が信じ続けています。
海神様は、そのあたり、あまり厳しくないみたいですね」
ふーん。
そういうもんなんだ……。
「まぁ、あんまり閉じ込めちゃ可哀想だよね、女性を……」
と、思わず口からでた。
「でも、閉じ込めておかないと、お世継ぎの血筋が間違いないという証明ができませんから……」
「ああ、そういう……。
じゃあ、お世継ぎができれば、出てきてもいいじゃん」
「『始元の大魔導師』様、そのあとでも、王妃の不倫の噂でも立ったらその国のメンツは総潰れですよー。
大変なことになります」
「逆に、王様の不倫はいいの? って、ああ、豊かな時代には後宮を持ててたんだっけ、王様」
「王様の不倫って、すごく新鮮な響きを持つ言葉ですねぇ。
でも、もしかしたらこの先、エディではそういう問題になるでしょうね。
女王様は、お年頃になっても閉じ込めておくわけにはいかないですからね。で、夫になる人が、あちこちに不倫して歩いたら……。
これは、男の人でも閉じ込められますねぇー」
なるほど。
性差の問題ではなくて、王家の問題なのかな。
ま、大変だ、王様とその家族は……。
「ルーはどうなるん?
俺が大公とか、王様に準じるようになったら、閉じ込めとかないといけないのかな?」
ま、ルーは、そんな生活、耐えられないだろうなぁ。
「『始元の大魔導師』様、すべてが終わったら、船で旅に出るんでしたよね。
私、どこまでも付いていきますからね。
そうすれば、閉じ込められなくて済みますから」
「やっぱり、ルーは嫌なんだな、閉じ込められるの」
「閉じ込められるのが好きというか、将来の夢になっている女性もいますよ。
まぁ、それはそれで良いんじゃないでしょうか?」
「こら、話と視線を逸らしたな。
白状しろ」
「分りましたよ」
ルー、ため息をつく。
「『閉じ込められるのがいい』って言わないと、『お嫁さんになりたくない』みたいに取られるんです。
『閉じ込められるのはいや』っていうのと、『お嫁さんになりたい』は、両立しないんですよ」
「……なるほどなぁ。
って、俺の嫁!?」
俺、その語感に一気に頭に血が上った。
当然のことだけど。
あまりに当然のことだけど。
初めて、妙に実感が湧いたぞ。
ルー、不思議なものでも見るような目付きで、俺を見るのはやめろぉ!
− − − − − − − −
例によって、今晩は晩餐会。
なんか、話によると、海産物がブルスの料理の特徴らしい。
まぁ、それぞれの国の首都で、海に面しているのって、ここだけだもんね。
でも、さっきの見たあのボートで漁をしているんだとしたら、それはそれは大変だろうねぇ。
で、どうやってるのか聞いたら、地引網だって。あのボート数隻で、網を陸から海に半円形に張って、その両端から浜に引っ張り上げるんだそうだ。
結構な重労働らしいし、漁獲量も安定しないと。
でも、この世界の羊に相当するヤヒウに頼りっきりにならなくて済むのは大きいんだそうな。ま、それはとても良く解る。
あとで、定置網について話してみよっと。
ルーと行った漁協の食堂は、定置網漁見学もやっていたんだよね。
むかーし、そこで構造は聞いたことがあったんだ。
晩餐会、やっぱり素朴なお料理。
どこも、食材の種類の制限は大きいなぁ。
味はとてもいいのに、そこが残念。でもさ、仕方ないと思う。
来年はダーカスから供給された種子が蒔けるから、一気に豊かになると思うけど、それでも数を揃えるのはしばらくは大変だろうからねぇ。
魚も、地引網でこの人数の晩餐会に使う食材を揃えるのって、とても大変だと思う。運が良くて、魚群が1つ紛れ込みでもすれば別だけど、そうでなければ特大の魚の切り身にするか、鯵を100匹用意するか、という話になってしまうからね。
船が大きくて、沖まで魚を追えるアドバンテージはでかいよ。
ともかく、魚のローストは美味しかった。
赤くて、背中の尾びれの近いところに、黒い点のある魚。
ご飯が欲しくなったよ。
で、コースの最後、お皿に茹でた芋を敷き詰め、ヤヒウの肉を焼いたものを乗せ、それにソースとヨーグルトを掛けたものが、素晴らしく美味しかった。
ブルスの名物料理なんだってさ。
ちょっとの組み合わせの差でも、お料理の味わいって変わるもんだねぇ。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
赤くて、背中の尾びれの近いところに、黒い点のある魚。
ヒメジ。
ブルスの名物料理。
イスケンデル・ケバブ。写真のはパンで作っていますが、ご飯で作ることもあります。
参考までにー。
https://twitter.com/RINKAISITATAR/status/1330773777165082624
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