第33話 和解、出発
王様、ヴューユさんとのやりとりについて、俺たちに説明してくれた。「つまりは、そういうこと」の意味だ。
「軍事同盟を結びしのち、エディがリゴスに攻め込んだとき、ダーカスが援軍の兵を送ると思うか?」
「送らないでしょうね。侵略側ですから」
ルーが答える。
「では、逆に、軍事同盟を結びしのちに、リゴスがエディに攻め込んだとき、ダーカスは兵を送ると思うか?」
「それは送るかも知れませんね。侵略されての防衛ですから」
これは俺。
「となると、対リゴスを想定してダーカスと軍事同盟を結ぶにあたり、エディとしては、ダーカスの兵の指揮権を持つ必然がないのだ。
むしろ、ダーカスに指揮権を持たせておけば、リゴスから攻められたとき、援軍の兵を出さないダーカスは信義に
そして、現実問題として被害を受けているのはエディなわけだから、それへの対処としてやむを得ないと言って、こちらの指揮権による命令など無視するつもりだろう。
対リゴス以外では、エディが指揮権を手放すことなどありえぬから、この軍事同盟、うかうかといい気分になっているところに乗せられると、ダーカスにとっては利用され尽くされるだけの目も当てられないことになる。
そして、あの御仁、指揮権の移譲については、エディ国内に対して損得で説明し、『すべてを対等にし、恩義は恩義、返礼は返礼』という言葉で乗り切るつもりだろう。
しかも、この言葉、同盟締結後の裏切りをも内包しておるわい」
つまりさ、トプさんが勝っても負けても、戦ってしまった時点であのじーさんの手のひらの上ってことか。
これって、サフラとの戦争のときもそうだったよな。もっとも、タチの悪さはあのときの比じゃない。
王様、続ける。
「……あの御仁、喰えぬにもほどがある。
さすがはエディのアスラン、自分を餌にここまでのことをしてのけるとは。
そして、事前にそれを読めなかったは、我が不明。
悔やんでも悔やみきれぬわ」
「いや、だめでしょう。
トプが戦わなかったら戦わなかったで、今度は人材のいない腰抜け国家と言われていいようにされます」
うー、ヴューユさんの言うことにも一理ある。
てことは、結局ダメじゃんか。
「それでも、手があるんじゃないでしょうか」
と、ルー。
「ほう、どのような……」
「海運がありますから、将来的な海戦を防ぐためとして、リゴスとも軍事同盟を結んでしまうのです。そして、エディと両方と軍事同盟を結んでいるから、その2国が戦争する場合、ダーカスは中立を保つ、と」
「となると、エディ、リゴスだけでなく、ブルス、サフラとも……」
と、これはヴューユさん。
ルー、説明を続ける。
「ええ、同じように海運の視点からの同盟を結ぶべきでしょう。
ある程度、表面を取り繕って。
そして、恐るべきことですが、前の戦勝からサフラの軍の指揮権はダーカスのものでしょう。エディも、今の話のとおり条件付きで。
リゴス、ブルスも条件の詰め方によっては……」
「世界征服かよ、合法的な……」
「はい、『始元の大魔導師』様。
まぁ、そのような目的を持つこと自体がそもそも不必要ですが、うまくすればエディのアスランの思惑は簡単に超えられるでしょう。
むしろ、ヒントを頂けて良かったかと」
王様、ひどく悪い顔になった。
「よし、では、かのご老人の思惑に乗って、その手のひらの上で踊ることにいたそう。
ついでに……。
他の貿易等の件、トンネルの件、ゼニスの山に設置する
トプの苦労に報いるためにも、戦勝国的な態度でな。
ルイーザよ、感謝する。そして、王宮書記官を呼んでくれ」
「御意」
俺達は、それを機に王様の前から退出する。
あのじーさま、あとからさぞや悔しがるだろうなぁ。海運という視点、たぶんまだないだろうしなぁ。
− − − − − − − −
エディでの仕事、終わり。
各条約の原案はすべてリゴスと結んだ現物を雛形にできたし、エディの思惑はそれはそれとして、今の状況を最大限に利用させて貰ったらしい。
で、すべてがとんとん拍子。
その間に俺は、エディの
船によって運ばれたそこそこの量のコンデンサの結線も終わったし、同じく運ばれてきた荷車もダーカスからエディへの贈り物として渡すことができた。
エディからは、返礼として大量の武器武具類。言いなりになって、軍事同盟も結んだからね。
ま、武器武具類も、あるというだけで抑止力にもなるだろうさ。
それに……、俺が、他の大陸に行くときは、これらのうちのいくつかは心強い味方になってくれるだろうな。
いよいよ出航だ。
俺達、全員船着き場に移動。
エディの技術者さん達はここで置いていくことになるから、人数がさらに減る。あとはブルスの技術者しかいないからね。
武器武具類、結構場所をとる。だから、スペースが空くのはありがたい。
ついでに言えば、やっぱり違うな、エディの武器。
棍棒1つとっても、妙にバランスがいい。なるほどって思うよ。ミスリル
で……。
この感覚、工具に通じるものがある。
ここの職人さん達、農具や工具とか、人の手に馴染ませるものを作らせたらこの大陸中に輸出できるぞ、って思う。
たぶん、絶対的に疲れないよ。良い道具を使うことのアドバンテージってのを、まだこの世界の人は知らない。
最後の最後の出発前だけど、それはエディの王宮の人に伝えて貰ったよ。
見送りに、エディの人達がたくさん来てくれた。
4歳の女王様も、摂政さんに抱かれている。そして、摂政さん、深い黙礼をしてくれた。きっと、エディ内部でのごたごた、そこそこきれいに片付いたんだろうね。
だって、外見だけ見れば、ダーカスを陥れたんだもん。
で、摂政さんは、いろいろ気がついているんだろうねぇ……。
まぁ、4歳の女王様の無邪気な顔を見ているときは想像できないほど、一筋縄じゃいかない国だった。
そして、他の人から頭1つ高く、いるだけで4倍の面積を使っているギュチさんもいる。
「ダーカスのトプよ!
再戦の機会を待っているぞ!」
「エディのギュチよ!
断る!
冗談じゃない。
二度とごめんだ。
勝ち逃げさせて貰おう!」
ダーカスの人達、エディの人達、両方から笑いが起きた。
トプさんの言葉が、あまりに切実味を帯びていたからだ。
たぶんこの切実さが、最後の最後で、ギュチさんとエディの人達の自尊心をも救ったんだろうね。
エディのアスランもいる。
「『始元の大魔導師』殿。
1つ約束せよ。
ゼニスの山を穿った際には、通り初めに参加させよ。
それまで、この老骨、決して死なぬぞ」
「それ以前に、殺したって死なないでしょう?
あなたは」
また笑いが湧く。
火薬の威力を知ったエディの人達は、ゼニスの山を穿つことができることを疑っていない。
ま、この仕事は、俺がいなくなったあと、本郷が引き継いでくれるだろうさ。
「ばいばーい」
女王様のあいさつに、俺達は最敬礼して船に乗ったよ。
まぁ、この国でもいろいろあったけど、よしとしよう。
「ルー、3国が終わって、いよいよ最後のブルスだな」
「どの国でも、いろいろありましたからね。
きっとまた、なにかあるんでしょうけど、『始元の大魔導師』様がいれば、無事に切り抜けられますよ」
「無茶振りすんな」
「トプの勝利だって、『始元の大魔導師』様の作戦じゃないですか?
暴動を止めたのも、『始元の大魔導師』様です。
私は信じて付いて行くのみです」
「そか、ありがとうな」
人目もあるからね。軽くルーの肩を叩くに留める。本当は、ちょっとぐらいぎゅーってしたいけど。
そんな話をしている間にも、船は川を下る。
次はブルスだ。
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